IDATENは、日本の感染症診療と教育を普及・確立・発展させるために活動している団体です。

IDATEN choosing wisely

 

1. 感冒(風邪)に抗菌薬は投与しない

解説:

感冒(風邪)の原因はウイルスであり、抗菌薬治療は無効であるだけではなく、副作用など有害性も懸念される。感冒を適切に診断し、抗菌薬を処方しないことが重要である。一方で溶連菌による細菌性咽頭炎や中等症以上の急性副鼻腔炎など抗菌薬が必要な病態を適切に診断することも重要である(1)。

1. 厚生労働省健康局結核感染症課 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版
2017
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000166612.pdf

 

2. 無症候性細菌尿に抗菌薬を投与しない

解説

無症候性細菌尿とは、尿中に細菌が検出されるが排尿時痛や頻尿などの症状がない状態であり、このような患者に抗菌薬を投与しても臨床的な有用性は得られない。特に高齢者では無症候性細菌尿の頻度が高く(女性で25〜50%、男性で15〜40%)、抗菌薬の過剰投与につながらないように注意する(1)。尿道留置カテーテル使用患者でも高頻度に無症候性細菌尿が見られるが、抗菌薬を投与しても尿道留置カテーテル関連尿路感染症は減らせない。例外として、妊婦や侵襲的な泌尿器科的手術の前には無症候性細菌尿であっても抗菌薬の投与が必要である。

1. Nicolle LE, et al. Clin Infect Dis 2005;40:643-54.

 

3. 経口の第3世代セファロスポリン系、フルオロキノロン系およびマクロライド系の抗菌薬を安易に処方しない。

解説

わが国では、経口の第3世代セファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系抗菌薬の使用頻度が高いことが指摘されている。「薬剤耐性(AMR)アクションプラン」では、経口のセファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系抗菌薬の使用量を2020年には2013年の水準から50%削減することを成果指標として設定している(1)。
これらの抗菌薬を処方するときは、そもそも抗菌薬が本当に必要なのか、さらにその抗菌薬が第一選択なのか熟慮し、安易な処方は避ける。また抗菌薬の必要性や副作用、耐性菌の問題などについて患者に十分な情報を提供する。

1. 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

 

4. 抗菌薬投与前に必要な微生物検査を行う

解説

抗菌薬の使用および選択を決定する際は、必ず感染臓器と原因微生物を想定しなければならない。この際、インフルエンザ迅速検査やA群溶連菌迅速検査などの迅速検査、グラム染色などの塗抹検査、培養・同定・薬剤感受性検査などの微生物検査の必要性を判断し、感染臓器から適切に検体を採取して検査を行うことは極めて重要である(1)。特に細菌塗抹培養検査においては抗菌薬開始前に採取することや、良質な検体(膿性の喀痰や下痢便)を提出することが重要である。また菌血症が疑われる時は抗菌薬投与前に必ず血液培養2セットを採取する。

1. 8学会合同抗微生物薬適正使用推進検討委員会 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス
http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/kobiseibutuyaku_guidance.pdf

 

5. すべての小児に適切な予防接種を行う

解説

すべての小児に対して定期接種、任意接種に関わらず適切なワクチンを適切な時期に接種する(1)。日本小児科学会が推奨する小児に対する予防接種スケジュールが公開されている。
なお、小児だけでなく成人でも予防接種は重要である。特に高齢者の肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンは積極的に接種する。

1. 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール 2016年10月1日版 日本小児
科学会
http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138

 

■経緯と方法




 

Choosing Wiselyとは2012年米国発のキャンペーンで、米国内科専門医認定機構財団(ABIM Foundation)が中心となって始動されました。

http://www.choosingwisely.org/

「根拠に乏しいにもかかわらず実施されている過剰な医療行為をEBMの観点から見直す」ことを目的とし、同じようなコンセプトで世界的な広がりをみせています。「医療における賢い選択」として各国の実情に合わせたものが作成されており、このたび、IDATEN(日本感染症教育研究会)としても作成することになりました。

作成にあたり、以下の方法で5項目を決定いたしました。

【方法】
■感染症に関した“過剰医療、賢い選択”の候補をIDATEN会員より募集
■7440名のIDATEN会員にMLを通じて依頼(2017年1、2月):会員数:2016年12月時点
■提供者にはインセンティブなし
■14項目が集まる
(内科医、小児科医、感染症専門医、総合診療医、クリニック医師、大学病院医師などから)
■IDATEN世話人15名(すべて感染症専門医:小児専門医4名含む)により協議
■Consensus Method:デルファイ法により14項目から上位5項目の合意形成(回収率100%)
  −匿名性、反復性、フィードバック、回答の統計処理
■5項目の文言・解説を世話人全体で検討
■過剰医療への否定形推奨だけではなく(Negative Recommendation)、広く“賢い選択”として肯定的推奨(Positive Recommendation)も含むことに