抗菌薬使用量(AMU)で用いられる分類・単位・指標について
「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」と
「抗菌薬使用量(AMU)」
2016年に日本における「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」[1]が策定され、一般市民、医療従事者ともに薬剤耐性への対策が徐々にとられてきている。「薬剤耐性(AMR)アクションプラン」に掲げられている6分野と目標を表1に示す。
表1 薬剤耐性(AMR)対策の6分野と目標[1]分野 | 目標 |
1 普及啓発・教育 | 国民の薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進する |
2 動向調査・監視 | 薬剤耐性及び抗微生物剤の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の変化や拡大の予兆を適確に把握する |
3 感染予防・管理 | 適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物の拡大を阻止する |
4 抗微生物剤の適正使用 | 医療、畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進する |
5 研究開発・創薬 | 薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物に対する予防・診断・治療手段を確保するための研究開発を推進する |
6 国際協力 | 国際的視野で多分野と協働し、薬剤耐性対策を推進する |
プランには指標が必要で、大きく、①プロセス指標(process indicator)と②アウトカム指標(outcome indicator)に分けられる。抗菌薬使用量(Antimicrobial Usage:AMU)は、アクションプランのどの分野のどの指標と考えられるだろうか。AMUは、主に「2動向調査・監視」のプロセス指標と考えられる。なお、薬剤耐性(AMR)のアウトカム指標は、主に、薬剤耐性菌による感染症の発生数や、薬剤耐性菌の検出数と考えられる。
また、アクションプラン全体を通しての数値目標が成果指標として設定されており、抗菌薬使用量(AMU)の数値目標を表2に示す。
表2 抗菌薬使用量(AMU)の数値目標[1]抗微生物剤の使用量(人口千人あたりの一日抗菌薬使用量) | ||
指標 | 2013年 | 2020年(目標値) |
全体 | 15.8 | 2/3以下(2013年比) |
経口セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライド | 11.6 | 半減(2013年比) |
静注抗菌薬使用量 | 1.2 | 20%減(2013年比) |
抗菌薬使用量(AMU)で用いられる
分類・単位・指標の必要性
さて、ここで用いられている数値(15.8、11.6、1.2)の単位が何であるか、考えたことはあるだろうか。この単位は、「DID=DDDs/1000 inhabitants/day」である。数値は、地域の抗菌薬使用を表す指標で、「使用された量(力価)とDDD(Defined Daily Dose)を用いて住民1000人、1日あたりの使用状況」を示す。さらに、この指標は、国際的な比較にも用いられる。この指標をみて、正直、はぁ~、何それ?って感じではないだろうか。そもそも正しい呼び方がわからない。「DID」は「ディッド」? 「DDD」は、時代は4Kだが、かっこよく「スリーディ」? いや、違う。「DID」は「ディーアイディー」、「DDD」は「ディーディーディー」と呼ぶ。そのままじゃないかという突っ込みはあると思うが、これが正式な呼び方である。
「DID」や「DDD」だけを理解しておけばOKかと思えば、そうはいかない。「DOT(Days of Therapy)」だって重要である。「DOT」は結核患者の直接服薬支援である「DOTS(Directly Observed Treatment Short Course)」とはまったく異なる。呼び方も、結核の「ドッツ」ではなく、「ディーオーティー」と呼ぶ。またそのままじゃないかという突っ込みはあると思うが、これが正式な呼び方である。
抗菌薬使用量(AMU)で使用される分類・単位・指標の正確な理解はとても重要である。なぜならば、正確に理解して使用しなければ正確に比較(他施設・他地域や、自施設における傾向など)できないからである。KANSEN JOURNAL(第74号)で我らが薬剤疫学室の日馬室長が「WHOによるAWaRe分類」を紹介したところである。某編集長からは、「マニアックなテーマだな」と指摘されたが、本号でも、AMR臨床リファレンスセンター薬剤疫学室プレゼンツで、抗菌薬使用量(AMU)で用いられる分類・単位・指標について解説する。
抗菌薬使用量(AMU)の集計に関する
用語集
抗菌薬使用量(AMU)の集計に関する分類・単位・指標を正確に使うために、2019年8月に、AMR臨床リファレンスセンターのウェブサイトに「抗菌薬使用の集計に関する用語集」を掲載したので表3に示す[2]。
この表がすべてである。用語の説明に加えて、具体的な使用例、計算式まで記載しており、手前味噌だが、かなりの出来である。
抗菌薬使用量(AMU)の分類
抗菌薬使用量(AMU)を集計し評価するためには、 ①抗菌薬をカテゴリー別に分類し、 比較のための単位を揃え、③分母情報を加えた指標を設定するの3段階が必要である。今回のKANSEN JOURNALでは、②の単位と、③の指標の解説がメインであるが、①も重要なので、(また某編集長からマニアック過ぎると指摘されるかもしれないが)少し解説を加える。
普段、抗菌薬を分類するとき、どのようにカテゴリーに分類しているだろうか。医薬品であれば商品名、成分名、薬価収載番号など区別する方法は多々あるが、分類には悩ましいこともある。たとえばヘリコバクター・ピロリの除菌に用いられるボノプラザンフマル酸塩/クラリスロマイシン/アモキシシリン水和物の合剤であれば、これをプロトンポンプに分類すべきなのか、マクロライド系抗菌薬に分類すべきなのか、ペニシリン系抗菌薬に分類すべきか、それとも合剤というカテゴリーを作成するべきなのか……セファクロルは第1世代セファロスポリンにすべきか、第2世代セファロスポリンとすべきか……など、分類に迷うものもある。抗菌薬は(他の薬剤も)、国際的にはATC (Anatomical Therapeutic Chemical) 分類を用いて分類されることが一般的である。「ATC」は「エーティーシー」と呼ぶ。また略語か、呼び方もまたそのままか、といった突っ込みも受容する。さて、このATC 分類はWHO協力センターであるノルウェー公衆衛生局によって欧州医薬品市場調査協会(EphMRA: European Pharmaceutical Marketing Research Association) 分類を基に作成・提唱されたもので、化学的性質や、構造、作用部位などによって付けられたコードを使用している[3]。たとえばレボフロキサシンであれば「J01MA12」というコードとなる。これは、シリーズ初となる黒人女性の「007」役が誕生するといわれている映画『007』も真っ青なコードである。さて、このコードをかみ砕くと、次の図1のようになる。
このコードは、「J:全身に用いる抗炎症薬、J01:全身に用いる抗菌薬、J01M:キノロン、J01MA:フルオロキノロン、J01MA12:レボフロキサシン」といった階層構造で分類される。このように、抗菌薬はATC分類を用いて分類されることが一般的である。そのため、どのレベル(1~5)であるかに注意する必要がある。ATC分類についても、もう少し説明したいところだが、本当に某編集長からストップがかかりそうなので、このあたりで止めておく。
抗菌薬使用量(AMU)の単位
さて、ATC分類を用いて正しく分類できたら2段階目の単位の設定に移る。抗菌薬使用量(AMU)を比較するときに、どのような単位を用いて比較するべきだろうか。投与量? 錠数? 重さ? 疾患に対する用量? まさかの直径? 一般的に質量で比べれば公平と思われるかもしれないが、性質の違う薬剤を質量で比較することは難しい。たとえば、一般的な成人におけるレボフロキサシンの1日用量は500mgだが、ミノサイクリンは200mgである。そのため、1日の適切な用量が異なる抗菌薬を、質量によって比較することはできない。そこで登場するのが、冒頭で少し説明した、「DDD」「DOT」などである。これらについて順に説明する。
1.DDD:(Defined Daily Dose)
呼び方:ディーディーディー
DDDはATC分類と同じく、WHO協力センターであるノルウェー公衆衛生局が提唱する単位である[3]。これは、体重70㎏の成人に対する、医薬品の主な適応症の中等症に罹患した場合に1日に用いられる仮想平均維持量である。そのため、実際の臨床現場の推奨投与量とは乖離する可能性がある。設定には制限はあるが、比較するために、「だいたいの基準となる用量」をWHOが設定している。少しマニアックな注意点を加えると、合剤に関しては有効成分となる抗菌薬以外の配合成分量を含んでいるものと含んでいないものがあるため注意が必要である。たとえばアンピシリン/スルバクタムの場合は規格にスルバクタムの量も含まれているため、規格として記載されている量ではなく、アンピシリンのみの量を使用量として算出する。また抗菌活性をもつ成分を複数組み合わせたST合剤(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)などではDDD をユニットドーズ(unit dose:UD)として1UDとする。
具体的な使用例を示す。セファゾリンのDDDは3gと設定されており、病院Xにおいて、患者Aにセファゾリンが1回1g、1日3回、7日間投与された場合、7 DDDsとなる。DDDは、比較的幅広く国際病比較で使用される単位であるが、注意点もある。1つめはDDDは定期的に変更されていくために、比較する際はバージョンを揃える必要がある。使用頻度の高くない抗菌薬のDDDの変更であれば影響は大きくないが、2019年には使用頻度が高い、アモキシシリンのDDDが1gから1.5gに変更となり、DDDを用いた抗菌薬使用量(AMU)のサーベイランスには影響が考えられた。そのため、欧州と日本の公表データを用いてどのくらい影響が出るか推定したところ、影響が大きい国(ペニシリンの使用が多い国)ではスペインが-19.2%、フランスが-19.1%、ベルギーが-18.7%で、影響少ない国(ペニシリンの使用が少ない国)では、日本が-2.4%、スウェーデンが-3.7%、ノルウェーが-5.1%という結果となった[4]。2つめは、小児、高齢者、重症患者など、実際の投与量と設定されているDDDが異なる場合の集計に不向きである点がある。2つめの注意点を解決するために用いられる単位が次に示すDOTである。
2.DOT( Days of Therapy)
呼び方:ディーオーティー
DOTは米国疾病予防管理センター(CDC)の推奨する方法で、用法用量にかかわらず、単純に投与された日数を表す[5]。日数だけなので、小児や高齢者、腎機能障害などなんらかの背景がありDDDと実際の投与量が大きくかけ離れてしまうことが考えられる際に、有効となる。DDDと異なり、DDDのバージョン変更の影響や用量調整の影響を受けない利点があるが、併用された場合はそれぞれの投与日数を加えるため過大評価となったり、投与回数の評価ができないという欠点がある。具体的な使用例を示す。病院Xにおいて、患者Aにバンコマイシンが1回1g、1日2g、7日間、メロペネムが1回1g1日3回14日間投与され、同時に開始された場合は、7+14で21DOTsとなる。
抗菌薬使用量(AMU)の単位の項目の最後に、DDDとDOTの長所と短所について表4にまとめる。
表4 DDDとDOTの長所と短所DDD | DOT | |
長 所 | 集計を使用したデータ比較が可能である | 小児・高齢者・腎機能低下者等の用量が異なる場合にも使用可能である |
他施設、地域間の比較が可能である | DDDの変更の影響を受けない | |
患者レベルのデータが不要である | 1日量を加味しないので適正な増加か判断可能である | |
短 所 | 小児・高齢者・腎機能低下者等の用量が異なる場合不向きである | 患者レベルのデータが必要である |
DDDの変更がある | 併用の場合、過大評価の可能性がある | |
DDDが国内の実績と異なる場合比較が困難となる | 1日用量、投与回数の評価が出来ない |
抗菌薬使用量(AMU)の評価の指標
抗菌薬を正しく分類し、単位も正しく設定できたら、3段階目の分母情報を加えた指標の設定である。注意点は分母情報の設定である。指標の設定に最適解はなく、病院や地域など、設定に応じた指標を用いる必要がある。主なものを説明していく。
1. DDDs/100 patient-days or bed-days
病院などにおいて、DDDを基にした抗菌薬の選択圧を評価する指標のひとつ。ある一定の期間・範囲(病院など)において、使用された使用量(力価)をDDDで換算した(除した)値をさらに、同一期間・範囲の在院患者延数で除して、100を乗じた値である。1000を乗じて、1000 patient-daysと表現する場合もある。この数値を、抗菌薬使用密度(Antimicrobial Use Density: AUD)と呼ばれることもある。具体的な使用例を示す。病院Xにおいて、ある一定期間のメロペネム(メロペネムのDDDは3と設定されている)の使用量が5 DDDs/100 bed-daysであった場合、「病院Xでは該当期間中に3gのメロペネムが投与された患者が100床・日あたり、5人いた」ということを示す。
2. DOTs/100 patient-days or bed-days
“DDDs/100 patient-days or bed-days”と同様に、病院などにおいて、DOTを基にした抗菌薬の選択圧を評価する指標のひとつ。ある一定の期間・範囲(病院など)において、使用された治療日数の合計値を同一期間・範囲の在院患者延数で除して、100を乗じた値である。1000を乗じて、1000 patient-daysと表現する場合もある。具体的な使用例を示す。病院Xにおいて、一定期間のメロペネムの治療日数が5 DOTs/100 bed-daysであった場合、「病院Xでは該当期間中にメロペネムが投与された患者が100床・日あたり、5人いた」ということを示す。
3. DDDs/1,000 inhabitants/day (DID)
呼び方:ディーアイディー
“DDDs/100 patient-days or bed-days”や“DOTs/100 patient-days or bed-days”とは異なり、単一の施設ではなく地域や全国などにおける抗菌薬使用量の指標となる。地域などで使用された使用量(力価)とDDDを用いて、その地域の住民1000人、1日あたりの使用状況を表す。そのため、住民数と日数で除する必要がある。具体的な使用例を示す。日本においてメロペネム(DDD=3)が5DDDs/1,000inhabitants/dayであれば、「日本においては、3gのメロペネムを投与された人が、国民1,000人あたり1日に5人いた」ことを示す。
これらの3つの指標の計算式を図2に示す。
最後に
抗菌薬使用量(AMU)で用いられる分類・単位・指標は今回説明したものだけではない。さらに、今後、新しいものも出てくるであろう。そのため、比較したい状況の特性をよく理解したうえで、適切な抗菌薬の分類、適切な単位、適切な指標を用いることが重要である。さらに、自施設または他施設と比較する場合には、どのような分類、単位、指標(特に分母情報に注意!)が用いられているか、さらにDDDを用いる場合は、どのバージョンを使用されているかなどに着目する必要がある。また、抗菌薬使用量(AMU)で用いられる分類・単位・指標には最適解はなく、それぞれ長所・短所をよく理解したうえで使用する。最後に、ATC/DDDシステムに関しては、WHO協力センターであるノルウェー公衆衛生局が6月頃にセミナーコースを実施しているので、興味がある先生方は参加されるとよい。
【References】
1)厚生労働省. 薬剤耐性(AMR)アクションプラン 2016-2020. 2016. Available from;
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf. Accessed at; 2019年9月22日
2)AMR臨床リファレンスセンター. 抗菌薬使用の集計に関する用語集. Available from;
http://amr.ncgm.go.jp/pdf/190903_glossary.pdf. Accessed at; 2019年9月22日
3)WHO Collaborating Centre for Drug Statistics Methodology.ATC/DDD Index 2019. Available from;https://www.whocc.no/atc_ddd_index/. Accessed at; 2019年9月22日
4)Kusama Y, Ishikane M, Tanaka C, Tsuzuki S, Muraki Y, Ohmagari N. What is the impact of the change in DDD of amoxicillin and amoxicillin combined with β-lactamase inhibitors on nationwide surveillance of antimicrobial use? J Antimicrob Chemother. 2019 Oct 1;74(10):3119-3121.
5)米国疾病予防管理センター(CDC). Antimicrobial Use and Resistance (AUR) Module. Available from;https://www.cdc.gov/nhsn/PDFs/pscManual/11pscAURcurrent.pdf. Accessed at; 2019年9月22日