No. 752019. 10. 16
成人 > Clinical Pictureクイズ

Clinical Pictureクイズ
――グラム染色された血培検体の正体は?

  • 静岡県立静岡がんセンター感染症内科
  • 寺田教彦、倉井華子

    慢性腎不全の患者(68歳、女性)で、入院中に採取された血液培養からに示すような菌が検出された。以下の文章を読んで、このグラム染色から疑わしい菌名を選択肢から選べ。

    症例:68歳、女性
    主訴:発熱
    既往歴:慢性腎不全のために6年前から血液透析中で、糖尿病、心房細動を指摘されている。糖尿病のコントロールは良好で、インスリン製剤の使用や経口血糖降下薬の内服もしていない。約2か月前、突発性難聴に対してステロイドで加療された(プレドニゾロン換算で積算量370mg程度使用)。
    家族歴:母親が腎不全のために血液透析を受けていた。
    現病歴:6年前にA病院で血液透析を導入された。近医クリニックで維持透析をしていたが、シャント不全が出現したため加療目的に当院を紹介受診した。入院2日目に透析シャント不全に対して経皮的血管形成術を施行したが、血流の改善が不十分のため、入院5日目にシャント形成術を施行する方針となった。入院5日目の朝に、悪寒を伴う発熱を認めたため、血液培養が提出された。
    review of systems:陰性症状:頭痛、嘔気、めまい、胸痛、腹痛、背部痛、関節痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、頻尿、排尿時痛、残尿感、下痢、便秘。
    現症:意識清明。身長168cm、体重60kg。体温38.6℃、脈拍106/分(整)、血圧128/68mmHg、呼吸数25回/分。眼瞼結膜に貧血や点状出血なし。頸部リンパ節腫脹なし。咽頭発赤なし。胸部聴診で異常なし。腹部は平坦、軟で圧痛なし。皮疹は認めない。末梢ラインに発赤や熱感は認めない。
    検査所見:血液検査:白血球数4,200/μL、Hb 10.8g/dL、血小板数28.6万/μL、CRP 12.8mg/dL。胸部X線撮影:肺野に陰影なし。

    図 血液培養のグラム染色

    は血液培養2セット提出されたうちの1セット(好気ボトル)で、翌日に培養陽性となりグラム染色をされた検体である。

    【問題文】疑わしい菌名を選択肢から選べ。(選択すると、解答と解説が表示されます。)

    • a.Streptococcus pneumoniae
    • b.Clostridium perfringens
    • c.Listeria monocytogenes
    • d.Bacteroides fragilis
    • e.Acinetobacter baumannii

    正解!正解!

    不正解!不正解!

    正解は c.Listeria monocytogenes

    【経過】
    発熱と悪寒を認めたため、細菌感染症を考慮して血液培養が提出され、セフトリアキソンが開始された。翌日に、血液培養2セット中1セットからグラム陽性桿菌が検出され、主治医に報告された。末梢ライン感染が疑われ、末梢ライン交換とバンコマイシンの投与が追加された。血液培養のグラム染色からはリステリアの可能性が考慮され、頭痛や髄膜刺激徴候の有無の確認をしたが、それらの所見は認めなかった。リステリア髄膜炎では、頭痛や髄膜刺激徴候を発症早期に認めない症例もあるため、セフトリアキソンとバンコマイシンにアンピシリンを追加した。
    発熱後3日目に、頭痛と髄膜刺激徴候が出現し、髄液検査を施行したところ細胞数の増加を認めた。髄液のグラム染色上は菌体の検出は認めなかったが、血液培養から検出したグラム陽性桿菌がListeria monocytogenesと同定されたため、リステリア髄膜炎と診断し、抗菌薬はアンピシリンとゲンタマイシンの併用治療に変更した。アンピシリンを3週間、うち2週間と4日はゲンタマイシン併用で治療した。
    【解説】
    本症例のポイントは、リステリアはグラム染色で外観が変わりやすく、球菌のような形態を取りうる点[2]。また、リステリア髄膜炎では項部硬直の頻度が低く、頭痛を伴わないことがある点である[2]。ただし、本症例の場合は、血液培養を採取した時点では髄膜炎を示唆する所見がなく、血流感染症に続発して髄膜炎を起こしていたのかもしれない。
    L. monocytogenesは自然界に幅広く分布しており、土壌や哺乳類の糞便細菌叢の一部に認められる。感染症は、乳児や高齢者、妊婦、細胞性免疫の低下している患者で起こしやすいとされる。本症例では、高齢の透析患者であるとともに、突発性難聴のためにステロイド投与歴が確認された。ステロイドや免疫抑制薬の使用は細胞性免疫の低下をきたすことが知られており、リステリア髄膜炎の一因となった可能性がある。
    感染経路は、周産期の感染症を除くと、汚染した食物の摂取である。摂取日や原因の食事内容が特定されることが多いわけではないが、過去の報告上は摂取から発症までの期間は11-70日と幅があり、平均値は30日程度である。本症例も、2-3週間前に乳製品を摂取したとのことであり、乳製品が原因だったのかもしれない。
    50歳以上の成人髄膜炎では、髄膜炎のエンピリカルな治療で、肺炎球菌や無莢膜型インフルエンザ桿菌やB群連鎖球菌(GBS)のほかに、リステリアのカバー目的にアンピシリン投与が推奨される。
    リステリア髄膜炎は、血液培養の陽性率は高いものの、髄液のグラム染色では陰性のこともある。また、グラム染色ではgram-variableといわれ、連鎖球菌や腸球菌と間違えられることもある[1]。本症例のように、一部陰性菌のように見えることもあるため注意が必要である。
    リステリア髄膜炎の治療は、アンピシリンが第1選択薬と考えられている。また、in vitroや動物モデルのシナジー効果に基づき、髄膜炎ではゲンタマイシンの併用を推奨する専門家が多い。治療期間は、アンピシリンは3週間の投与だが、必要に応じて延長することもある。ゲンタマイシンの併用は、患者の状態が改善するまで行われることが多く、おおよそ1-2週間程度であることが多い。ペニシリンアレルギーでは、ST合剤が用いられる。
    最後に、食品媒介性のリステリア症を予防するために注意すべきことを記載する。前述のように、L. monocytogenesは自然界に幅広く分布しており、土壌や哺乳類の糞便細菌叢の一部から検出される。そのため、生野菜や低温殺菌のされていない生乳、魚、鶏肉はL. monocytogenesに汚染されていることがあり、健常人でも感染して胃腸炎を起こすことがある。食品媒介性のリステリア症を予防するため、米国CDCは、動物由来の生肉は十分に加熱すること、生野菜は摂取前に十分に洗うこと、調理前の生肉を他の食材の近くに置かないこと、生の食品に触れた後は包丁やまな板、手を十分洗うことなどを推奨している。また、細胞性免疫の低下している患者、高齢者、妊婦では、ソフトチーズやアオカビチーズを避けることなどが勧められている[3]。

    【References】
    1)Nieman RE, Lorber B: Listeriosis in adults: a changing pattern. Report of eight cases and review of the literature, 1968-1978. Rev Infect Dis. 1980 Mar-Apr; 2(2): 207-27.
    2)Mylonakis E, Hohmann EL, Calderwood SB: Central nervous system infection with Listeria monocytogenes. 33 years' experience at a general hospital and review of 776 episodes from the literature. Medicine (Baltimore). 1998 Sep; 77(5): 313-36.
    3)Centers for Disease Control and Prevention: Listeria (Listeriosis) - Prevention.
    https://www.cdc.gov/listeria/prevention.html 
     

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