肺炎球菌感染症(2/3)
今号は3週連続で配信しています。 1号目
臨床像
肺炎球菌感染症で代表的なものは肺炎と髄膜炎ですが、その他にも様々な臨床像を呈します。
肺炎球菌は上気道に定着しうる菌であり、保菌者や肺炎患者との濃厚接触によって、飛沫や接触を介して曝露します。上気道では副鼻腔炎や中耳炎、乳突炎を起こし、下気道を通り肺胞まで到達すれば肺炎を起こします。慢性呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患〔COPD〕や喘息など)を有する患者では、その急性増悪や気管支炎の原因になります。
髄膜炎は、中耳炎や乳突炎、副鼻腔炎などの感染を基礎に、脳底部へ進展して発症しますが、肺炎などに伴う菌血症から二次性に発症することもあります。
菌血症の合併は、肺炎や髄膜炎に伴うものが多いですが、時に感染巣がはっきりしない菌血症を起こすことがあり、心内膜炎や心外膜炎、関節炎などを起こすこともあります。その他、肝硬変患者における特発性細菌性腹膜炎、子宮・卵管炎、皮膚軟部組織感染症の起炎菌にもなります。
肺炎の診断
肺炎は肺炎球菌による感染症の中で最多であり、引き起こされる炎症反応が強く、派手な臨床像になりやすい傾向があります。肺炎の場合は、肺胞に侵入した菌が惹起した炎症に伴い多量の滲出物を生じ、Kohnの小孔を通じて隣接した肺胞領域に広がっていく大葉性肺炎のパターンを取ることが多く、比較的末梢の肺胞領域から炎症が起こることから胸膜に炎症が及びやすく、胸膜炎をしばしば合併します。急性の(突然の)発熱、悪寒戦慄、咳嗽、膿性痰、胸痛、呼吸困難が典型的な症状ですが、高齢者や免疫不全患者では発熱が見られない、膿性痰が目立たないなど、非典型的な臨床像を取りやすいこともあるため注意すべきです。
1.画像所見
肺炎球菌は、クレブシエラやレジオネラと並び、大葉性肺炎の代表的な起炎菌です。胸部X線写真やCTでは典型的に、非区域性の浸潤影、air bronchogram、胸水貯留が見られます。肺膿瘍や壊死性の変化は比較的まれであり、その場合は嫌気性菌などの混合感染の可能性があると言われています。
大葉性肺炎の所見が得られれば、肺炎球菌を想定するのは容易です。しかし、実際は高齢者や免疫不全患者では気管支肺炎のパターンを取ることもあり、慢性呼吸器疾患患者では肺野に陰影をきたさない気管支炎を起こし得ます。画像所見の詳細な評価は起炎菌の推定の一助にはなるものの、大葉性肺炎でないことを理由に肺炎球菌の関与を除外することは避けるべきです。
2.喀痰グラム染色
肺炎球菌はグラム陽性球菌であり、卵型もしくはランセット型と言われる楕円形の菌体が横長に2つ連なっている双球菌のパターンが典型的で、莢膜があるため菌体周囲が不染帯として抜けて見えます。多数の多核球を背景に、単一に多数存在するこれらの所見を見つけることができれば、肺炎球菌と自信を持って診断できるでしょう。
しかしながら実際の現場では、典型像の理解のみでは判断に困ることがあります。先ほどのグラム染色の所見はスムース型の菌で見られるものですが、必ずしも双球菌に見えるわけではなく、多数連鎖していることもあり、莢膜が見えないこともよくあります。また、ムコイド型の肺炎球菌(図)の場合は、菌体はむしろ正円形に近く、多数の連鎖がよく見られ、周囲にピンク色のムコイド膜が見えます。「これ本当に肺炎球菌?」と思ってしまうほど、典型像と似ても似つかない形状を示すことがあるため、判断を誤らないためにも非典型的な所見にも慣れておくべきかと思います。
2014年に本邦で報告された市中肺炎(community-acquired pneumonia;CAP)におけるグラム染色の有用性の検討によれば、グラム染色で肺炎球菌と同定した場合の肺炎球菌肺炎において、感度62.5%、特異度91.5%、陽性尤度比 7.38でした[1]。これはグラム染色が肺炎球菌肺炎の診断に大きな助けになることを支持する結果です。
3.培養検査
肺炎球菌は培養検査で生えにくい菌であり、血液培養で肺炎球菌が陽性であった肺炎球菌肺炎症例の半数で、喀痰培養は陰性であったという報告があります[2]。培養で生えにくい理由として、オートリシン(autolysin)という自己融解酵素を放出することや、α溶血性であるためコロニーの釣菌の段階で口腔内のα溶連菌と時に区別が難しいこと、抗菌薬の前投与によって容易に菌が死滅してしまうことなどが挙げられます。肺炎球菌肺炎における血液培養陽性率も高くないため、培養検査では肺炎球菌肺炎と診断できないこともあります。喀痰培養が陰性であっても,安易に肺炎球菌の関与を否定しないことが重要です。
4.尿中肺炎球菌抗原検査
尿中肺炎球菌抗原検査であるBinax NOW Streptococcus pneumoniaは、現在の肺炎診療で広く使用されるようになっています。検体として採取しやすい尿を使用し、かつ迅速に(約15分間)結果が判明することが利点です。
肺炎球菌肺炎における診断特性はこれまで多数の検討がなされており、全体として感度70~90%、特異度80~100%です[3]。患者背景やreference standardがそれぞれ異なっており、例えば全症例中の血液培養陽性例が比較的少ない報告では、感度70.5%、特異度96.1%であり[4]、菌血症をreference standardにした報告では感度82.2%、特異度97.2% でした[5]。非菌血症症例では感度が低い傾向にあり、尿中抗原陰性をもって肺炎球菌の関与を否定するのは難しそうです。
特異度と陽性尤度比はいずれの報告でも高く、喀痰グラム染色や培養検査で同定が難しい肺炎症例では有用と考えられます。ただし、肺炎球菌の気道へのcolonization、最近の既感染(感染後数週間~数か月間は陽性になりうる)、肺炎球菌ワクチン接種直後(7日以内)がある場合は偽陽性になりうるため、注意が必要です。
なお、尿中抗原検査では感受性結果は分からず、治療効果判定にも使用することはできないため、喀痰グラム染色や培養検査の重要性は変わらないことを強調しておきます。
髄膜炎の診断
肺炎球菌は本邦の成人の髄膜炎の起炎菌として最多であり、特に高齢者で頻度が高くなります。死亡率は20~30%とされ、神経学的後遺症を残しやすい、肺炎球菌感染症では最も重篤な病態であるため、迅速な対処が必要とされる「内科エマージェンシー」です。
典型的な症状は急性の発熱、頭痛、意識障害ですが、3徴候がすべてそろうことは少なく、項部硬直やKernig徴候などの特異的な身体所見も出ないことがあります。臨床的に疑い、疑ったら腰椎穿刺を行う閾値をなるべく低くする姿勢が重要です。
もちろん、腰椎穿刺は髄膜炎の診断には不可欠な検査ですが、それ以上に抗菌薬投与を遅らせないことが大切であり、特に細菌性髄膜炎を疑った場合には、腰椎穿刺やCT撮像の前に血液培養を採取し、その後速やかに抗菌薬を投与することが望まれます。
注意したいのは、肺炎球菌肺炎の合併症として生じる髄膜炎です。臨床的に肺炎が明らかでも、それだけでは説明のつかない意識レベルの低下や頭痛、項部硬直などがあった場合は髄膜炎の合併を疑い、腰椎穿刺を検討します。これは抗菌薬の種類と投与量に大きく影響するため、非常に重要な点となります。
髄液のグラム染色は肺炎と同様、迅速に起炎菌を同定しうる有力なツールであり、抗菌薬投与から時間がたっていない場合(数時間以内)は菌体が確認できる可能性も高いので積極的に行います。前述したBinax NOW などの迅速抗原検出キットは、髄液において感度も特異度も高く、グラム染色で菌体が確認できない場合や抗菌薬の前投与があり髄液培養が陰性であった場合などに有用とされます。
CTは、頭蓋内占拠病変を確認する目的で撮像されることが多いですが、隣接する頭頸部臓器にも目を配り、副鼻腔炎や乳突炎、骨折など、髄膜炎の原因となりうる所見にも注目します。
【point】
- 肺炎球菌感染症で肺炎と髄膜炎は特に重要だが、その他にも副鼻腔炎や中耳炎、腹膜炎など、様々な部位に感染症を引き起こす。
- 肺炎球菌肺炎は臨床像が派手で分かりやすい傾向があるが、非典型例も多く、症状や画像所見のみで肺炎球菌の関与を除外しない。
- グラム染色は肺炎球菌肺炎における有力なツールであり、習熟すれば高い診断能を有するが、長い連鎖やムコイド型などの非典型的なパターンにも慣れておく。
- 肺炎球菌は培養で比較的生えづらいため、培養陰性でも否定はせず、CAPにおいては常に本菌の可能性を考慮する。
- 尿中肺炎球菌抗原検査は特異度が高い検査だが、感度はあまり高くなく、除外診断には使えない。
- 細菌性髄膜炎は内科エマージェンシーであり、早期に疑い、迅速な抗菌薬投与と腰椎穿刺を行うことが肝心である。起炎菌同定のために髄液グラム染色や抗原検出キットを活用する。
【References】
1)Fukuyama H,et al:Validation of sputum Gram stain for treatment of community-acquired pneumonia and healthcare-associated pneumonia:a prospective observational study. BMC Infect Dis.2014 Oct 18;14:534.
2)Barrett-Connor E:The nonvalue of sputum culture in the diagnosis of pneumococcal pneumonia.Am Rev Respir Dis.1971 Jun;103(6):845-8.
3)Marrie TJ,et al:Pneumococcal pneumonia in adults,UpToDate.
http://www.uptodate.com/contents/pneumococcal-pneumonia-in-adults
4)Sordé R,et al:Current and potential usefulness of pneumococcal urinary antigen detection in hospitalized patients with community-acquired pneumonia to guide antimicrobial therapy.Arch Intern Med.2011 Jan 24;171(2):166-72.
5)Smith MD,et al:Rapid diagnosis of bacteremic pneumococcal infections in adults by using the Binax NOW Streptococcus pneumoniae urinary antigen test: a prospective,controlled clinical evaluation.J Clin Microbiol.2003 Jul;41(7):2810-3.
6)青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル,第3版,医学書院,2015,p.1041-53.
7)Janoff EN,et al:Streptococcus pneumoniae,In:Mandell GL,et al,Mandell,Douglas,and Benett’s Principles and Practice of Infectious Diseases,8th ed,Churchill Livingstone,2014,p.2310-27.
(続く)