No. 492014. 05. 22
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レプトスピラ症――渡航歴がなくても都市部でも起こりうる感染症(2/3)

東京都立墨東病院感染症科

彦根 麻由

東京女子医科大学感染症科、東京都立墨東病院救急診療科(東京ER墨東)

相野田 祐介

(今号は3週連続で配信しています。1号目

前回紹介した症例1(インドネシア渡航後の40歳代男性)をもとに、レプトスピラ症を疑ううえでポイントとなる病歴と臨床症状をいくつか挙げるとともに、診断・治療について見ていきたいと思います。

病 歴

レプトスピラ症の感染経路は、経皮・粘膜感染です。汚染された土壌や水が感染源になるので[1]、この症例の「ラフティング」は感染源になりうるアクティビティの一つです。レクリエーションとしてラフティングのほかに河川での遊泳やトライアスロンなどでの淡水曝露、またレプトスピラ症は洪水や台風の後にしばしば流行するので、自然災害後の淡水曝露も感染源になり得ます[2]。

臨床症状

レプトスピラ症の初診時の症状を表1に示します[1]。報告によって症状の出現率は様々ですが、発熱と頭痛は比較的多い症状のようです。中でも、結膜充血と筋痛は特徴的な所見です。結膜充血は、結膜炎のように滲出液は伴いません(redness without exudate)。筋痛は特に下腿、大腿、腰部などの下半身に多く、自発痛がなくても把握痛を認めることもあります。頭痛では、retro-orbital pain(デング熱でも特徴的です)や羞明を認めることもあります[2、3]。

表1 レプトスピラ症の初期の症状
(Mandell GL:Mandell,Douglas,and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases,7th edtion,Churchill Livingstone,2009.より引用)

レプトスピラ症は、典型的には2相性の経過をたどります。病原体に曝露されてから約10~14日の潜伏期間をもって、急性発症の発熱、頭痛で発症します。第1相(急性期、菌血症期)では表1に挙げた症状が約5~7日間継続したのち、第2相(回復期、免疫期)へ移行します。軽症から中等症例や早期の治療介入があった例は無症状で経過することがありますが、有症状例では髄膜炎、ぶどう膜炎、皮疹が出現しうる病期が4~30日続きます[1~3]。

重症例では、病初期から、または第2相に移行する頃から臓器障害や出血傾向が出現します。黄疸、腎障害、出血傾向の3つを認めるWeil病は有名ですが、ほかに心筋炎、不整脈、意識障害、肺胞出血、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)など、心臓から中枢神経症状、呼吸器症状まで様々な病態を引き起こします[1~3]。

血液検査所見

血小板減少(50%以上)や肝機能障害(肝酵素上昇、総ビリルビン上昇)、腎機能障害(16~40%)などが有名です。肝機能障害では、AST・ALTの上昇は軽度から中等度、総ビリルビン値は30~40mg/dLまで上昇を認めることがあり、ほかにアミラーゼやクレアチニンキナーゼの上昇もあります[2、3]。

レプトスピラ症の診断に必要な検査[4]

大事なのは、検査方法と検体です。検査方法には次の3種類があります。

  1. 培養検査(検体=血液、尿、髄液):コルトフ培地、EMJH培地
  2. 顕微鏡下凝集試験法(MAT)による血清検査(検体=血清):急性期および回復期のペア血清による抗体陽転または抗体価の有意な上昇
  3. PCR法(検体=血清、尿、髄液):病原体の遺伝子の検出

レプトスピラ症に特異的な血清検査やPCR法を施行する場合には、保健所を通じて各地域の衛生研究所や国立感染症研究所へ相談してください。検体を提出する際の注意点ですが、に示すように、レプトスピラが培養やPCR法で検出される検体が病相によって変わります。第1相では血液や髄液で検出されますが、第2相では尿中に検出されるので、病相に合った検体を提出する必要があります[2]。

図 病相とレプトスピラが検出される検体

ここまでで、臨床症状、検査所見、診断まで進みました。最後に治療についてです。

治 療

抗菌薬治療を行わなくても自然軽快する軽症例も存在しますが、治療を行う場合はペニシリン系やテトラサイクリン系が選択されます。外来患者・軽症例では、ドキシサイクリンやアモキシシリンの内服、入院患者・重症例ではペニシリンG、セフトリアキソン経静脈的治療を7日間行います[1、3、5]。ペニシリン系で治療した場合、投与後に発熱や皮疹などJarisch-Herxheimer反応を認めることがあります[1]。重症例では、透析療法や人工呼吸器管理などの支持療法が必要です。

ここまでで、レプトスピラ症を疑う病歴、臨床症状、検査結果から診断・治療までの流れをご紹介しました。

「臨床症状」の項目で述べたように、レプトスピラ症は、インフルエンザ様症状をきたす軽症例から、多臓器不全やショック、ARDSをきたしICU管理が必要になる重症例まで、様々な臨床経過を呈します。多彩な臨床像を見せるため、レプトスピラ症の鑑別はしばしば難しいことがあります。

鑑別疾患表2)[1~3]

表2 レプトスピラ症の鑑別疾患

軽症例では、インフルエンザ、咽頭炎、伝染性単核球症、急性HIV感染症などの臨床像と類似します。症状の有無によらず、回復期では約80%で髄液中の細胞数上昇を認めるので、無菌性髄膜炎も鑑別になります。ほかに、熱帯地域への渡航歴がある場合には、マラリア、デング熱、リケッチア感染症、腸チフス・パラチフス、ウイルス性肝炎、ウイルス性出血熱などが挙げられます。

臓器障害を伴うような重症例の場合には、敗血症+播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation;DIC)、血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura;TTP)、溶血性尿毒症症候群(hemolytic-uremic syndrome;HUS)など、肺胞出血やARDSなど呼吸器症状が強い場合には、レジオネラやハンタウイルスによる感染症、アミラーゼの上昇を伴うことがあり、急性膵炎も鑑別が必要です。

今回の症例でも鑑別の一つに挙がったリケッチア症ですが、中でもツツガムシ病はしばしば渡航先(東南アジア)や症状がレプトスピラ症と類似して鑑別が難しいことがあります。ツツガムシ病の症状として発熱、頭痛、筋痛、皮疹、リンパ節腫脹、肝機能障害、血小板減少などは、レプトスピラ症と重複する症状です。ツツガムシ病では皮疹やリンパ節腫脹をきたすことが多いこと、刺し口(eschar)があることは鑑別の助けになるかもしれません[1]。


【References】
1)Mandell GL:Mandell,Douglas,and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases,7th edtion,Churchill Livingstone,2009.
2)Levett PN:Leptospirosis.Clin Microbiol Rev.2001 Apr;14(2):296-326.
3)Bharti AR,Nally JE,Ricaldi JN,et al:Leptospirosis:a zoonotic disease of global importance.Lancet Infect Dis.2003 Dec;3(12):757-71.
4)東京都新たな感染症対策委員会・監:東京都感染症マニュアル2009
5)Vinetz JM:A mountain out of a molehill:do we treat acute leptospirosis, and if so,with what? Clin Infect Dis.2003 Jun 15;36(12):1514-5.

(つづく)

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