No. 402013. 03. 14
成人 > ケーススタディ

頸部痛、関節痛、歩行困難を主訴に受診した80歳代女性(2/3)

東海大学医学部総合内科

上田 晃弘

(今号は3週連続で配信しています。1回目


 前回の症例をまとめると、急性に発症する少関節炎で受診した80歳代女性である。

 ところで、担当医はKANSEN Journalの愛読者であり、No.11「発熱+関節炎へのアプローチ」[1]を覚えていた。それによると、急性の少関節炎の鑑別疾患は、播種性淋菌感染症、反応性関節炎、細菌性心内膜炎、リウマチ性疾患(成人スティル病、炎症性腸疾患関連関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎)、腫瘍随伴症候群、血清病(serum sickness)、サルコイドーシスなどとなっていた。

 本症例ではまず、結晶性関節炎(痛風、偽痛風)、感染性心内膜炎、反応性関節炎、リウマチ性疾患を鑑別に挙げ、関節液穿刺を行ない、血液培養を採取する方針とした。右膝関節より、やや混濁した黄色の関節液が15mL程度引け、これを検査に提出した。

 といいつつ担当医は、急性発症で発熱もあり、前医からは「細菌感染症が疑われる」と言われており、やはり化膿性関節炎の可能性が心配になっていた。そこで、KANSEN Journalで紹介されていた、2007年のJAMAのThe Rational Clinical Examination[2]を読んでみた。

 この文献によると、外来を受診する関節炎患者における化膿性関節炎のprevalenceは8~27%とのことで、この患者の事前確率をおおよそ15%と考えた。この患者のリスクファクターは年齢(>80 歳)で、その陽性尤度比(LR+)は3.4 であったため、事後確率は37.5%となった。

 そのうちに、検査室から関節液の検査結果が返ってきた。細胞数は36600(好中球98%)ということであった。先のJAMAの文献によると、関節液中の細胞数が25000より多い場合、LR+は2.9で、好中球が90%以上の場合、LR+は3.4だという(表1)[2]。事前確率を37.5%として考えると、化膿性関節炎の可能性はずいぶん高そうに思えた。

関節液

陽性尤度比

陰性尤度比

白血球数>100000/μL

28.0(12.0~66.0)

0.71(0.64~0.79)

白血球数>50000 /μL

7.7(5.7~11.0)

0.42(0.34~0.51)

白血球数>25000 /μL

2.9(2.5~3.4)

0.31(0.23~0.43)

多核細胞数≧90%

3.4(2.8~4.2)

0.34(0.25~0.47)

表1 Margaretten ME,Kohlwes J,Moore D,et al:Does this adult patient have septic arthritis? JAMA.2007 Apr 4;297(13):1478-88.より引用・改変

 

正 常

非炎症性

炎症性

化膿性

外 観

清澄・無色

清澄・黄色

混濁・黄色

黄色・黄緑色

粘稠度

高い

高い

低い

低い

白血球数

<200

<2000

2000~75000

75000<

多核球

<25%

<25%

50%<

75%<

表2 上野征夫:リウマチ病診療ビジュアルテキスト,第2 版,医学書院,2008.より引用

 担当医は先にも述べたようにKANSEN Journalの愛読者であり、No.35「命拾いしました」のCase C[4]を覚えていて、もしや似たような病態ではないかと頸部のMRIを撮影していた。その読影結果は、Crowned-dens症候群(CPPDが環椎横靭帯に沈着して石灰化したもの)として矛盾しない所見であった。

 以上を総合して、Crowned-dens症候群を伴った偽痛風として矛盾しない経過であると考え、偽痛風との診断の下、入院としたうえでNSAIDSを開始した。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

こうした対処で問題ないでしょうか?

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

【References】
1)萩野 昇:ミニレビュー1/3 発熱+関節炎へのアプローチ,KANSEN Journal No.11,2009.
http://www.theidaten.jp/journal_cont/20090708J-11-1.htm
(アクセス日2012 年11 月6 日)
2)Margaretten ME,Kohlwes J,Moore D,et al:Does this adult patient have septic arthritis? JAMA.2007 Apr 4;297(13):1478-88.
3)上野征夫:リウマチ病診療ビジュアルテキスト,第2 版,医学書院,2008.
4)具 芳明:Case Study3/3 「命拾いしました」,KANSEN Journal No.35,2012.
http://www.theidaten.jp/journal_cont/20120718J-35-3.htm
(アクセス日2012 年11 月6 日)

(つづく)

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