No. 342012. 06. 21
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固形臓器移植前にできること――移植後感染症のコントロールのために(1/3)

神戸大学医学部附属病院 感染症内科

西村 翔、大路 剛

(今号は3週連続で配信します。)


 1954年に初めて腎移植が成功して以降、シクロスポリンをはじめとする各種の免疫抑制剤の発達により、移植臓器に対する拒絶反応は劇的に減少しました。その一方で「免疫抑制状態における臓器移植後の感染」と「移植に関連した新規の腫瘍」は、現在の固形臓器移植患者の主要な予後規定因子となっています。中でも臓器移植後の感染のコントロールは、患者の予後を左右する最も重要な課題です。

 今回は、主に固形臓器移植後の感染症をコントロールするうえで、特に「移植前にできること」にテーマを絞って概説します。

 まず、臓器移植後の感染症では、一般的に免疫が正常の患者では遭遇しない日和見感染症が問題となります。しかも、免疫抑制状態のために炎症が抑えられることでコモンな症状を呈さないため、診断はより困難です。そして診断時期が遅れることで、免疫抑制状態であることも相まって、感染症はより重症化して予後が悪くなっていきます。

 こうした負の連鎖に陥らないためには、一般的な感染症診療の原則(感染臓器、病原微生物名、患者重症度などの把握)に加えて、移植後感染症における①病原微生物への疫学的な曝露、②免疫抑制状態の程度と種類――の2つの主たるリスク因子の包括的な把握ができなければ、どのレシピエントがどのような感染症を起こすのか、具体的な病原微生物名の絞り込みが困難になります。特に移植絡みの感染症と関係する病原微生物は、”一般的な”細菌、抗酸菌、真菌、ウイルス、寄生虫(原虫、蠕虫)それぞれについて、漏れなく考えていく必要があります。このように病原微生物名を絞り込む過程において、1)発症のタイミング、2)どの感染源に由来するのかを考えることは非常に有用です。

1.発症タイムラインによる分類

(1)移植から1か月まで:免疫抑制剤による免疫抑制はまだ十分にはかかっておらず、日和見感染は少ない(単純ヘルペスウイルスの再活性化を除く)。主として移植手術に関連する創部感染症と、ドナーまたはレシピエント由来の感染症による
(2)移植後1~6か月:臓器に対する拒絶反応を防ぐため強力に免疫抑制がかかり、最も日和見感染症が懸念される時期
(3)移植後6か月以降:免疫抑制は徐々に解除されつつあり、市中感染症が多くなる。そのほか後期に再活性化されるウイルス感染症や慢性臓器不全が遷延すれば、それに関連した感染症も増えてくる

 具体的な感染症のタイムラインの変化に関してはFishmanの論文[1]のFigure4に分かりやすく記載されているので、一度参照されることをお勧めします。

 ただし、重要なことは、上記のタイムラインによる分類はあくまでも目安であり、例えば肝移植患者や肺移植患者であれば免疫抑制が強く働いて早期から日和見感染を起こすこともありますし、移植部の外科的手技のトラブルにより再手術を繰り返せば手術関連の創部感染症を起こす期間は延長します。小腸移植の場合は、その他の臓器移植と比べて、移植後6か月を超えても日和見感染症が多くなります[2]。また、抗菌薬の予防投与および移植手技の発達により、タイムラインが患者により異なるため、それぞれの患者について個別的検討が必要です。

2.感染源由来による分類

(1)ドナー由来の感染:サイトメガロウイルス(CMV)やB型肝炎、C型肝炎、HIVといったスクリーニングが推奨されているもの、さらに一般細菌や結核も感染しうる。トキソプラズマやTripanosoma cruzi(シャーガス病)といった心移植特有のもの、まれなケースではリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、ウエストナイルウイルス、糞線虫、マラリア、バベシア、Balamuthia mandrillaris(自由生活アメーバの一種)、狂犬病などの報告もある
(2)レシピエント由来の感染:スクリーニングが推奨されているものでは、肝移植の多くの基礎疾患であるB型肝炎やC型肝炎、潜在性結核の再燃、さらにはCMVを筆頭とするヘルペスウイルス属の再活性化、EBウイルスの再活性化からの移植後リンパ増殖性疾患(posttransplantation lymphoproliferative disorder;PTLD)、ニューモシスチス肺炎などがある
(3)市中または院内での感染:院内では一般的な入院患者と同様、創部感染、尿路感染、カテーテル関連血流感染、肺炎、Clostridium difficile感染症、胆管炎などがメジャーな細菌感染症である。また、カンジダ属によるライン感染やアスペルギルス肺炎などの真菌感染症も起こりうる。さらに、市中ではインフルエンザ、市中肺炎(レジオネラ含む)、尿路感染症など、これも一般的な外来患者同様の感染症が問題となる

 以上を踏まえたうえで、移植後感染症に対して移植前に実施すべきことは、次の6つに大別されます。次回から、それぞれについて概説します。

1)感染源への曝露に関する病歴聴取
2)潜在的感染症のスクリーニング
3)ワクチンの接種
4)過去の病原微生物曝露歴、特殊な環境下での定着菌の同定
5)予防的抗菌薬や抗ウイルス薬の検討
6)リスクのある病原微生物への曝露予防


【References】
1)Fishman JA:Infection in solid-organ transplant recipients.N Engl J Med.2007 Dec 20;357(25):2601-14.
2)Kusne S, et al:Infectious complications after small bowel transplantation in adults:an update.Transplant Proc.1996 Oct;28(5):2761-2.

(続く)

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