No. 322012. 01. 19
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繰り返す発熱と自己炎症症候群――感染症科医のためのprimer(1/4)

帝京大学ちば総合医療センター血液・リウマチ内科

萩野 昇

(今号は4週連続で配信します。)


 原因不明の発熱が遷延するとき、鑑別診断のカテゴリーは大きく4つに分けられる。すなわち、(1)感染症、(2)悪性腫瘍、(3)リウマチ性疾患・膠原病、(4)その他(薬剤熱、内分泌疾患など)である。

 このうち悪性腫瘍に関しては、診断技術の進歩によって、特殊な腫瘍(例えば、腫瘤を形成しない血管内リンパ腫など)以外では「原因不明の発熱」の原因となる可能性は低くなりつつある。また、リウマチ性疾患・膠原病も、抗体検査が簡単に行なえるようになってきたこと(抗核抗体、anti-neutrophil cytoplasmic antigen;ANCAなど)や画像検査の進歩によって、少なくとも典型例については診断に悩むことはない。

 しかし、同時に、いわゆる「不明熱」の定義を満たさないまでも、原因不明の発熱が遷延し、ワークアップの過程で自然軽快、その後外来診療を続けているうちに再度発熱……といった症例を時々見かけるようになってきた。

 免疫システムにおいて、病原微生物を特異的に認識する仕組みや、自己を病原微生物や腫瘍から弁別する仕組み、すなわち「獲得免疫(acquired immunity)」について、近年膨大な知見が得られてきた。それと同時に、「免疫システムは、病原微生物が人体に侵入してきたとき、どのようにして初期の非特異的な炎症反応を起こすか」という「自然免疫(innate immunity)」の知見についても著しい発展が認められ、2011年のノーベル医学・生理学賞は「自然免疫の分野における貢献に対して」米スクリプス研究所のブルース・ビュートラー教授、フランス・ストラスブール大学のジュール・ホフマン教授、カナダ生まれで米ロックフェラー大学のラルフ・スタインマン教授に授与された。

 特異的な免疫応答(獲得免疫)の異常として各種の「自己免疫疾患」が起きるのと同様、自然免疫系の異常によって、明らかな誘因もなく炎症反応が惹起され臓器障害に至る「自己炎症症候群(autoinflammatory syndrome)」が存在することが明らかになってきた。自己免疫疾患では自己抗体や自己反応性Tリンパ球などが認められ、これらは診断に有用であるが、自己炎症症候群では自己抗体や自己反応性Tリンパ球は認められない。したがって診断についても、臨床症状や、(同定されているものについては)遺伝子検査によるしかない。また、「自己炎症症候群」という言葉の意味する範囲(疾患群)についても一致した見解はなく、2型糖尿病や動脈硬化も広義の「自己炎症症候群」とする意見もある。

 本稿では、自己炎症症候群のバックグラウンドとなる自然免疫の異常に適宜触れつつ、自己炎症症候群のうち、いくつかの「周期性発熱」の原因となる病態について概説する。

自然免疫とは

 すべての生物は「自分以外のもの」、例えば食物、微生物、不要な排泄物などに絶えず曝露されているため、「自分」と「自分以外のもの」を見分けるための仕組みが必要である。脊椎動物は、進化の過程で大きく「自然免疫(innate immunity)」と「獲得免疫 (acquired immunity)」に分類される2つの方法で、「自分」と「自分以外のもの」を見分ける免疫システムを発達させてきた。自然免疫には、皮膚や粘膜による物理的バリアや「(狭義の)自然免疫細胞」、すなわち顆粒球やマクロファージ、樹状細胞やナチュラルキラー(NK)細胞による免疫反応が含まれる。

 自然免疫は獲得免疫に比して「非特異的な」免疫反応であると以前は考えられていた。すなわち、病原微生物を貪食・破壊し、炎症反応を惹起し、獲得免疫系を活性化するのが自然免疫の主な役割とされていた。しかし、近年の研究によって、自然免疫は以前想定されていたよりもずっと特異的な免疫反応を引き起こすことが判明してきた。これは「パターン認識受容体(pattern recognition receptor;PRR)」の一群であるところのToll-like receptor、NOD-like receptor、RIG-Ⅰ-like receptorなどの研究が進んだことによるところが大きい。

 T細胞やB細胞の抗原受容体が遺伝子再構成によって多様な抗原を認識できるようになるのに対して、これらのPRRは遺伝子上にコードされており(germline encoded)、各種免疫細胞に発現している。そして、PRRによって病原微生物の細胞壁の一部やRNAなどの構造(pathogen-associated molecular patterns;PAMPs)を認識した樹状細胞は、リンパ組織に遊走し、抗原を共刺激分子(CD80 and/or CD86)とともにT細胞に提示する(Janewayのstranger model)。

 また、外因による障害を受けて壊死した細胞によって”danger signal”が生成され、このシグナルが樹状細胞を活性化してT細胞を刺激する(Matzingerのdanger model)とする考え方もある。

inflammasomeとは

 細胞質内PRRであるところのNOD-like receptor経由でPAMPsが認識された後、樹状細胞やマクロファージ、上皮細胞などの中では、inflammasome(インフラマソーム:適切な訳語なし)と呼ばれるタンパク複合体が活性化される。これがcaspase-1の活性化を介して炎症性サイトカインIL-1βやIL-18の成熟・分泌を促す。

 NOD-like receptorファミリーに属するNLRP3は、当初Cryopyrinと呼ばれたタンパク質であるが、これはinflammasomeの構成成分である。NLRP3をコードしているnlrp3遺伝子の機能獲得型変異(gain-of-function mutation)によって、Cryopyrin関連周期性発熱症候群(familial cold autoinflammatory syndrome;FCAS、Muckle-Wells syndrome;MWS、neonatal-onset multisystem inflammatory disease;NOMID [aka. chronic infantile neurologic cutaneous articular(CINCA) syndrome])が生じる。

 また、NLRP3 inflammasomeは直接的・間接的に他の自己炎症症候群で変異したタンパク質と相互作用していると想定されている。例えば、familial mediterranean fever(FMF)におけるpyrinやPAPA症候群におけるPSTPIP1などである。

 inflammasomeによって活性化されたIL-1βは、体温セットポイントを上昇させ(発熱)、炎症局所に好中球やリンパ球を集簇させる。IL-18は、それ自体は発熱を引き起こさないが、IL-12の存在下で活性化T細胞やNK細胞からのIFN-γ産生を促す。また、IL-18はIL-23と協働して、Th17細胞からのIL-17産生を促す。

 このように、生体内・外の「異物」によってまず自然免疫反応が惹起され、引き続いて獲得免疫に関与する細胞が活性化するのが免疫システムの初期反応であり、その活性化プロセスの一端にinflammasomeが関与していることが徐々に分かってきた。

自己炎症症候群

 以上に概観したような自然免疫系の異常によって、様々な慢性炎症性疾患が惹起されることが近年次々と判明してきた。これらを「自己免疫疾患」、すなわち自己抗体や自己反応性Tリンパ球が出現し、何らかの病態生理に関与している疾患群に対比させるかたちで「自己炎症症候群(autoinflammatory
syndrome)」と総称する。

 自己炎症症候群に何を含むべきか、自己炎症症候群をどのように分類するべきかについて定まった意見はない。(獲得免疫系に比して)病態生理に自然免疫系が強く関与している疾患をすべて「自己炎症症候群」と呼ぶのが広義の定義だと思われる。そのような定義では、1型糖尿病、特発性間質性肺炎、動脈硬化なども「自己炎症症候群」の範疇に含まれる。自己炎症症候群研究の第一人者であるKastnerは、に示すような分類を提唱している。

・ IL-1β活性化症候群(inflammasomopathy)

・NF-κB活性化症候群

・タンパク質「折りたたみ異常」(protein misfolding disorders)

・補体制御異常

・サイトカイン信号伝達の異常(disturbances in cytokine signaling)

・マクロファージ活性化症候群

・分子的病因がほとんど分かっておらず分類不能な疾患(PFAPAなど)

表 自己炎症症候群の分類

 感染症の実臨床で自己炎症症候群が問題になることがあるとすれば、「不明熱」あるいは「繰り返す発熱」のワークアップの過程で、こうしたまれな自己炎症症候群によるものの可能性を疑う必要性が生じたときであろう。次回以降でその各論、そして「繰り返す発熱」への診断的アプローチについて述べる。

(続く)

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