London School of Hygiene & Tropical Medicineの教育プログラム(2/3)
(今号は3週連続で配信しています。 1号目)
前回紹介したように、London School of Hygiene & Tropical Medicine (LSHTM)のMaster Degreesは、10月~翌年6月まで1学期、2学期、3学期とクラスがあり、その後、修士論文のために各自でプロジェクトを行なうという構成になっている。1学期ではコースの中心となる科目のクラスがあり、2学期と3学期ではいくつかの科目から希望の科目を選択して受講することができる。今回はMaster Degrees in Tropical Medicine and International Health(MSc in TMIH)における私の経験を紹介したい。
1学期
大学で行なわれるクラスは、通常、午前9時半から始まる。おおむね1時間の講義の後、30分ほどの休憩を挟んで再び講義があり、昼休憩となる。午後の講義は2時から始まり、5時まで行なわれる。
コアとなる科目が行なわれる1学期では、月・火・木・金曜日に必修であるParasitology and Entomology、Critical Skills in Tropical Medicine、Analysis and Design of Research Studies、Clinical Trialsを受講した。また、オプションとしてMolecular Biologyを選択することもできる。
月・火曜日は、主に午前中にParasitology and Entomologyの講義があり、午後にその実習が行なわれた。
このような講義と実習の組み合わせは他の科目でもよく見られ、Analysis and Design of Research Studiesでも、講義の後にグループワークが行なわれた。私の英語力でグループワークをこなすことはとても厳しいものだが、新たな知識の定着には、講義のみではなく実習やグループワークを行なうことがとても有用であることを改めて実感した。また、英語を用いてのディスカッションも貴重な経験になっている。
Clinical Trialsでは、研究デザインの解釈、文献の読み方などについて講義と実習が行なわれた。また、Critical Skills in Tropical Medicineでは、熱帯医学領域での課題を与えられ、グループワークを通じて、文献検索の仕方、与えられた課題に対する文献の適用の仕方などについて学んだ。これらの科目では特に、文献の正確な解釈を重視していた印象がある。
水曜日は、われわれのコースでは、大学の近くにあるHospital for Tropical Diseases(HTD)やUniversity College Hospital(UCH)に移動して、午前中はケースカンファレンス、午後は講義が行なわれた。
また、水曜日にはClinical Teachingという、HTDやUCHにおいて臨床医が講師となるクラスがあった。ケースカンファレンス形式であったり、講義形式であったりと様々であるが、大学での講義が多い中、久しぶりに臨床に触れるよい機会であり、同級生たちも皆、現場に戻った様子でディスカッションしていた。「抗マラリア薬としてのアーテスネートとキニーネのスタディーについての解釈」など熱帯医学ならではの重要なトピックのみならず、「細菌性髄膜炎を疑った際のエンピリックなバンコマイシンの要否」といったような日本でもよく話題になるトピックについて、他国の学生の意見を聞くことができるよい機会であった。
2学期
2、3学期では、多数の選択肢の中から科目を選択することができる。2学期では、C1、C2、D1、D2という4つのModuleがあり、それぞれいくつかの選択肢の中から科目を選択する。今年の私のコースでは、C1は11、C2は12、D1は15、D2は15ある科目の中から選ぶことができた。選択できる科目は、Conflict and Health、Molecular Virology、Statistical Methods in Epidemiology、Epidemiology and Control of Communicable Diseases、Ethics, Public Health and Human Rights、Health Promotion Approaches and Methods、Organisational Managementなどであった。
選択に迷うところも多かったが、私はClinical Infectious Disease1-3、とEpidemiology and Control of Communicable Diseasesを選択した。Epidemiology and Control of Communicable Diseasesでは、感染症の疫学やコントロールなどについて、講義と実習を通じて学んだ。私にとっては目新しい内容も多く、日々こなしていくのが大変だったが、学ぶところの多い有意義な科目であった。アウトブレイクを想定した数日間にわたる実習もあり、その際には多くの学生が深夜まで残り、グループでのディスカッションや作業に当たっていた。余談であるが、この科目の講義中に、“Control of Communicable Diseases Manual”(WHO)の編者であるDavid L. Heymann先生がお見えになったことも印象に残っている。
なお、Clinical Infectious Diseaseという科目は、Short CoursesのDiploma of Tropical Medicine and Hygieneという科目と共通であり、このShort Coursesの受講生と共に講義を受けることになる。
ここでDiploma of Tropical Medicine and Hygieneについて説明を加えておきたい。これはRoyal College of Physiciansによるシステムで 、LSHTMによって行なわれているものではない。この受験資格を得るためには、規定されたTropical Medicineのコースを受講しておく必要があり、LSHTMでは3か月間のDiploma of Tropical Medicine and HygieneコースやMSc TMIHで、必要なクラスを履修しておかなければならない。
私はこのDiploma of Tropical Medicine and Hygieneも受験するつもりであったので、2学期では、受験資格を得るために必要なClinical Infectious Disease1、3 を選択した。この授業は午前9時から午後5時まで、1時間の昼休憩を挟んで続けられ、3か月間にわたって行なわれる。講義内容はまさに莫大なボリュームで、私は日々消化不良を起こしていたと言っても過言ではない。修了時のハンドアウトの量はマンデル1.5冊分ぐらいにはなっていた。
Diploma of Tropical Medicine and Hygieneの受講生には途上国などでの臨床経験を持つ臨床医も多く、講師のみならず受講生からも診療経験をもとにした興味深いコメント(講義でトピックとなっている地域での現状など)を聞くことができた。講義中の発言やディスカッションがとても活発なクラスであり、その出席者の積極的な姿勢に大変感銘を受けた。
以上、私がMaster Degreesで学んだ1~2学期の様子を述べてきた。これ以降、3学期、試験、プロジェクトへと続いていく。
余談であるが、LSHTMには“John Snow”“Manson”などの名前が冠されている講義室がある。日頃は意識せずに、その講義室で授業を受けているが、これらの公衆衛生や熱帯医学で業績を残した人々を、ふと思い起こすこともある。
大学からほど近いソーホー地区には、John Snowがコレラの流行を阻止すべく取り除いたポンプのレプリカが置かれており、その近辺には“John Snow Pub”という店がある。私も知人と何度か訪れたことがあるが、建物の内部は落ち着いた感じの造りになっており、2階にはJohn Snowに関する写真なども飾られている。公衆衛生において偉業を成した人物を称えたパブで、人々が普通にエールを楽しんでいるのもなかなか面白い。興味のある方は、機会があれば訪れてみてはいかがだろうか。
次回は、私と同様に今年、LSHTMで学ばれている日本人学生の声をご紹介したい。
(続く)