院内における下痢症(Clostridium difficile腸炎)(3/3)
治 療
国際的には、軽症~中等症例の初回治療ではメトロニダゾール内服(1回500mgを1日3回=1500mg/日、または1回250mgを1日4回=1000mg/日)またはVCM内服(1回125mgを1日4回=500mg/日)が推奨されています。重症例ではVCM内服(1回125-500mgを1日4回=500-2000mg/日)が推奨されています[1]。
経口投与が困難な重症例では、経静脈的に投与できる薬剤が必要ですが、VCMの経静脈的投与は消化管への移行性が乏しく治療効果は期待できません。VCM注腸などを苦肉の策で行なうこともあります。しかし、下痢をきたしている患者に注腸を行なうことが果たしてどれほど腸炎の治療に貢献しているかは、はなはだ疑問のあるところです。海外では一般的に使われているメトロニダゾールの点滴製剤が、一刻も早く国内でも承認されることが望まれます。
CDIは10~25%が再発します。再発のタイミングは様々ですが、多くは治療後1~2週間後で す[2]。1回再発すると、その後の再発率は40%まで上昇し、2回以上再発した場合のさらなる発症のリスクは60%以上と報告されています[3]。その ため、特にどうしても発症の背景となる抗菌薬治療が中止できないような症例では、再発に苦しむことがあります。
再発時の診断は、トキシン検査では前回のCDIの影響を受けてしまうため、臨床状況のみから判断することがしばしばあります。1回目の再発例では、初回と同じ治療薬が可能となっていますが、重症例ではVCM内服が推奨されています。特に2回目の再発以降の難治例では表2に示すようなTapering レジメンや、他にパルス療法も推奨されています[4][5]。(ただし、Taperingレジメンやパルス療法は日本国内では添付文書には明記されていません。添付文書上は1日あたりの用法・用量と、「年齢、体重、症状により適宜増減する」という記載はあります。投与量・投与スケジュールや注腸についてなどの記載は厚生労働省のホームページにある、「重篤副作用疾患別対応マニュアル」(http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1g05.pdf)にも記載されています。)実際にはVCMの上限量などで対応するケースもあります。今後は、海外で承認されているメトロニダゾールの静注薬の国内承認が望まれます。また海外で適応となっているFidaxomicinが将来的には国内でも使えるようになるかもしれません。Fidaxomicinは諸外国では有効なデータが報告されていますが、一方で価格が高いという点も報告されています。
そのほかに、便移植[6]やプロバイオティクスなども報告されています。便移植は近年海外でも報告が増えており、良好な成績が報告されてきています。実際に国内ではまだ未承認のため、本人・家族の同意に加えて、倫理的な問題点や費用面など様々な問題点をクリアした上での、研究・データ蓄積が今後必要になります。
治療期間は10~14日間が目安です。トキシン陰性を治療のメルクマールとしてはいけません。治療後もC.difficile やトキシンが残っており、トキシン陽性が持続してしまうことがあるためです[7]。培養に関しても同様です。
感染対策
少なくとも下痢症状が続く間は、接触感染対策が推奨されています1)。原則として個室隔離(困難な場合はコホーティング)を行ない、入室時には手袋、ガウン、マスクを着用します。しばしば忘れられやすいことですが、C.difficile は芽胞を形成するため、アルコールなど通常の消毒では死滅しません。ですから、石けんと流水による物理的な手洗いが重要です。
隔離解除については、施設の状況(個室の数)や流行状況など様々な要因を考慮する必要があります。また、下痢が治まったと判断するのは下痢症状消失直後では困難なこともあり、施設によって隔離解除のタイミングは異なっていますが、少なくとも下痢症状がある間は接触感染対策を行なうことが必要です。
1週目 | 125mg/回 | 4回/日 | (500mg/日) |
2週目 | 125mg/回 | 2回/日 | (250mg/日) |
3週目 | 125mg/回 | 1回/日 | (125mg/日) |
4週目 | 125mg/回 | 1回/2日 | (125mg/2日) |
5週目 | 125mg/回 | 1回/3日 | (125mg/3日) |
6週目 | 125mg/回 | 1回/3日 | (125mg/3日) |
(Aas J, et al: Recurrent Clostridium difficile colitis: case series involving 18 patients treated with donor stool administered via a nasogastric tube. Clin Infect Dis. 2003 Mar 1; 36(5): 580-5.より引用)
【References】
1)Cohen SH, et al: Clinical practice guidelines for Clostridium difficile infection in adults: 2010 update by the society for healthcare epidemiology of America (SHEA) and the infectious diseases society of America (IDSA). Infect Control Hosp Epidemiol. 2010 May; 31(5): 431-55.
2)Fekety R, et al: Recurrent Clostridium difficile diarrhea: characteristics of and risk factors for patients enrolled in a prospective, randomized, double-blinded trial. Clin Infect Dis. 1997 Mar; 24(3): 324-33.
3)Kelly CP: A 76-year-old man with recurrent Clostridium difficile-associated diarrhea: review of C. difficile infection. JAMA. 2009 Mar 4; 301(9): 954-62.
4)McFarland LV, et al: Breaking the cycle: treatment strategies for 163 cases of recurrent Clostridium difficile disease. Am J Gastroenterol. 2002 Jul; 97(7): 1769-75.
5)Tedesco FJ, et al: Approach to patients with multiple relapses of antibiotic-associated pseudomembranous colitis. Am J Gastroenterol. 1985 Nov; 80(11): 867-8.
6)Aas J, et al: Recurrent Clostridium difficile colitis: case series involving 18 patients treated with donor stool administered via a nasogastric tube. Clin Infect Dis. 2003 Mar 1; 36(5): 580-5.
7)Simor AE, et al: Clostridium difficile in long-term-care facilities for the elderly. Infect Control Hosp Epidemiol. 2002 Nov; 23(11): 696-703.
(了)