発熱と呼吸苦、左下肢の腫れを主訴に来院した20代の女性(3/3)
(3分割配信の3回目です 1回目 2回目)
※本症例は、いくつかの症例を参考に作成した架空のものです
病歴を取り直す
血液培養からグラム陰性桿菌が検出されたという連絡を受けて、再度病歴を取り直したところ、なんとこの患者さんは発症の5~6日前に友人たちと川辺でキャンプをし、川の中を素足で歩いていたことが判明したのである!
慢性心不全の状態でADLにかなりの制限があるため、野外活動など不可能であろうという先入観があったため、初期診療の段階で取った病歴には漏れがあったのだ。この患者さんでは血液培養からP.aeruginosa が検出された。キャンプ中の外傷の有無は明らかではないが、この野外活動中の淡水暴露による緑膿菌感染だと考えられた。
抗菌薬の投与のみで局所の所見は改善し、外科的治療は不要であった。感受性に合わせて抗菌薬はセフェピムに変更され、腎機能に合わせた投与量を、局所の状態の改善をみながら約4週間投与された。
最終診断:緑膿菌による菌血症を伴う蜂窩織炎
解 説
軟部組織感染症においては暴露の病歴は非常に重要である。下記の表に代表的な暴露と考慮すべき微生物を挙げる。
ネコ・イヌ咬傷 | Pasteurella multocida Capnocytophaga canimorsus |
淡水との接触 | Aeromonas hydrophilia Pseudomoas aeruginosa |
海水との接触 | Vibrio vulnificus Aeromonas hydrophilia |
水産業・食肉業 | Streptococcus iniae Erysipelothyrix rhusiopathiae |
好中球減少状態 | Pseudomoas aeruginosa |
特にAeromonas、Vibrio、Pseudomonas などのグラム陰性桿菌による軟部組織感染症は、壊死性軟部組織感染症の病像を呈することで知られている。特に緑膿菌は、好中球減少状態の患者で菌血症に伴う軟部組織感染症の原因となり、時に壊疽性膿皮症(Ecthyma gangrenosum)と呼ばれる特徴的な皮膚所見を呈することがよく知られている[1]。
ほかに緑膿菌による皮膚軟部組織感染症が問題になる状態として、本症例のような外傷、淡水暴露後、熱傷後、術創部、褥瘡の感染などが知られている[2]。またプールや浴槽を介した毛嚢炎の集団発生も報告されており[3]、重症度は様々だが緑膿菌は水の暴露と関連した軟部組織感染症の原因として重要である。
また緑膿菌は、頻度はまれだが、無脾症の患者で重篤な感染症を起こす微生物の一つとしても知られている[4]。本症例では先天的な無脾症がある点でも緑膿菌による重篤な感染症のリスク状態であったといえる。
なお、脾摘後患者の感染症予防については複数のガイドラインが提唱されている。ワクチン接種は広く推奨されているが、抗菌薬内服による予防法では種類や投与期間により複数の方法がある。本原稿の執筆時点ではオーストラリアのガイドラインが最新のようである[5]。
繰り返しになるが、軟部組織感染症の微生物を推定するときは暴露の病歴が大変重要である。また今回の症例は、ADLの制限があっても患者さんはいろいろと人生を楽しんでいるということも教えてくれた。やはり先入観をもたずに病歴を聞くことが診断への近道である。
<References>
1.Stevens DL, Bisno AL, Chambers HF, Everett ED, Dellinger P, Goldstein EJC, et al. Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft-tissue infections. Clin Infect Dis. 2005 Nov 15;41(10):1373-406.
2.Mandell GL. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases: Expert Consult Premium Edition – Enhanced Online Features and Print.7th ed. Churchill Livingstone; 2009.
3.Pseudomonas dermatitis/folliculitis associated with pools and hot tubs–Colorado and Maine, 1999-2000. MMWR Morb. Mortal. Wkly. Rep. 2000 Dec 8;49(48):1087-1091.
4.Sumaraju V, Smith LG, Smith SM. Infectious complications in asplenic hosts. Infect Dis Clin North Am. 2001 Jun;15(2):551-65, x.
5.Spelman D, Buttery J, Daley A, Isaacs D, Jennens I, Kakakios A, et al. Guidelines for the prevention of sepsis in asplenic and hyposplenic patients. Intern Med J. 2008 May;38(5):349-356.
(了)