No. 222010. 09. 16
成人 > ケーススタディ

発熱と呼吸苦、左下肢の腫れを主訴に来院した20代の女性(1/3)

東京女子医科大学感染症科

藤田 崇宏

(3分割配信の1回目です)
※本症例は、いくつかの症例を参考に作成した架空のものです


 8月の某日、20代の女性が発熱と呼吸苦、左下肢の腫れを主訴に救急外来を受診した。

 受診日の呼吸苦はそれまでと比較して横ばいからやや増悪した程度。受診当日に左膝頭に痛みを伴う紅斑が出現し、左下肢全体に拡大していた。

既往歴

  •  房室中隔欠損症+無脾症。
  •  11年前に、房室中隔欠損症、肺動脈狭窄に対してグレン・フォンタン手術を受けている。
  •  蛋白漏出性胃腸症が術後から持続している(半年ほど前からコントロールは不良で低アルブミン血症による胸水の貯留が指摘されている)。
  •  肺炎球菌ワクチンは接種済み。


薬剤歴

  •  シラザプリル0.5mg/日
  •  ワルファリン2mg/日
  •  フロセミド20mg/日
  •  ジピリダモール25mg/日
  •  スピロノラクトン25mg/日
  •  アモキシシリン500mg/日 (アモキシシリンは予防目的で数年来服用している)

社会歴

 住所は北関東、姉と同居。ADLは自立しているが100mほど歩くと疲れる。靴屋でアルバイトをしている。

来院時の身体所見

  •  体温38.2℃、血圧101/70mmHg、脈拍120-130bpm、呼吸数26/分、SpO295%(酸素10L)
  •  全身状態:起座位となっている、全身に浮腫あり
  •  意識状態:清明
  •  頭頸部:特に異常なし
  •  胸部:両肺野とも呼吸音は低下、明らかな雑音は聴取しない
  •  心血管系:明らかな心雑音なし
  •  腹部:軽度膨満、圧痛なし
  •  CVA:叩打痛なし
  •  四肢:両下肢に軽度の浮腫あり。左下腿に圧痛を伴う紅斑

血 算

  •  WBC 14840/μl(Neut 90.0%、Lym 6.5%、Mono 2.8%、Eos 0.5% )
  •  RBC 523万/μl、Hb 16.7g/dl、Hct 49.1%、Plt 46.6万/μl


生化学

  •  Na 139 mEq/l、K 3.6 mEq/l、Cl 108 mEq/l
  •  BUN 9.0 mg/dl、Cr 0.38 mg/dl、BS 124 mg/dl
  •  AST 40 IU/l、ALT 27 IU/l、LDH 499 IU/L、γ-GTP 460 IU/l
  •  T-Bil 0.6 mg/dl
  •  UA 4.0mg/dl、Ca 7.5mg/dl、TP 3.4g/dl、Alb 1.7g/dl、CRP 0.64mg/dl
  •  PT-INR 1.86、APTT 43.0sec

検 尿

 蛋白 (-)、糖 (-)、ビリルビン (-)、ケトン (-)、潜血 (±)

 赤血球<1/HF、白血球 5-9/HF、扁平上皮<1/HF、細菌±

胸部レントゲン

 胸水の貯留と思われる、両肺野全体の透過性の低下。

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Q.さて、診断のためにはどのような病歴や追加情報が必要でしょうか?
また、初期評価のために何をしますか?

:::::::::::::::::::::::::::::::::::: 

(つづく)

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