A Pain in the Neck(2/3)
(3分割配信の2回目です 1回目)
*本症例は、いくつかの症例を総合して作成した架空の症例です。
前回の情報をまとめると、「もともと健康な20歳代の男性で、発熱、咽頭痛が9日間ほど続いている。症状としては他に膿性痰を伴った咳がある。身体所見としては右扁桃腫大と、右前頚部の腫脹・圧痛以外に、はっきりした所見はない」ということになる。
咽頭痛+発熱=感冒?
正月休みでばたばた混み合う救急外来。救急車も次から次にやってくるなかで、若くて健康な男性が、「喉が痛くて、熱が出るんです」と言って受診してきても、診察するのに十分な時間も(こちらの心の余裕も?)なく、詳細に病歴や身体所見を取ることはなかなか難しい。特に今回のケースでは、初診時には特異的な所見もなかった。しかし「9日間も続いている!」という情報が加われば、だれしも「なんで?」と思うであろう。患者背景の確認と、詳細な身体診察を行った。
[追加問診項目]
渡航歴:なし
性交渉歴:独身。月に1回ほど風俗店に通い、最後に行ったのは年末。
屋外での活動:なし
仕事:都内の車の整備工
薬剤:初診時以降は、処方されたNSAIDSしか内服していない。
[追加身体所見]
頭部:副鼻腔(前頭部、頬部)の圧痛なし
口腔内:う歯なし、Koplik 斑なし
頸部:甲状腺腫大なし、腫脹の部位は右胸鎖乳突筋周囲であり、圧痛が非常に強い
痛みのため大きく開口することができない
胸部:深く吸気させると、少し右胸が痛い
腹部:軟、圧痛なし
背部:CVA叩打痛なし、脊柱の叩打痛なし
四肢:浮腫なし、関節の腫脹・発赤なし、手指に出血斑などなし
直腸診:前立腺圧痛なし
リンパ節:後頸部、腋窩、鼠径リンパ節の有意な腫脹なし
以上から、「咽頭痛(もしくは頚部痛)+ 発熱」に注目して鑑別診断を行った。
[鑑別疾患]
ウイルス性
かぜウイルスグループ:ライノウイルス、アデノウイルス
その他:HIV、CMV、EBV
細菌性
咽頭炎:Streptococcus, ジフテリア、マイコプラズマ、クラミジア、淋菌
頚部感染症:扁桃周囲膿瘍、Ludwigアンギーナ、Lemierre症候群
その他:リケッチア、リンパ節結核、トキソプラズマ(原虫)
非感染性
悪性疾患:悪性リンパ腫
膠原病:Still病、血管炎
その他:亜急性甲状腺炎、サルコイドーシス、薬剤熱
(*紙面上の都合もあり、簡単にしか鑑別を挙げていません。詳細な鑑別診断については『レジデントのための感染症診療マニュアル』(医学書院)などをご参照ください。)
比較的長期に症状が持続していることから、いわゆる感冒(ウイルス性)に関しては可能性が低いと考えた。
また風俗店に通う20代男性であり、HIVをはじめ、EBV、CMVなどは十分に考えられた。右前頚部の腫脹が強いことから頚部感染症は最も強く疑われた。
悪性リンパ腫は、感冒様症状が続くと言って受診することがあり、リンパ節腫脹を伴う発熱の場合には鑑別は必要である。
膠原病を疑うには、身体所見に乏しい。
亜急性甲状腺炎は稀な病気ではなく、甲状腺の痛みが弱いものなどがありチェックは必要である。
今回の経過からは薬剤熱の可能性は低いが、医原性の疾患は見逃すと手痛い目にあう。
ということで、初期検査として、以下の項目を行った。
・血算、生化学(肝酵素、腎機能、ビリルビン、電解質など)
・ウイルス抗体検査: HIV、EBV、CMV ・甲状腺: TSH ・培養: 血液2セット、咽頭スワブ、喀痰 ・胸部レントゲン ・頚部エコー |
[検査結果]
血液検査所見
白血球13,300(Neut 83%, Lymph 8%, Eo 1.0%, Baso 0.1%)、Hb 14.0、Hct 39.5、血小板 5.3万、AST 35、ALT 49、LD 230、ALP 685、T-Bil 1.4、BUN 45、Cre 2.2、Na 135、K 4.5、Cl 101、血糖 94、CRP 22.5, Dダイマー3.4
胸部X線
頚部血管エコー(右前頚部)
胸部X線で両側肺に多発する結節影を、また頚部血管エコーでは内頚静脈の血栓性閉塞を認めた。
これらの結果を踏まえて診断は? マネージメントはどうしますか?
(次回へと続く)