第17回米国式感染症科ケースカンファレンス(2/4)
(4分割配信の2回目です。 1回目)
では今回より、ケースカンファレンスの内容に入ります。
Case1 担がん患者に発生した原因不明の好酸球上昇
(静岡県立静岡がんセンター感染症科 岸田直樹先生/大曲貴夫先生)
まず最初のケースでは、Tierney先生と青木眞先生も討論に参加され、非常に熱気あふれるカンファレンスとなりました。Tierney先生のコメントを中心にレポートしていきます。
症例は、60歳代の男性。肝門部胆管癌のため、4か月前に肝右葉尾状葉切除後+肝外胆管切除+リンパ節郭清+胆道再建を施行した。術後から徐々に好酸球が増加傾向にあったが、WBC 13220/μL (うち好酸球は58.1%)となったため、好酸球上昇の原因に関して感染症科にコンサルトがあった。
なお、6か月前に造影剤アレルギー(皮疹)を認めたため、コンサルトの1週間前に、CT撮影時にステロイドを使用している。この際には皮疹は出現しなかったとのこと。
以上の病歴をふまえ、参加者から多数の質疑応答がなされた。
- 仕事は? →電気配管工事を長年しており、粉塵暴露歴はある。
- 嗜好は? →タバコ1~2本/日を40年間。異食や健康食品の摂取はない。
- 居住地は? →東北地方に15歳まで在住、そのあと東海地方に転居。
- 海外渡航歴は? →なし。
- 動物との接触は? →ペットは飼っておらず、その他の動物との接触もない。
- 糞尿との接触は? →なし。
- 沼や沢地に入ったことは? →なし。
- Review of Systemsで異常は? →空咳は断続的にあるが、悪化はしていない。
聴衆が挙げた鑑別診断
単細胞の微生物は感染しても好酸球増加はきたさないというコメントがあった。慢性に経過する好酸球増加で発熱をきたさない疾患、というサマリーから、日本住血吸血症、糞線虫、肝蛭、吸虫、回虫などの寄生虫感染が挙げられ、感染症以外ではChurg-Strauss syndromeや副腎不全などが挙げられた。
Dr. Tierney’s comment
肝吸虫、回虫により慢性的に胆道の炎症をきたすこともあるため、病理所見が重要である。感染症以外の原因としては、胆管細胞癌の患者さんの50%は炎症性腸疾患を合併しているため、その結果として、好酸球増加をきたしている可能性はある。また、トリプトファンを多く含むサプリメントや食物を長年摂取している場合は、好酸球の増減はありえる。そのほか、Eosinophilic myopathyやHyper eosinophilic syndromeから心不全(心筋への好酸球浸潤による)ということがあってもよいだろう。造影剤アレルギーは一時的なHistamine放出によるものであり、今回の好酸球増加とは関連がないだろう。Paraneoplastic syndromeの中では、Hodgkin’s diseaseは鑑別に挙げられる。
その後、胸部X線とCTにおいて、右下肺領域に異常影が認められていたことが明らかにされ、カンファレンスは特にこの右下肺領域の胸部異常影および好酸球増加を焦点として進められた。
Dr. Tierney’s comment
肺吸虫としては経過が速すぎ、またアレルギー性気管支肺アスペルギルス症では、その全例で喘息症状の既往を有するのが普通である。また、Aspergillomaでは好酸球増加は出現しないだろう。
その後気管支鏡が施行され、生検組織からCryptococcusが認められた。よって、肺Cryptococcus症と診断されたとのことであった。
末梢血のCryptococcus抗原は陽性。髄液検査を行ったが特に異常はなく、中枢神経感染の合併は否定的であったそうである。フルコナゾール400mg/日の内服で治療し、異常影および好酸球増加について改善を認めた。
Dr. Tierney’s comment
Cryptococcus症を診たら、HIV感染の有無はもちろん検査しなければならない。HIV感染者以外のCryptococcus症では、感染巣は中枢神経系のほか肺が多い。この症例では好酸球増加が強すぎるのが非典型的であったと言える。
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最終診断 肺Cryptococcus症
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(次回、ケース2へ続く)