No. 122009. 08. 25
成人 > ケーススタディ

第17回米国式感染症科ケースカンファレンス(1/4)

順天堂大学感染制御科学/総合診療科

上原 由紀

(4分割配信の1回目です)


 今回のケースカンファレンスでは、症例検討に先立って、第二回IDATEN teacher’s awardの贈呈式典と記念講演が行われました。受賞されたのは、皆さんよくご存じの『レジデントのための感染症診療マニュアル』(医学書院)の著者である、青木眞先生です。

 式典ではまず、IDATEN代表世話人の大曲貴夫先生から、記念品として美しいクリスタルのトロフィーが青木先生に手渡されました。その後青木先生が日本でお仕事を始められる契機を作られた日野原重明先生からビデオレターによる祝辞をいただき、さらには『CURRENT Medical Diagnosis&Treatment』(McGraw-Hill Medical)の著者であり診断の神様とも呼ばれるLawrence M. Tierney先生が温かいお祝いの言葉を述べられました。Tierney先生は青木先生の長年の友人であられ、今回の式典とカンファレンスのためだけに来日してくださったそうです。米国のGreat teacherが日本のGreat teacherにユーモアあふれる祝辞を述べておられる光景は、思わず涙が出そうになるほど感動的でした。

 その後、源河いくみ先生と本郷偉元先生のご司会により、青木先生の受賞記念講演が行われました。

 ご講演のタイトルは「感染症診療の原則」。今まで千数百回の講演が行われたタイトルですが、Teacher’s Awardの受賞講演にはこれが最もふさわしいとお考えになったとのことです。

 まず様々な方々への感謝の言葉が述べられた後、ご講演が始まりました。ご講演のスライドについては今後青木先生のブログに掲載予定と伺いましたので、ここではご講演内容とともに、自分の記憶に残った青木先生の「格言」を中心にレポートしたいと思います。


感染症診療の原則

 感染症診療は、以下の4つの軸に沿って進められる。

  • (感染した)臓器/解剖
  • 原因微生物
  • 治療薬
  • (感染症の)趨勢および治療効果の判定

臓器/解剖の検討

 感染巣は局在化するものだからこそ、感染した臓器/解剖を探す意義があり、局在するはずの感染巣を探して初めて「感染巣がない」とわかる。FUO(すなわち非局在化)を診ている、と認識できることは診断・治療のために必要である。

 胃腸炎症状は消化管以外の異常から生じることもあるため、消化器症状を診る事が診断の鍵になることもある。

青木先生の「格言」

体温、WBC、CRPから自由になることは、診療の成熟度を意味する。
研修医が安易に「胃腸炎」という診断をつけるのは御法度。

原因微生物の検討

 感染した「臓器/解剖」がわかれば、「原因微生物」は予想できる。原因微生物名を予想したうえで培養検査等を依頼する。それをせずに、培養検査の結果から感染症診断を考えないこと。

 鑑別診断を挙げることは常に基本である。専門外の疾患が鑑別診断から抜け落ちる傾向があるので注意すること。

青木先生の「格言」

No assessment, No test.
患者は診断名、原因微生物名を持参して来院するわけではない。

Gram染色の重要性

 Gram染色は、培養検査の弱点を補い、感染症の趨勢や治療効果をもっとも的確に反映する。また研修医教育において、原因微生物の治療に対する反応を研修医に経験させることができる。WBC、 CRPでは感染症の治療効果は判断できないということを研修医に実感させるのに最適である。

青木先生の「格言」

感染症診療の実力は、培養が陽性の時よりも陰性の時にあらわれる。

培養同定検査の臨床的意義

 使用できる抗菌薬のスペクトラムが広がると、菌名同定への興味が落ちてしまう。しかし、Narrow spectrumの治療が有効なら、それを選択すべきであることには疑う余地がない。研修医にとっても、たとえば肺炎球菌の治療をペニシリンGで行って成功することは、抗菌薬使用の勉強になる。

青木先生の「格言」

Narrow is beautiful.

  近年はESBL産生菌や多剤耐性緑膿菌の出現などにより、 Gram陰性桿菌に有効な抗菌薬は少なくなってきた。新薬の開発も滞っている。

 そこで、限られた抗菌薬を大切に使うため、「Antimicrobial Stewardship」、すなわち抗菌薬の使用制御を行う必要がある。これは感染症医がなすべき重要な仕事の一つである。具体的には、

  • とにかく信念をもって遂行する。
  • 院内の各微生物に対する感受性率にしたがい、不要と思われる抗菌薬は採用中止にする。
  • 処方時に、処方理由を明記させるのも有効な方法である。
  • 使用制御に協力しない医師は院内に掲示することもある。
  • 使ってほしい薬の感受性結果だけを細菌検査結果として表示する。
  • 至急の対応を要する菌の存在を示す検査結果が出た場合、予防策や治療を早期に行えるように、自動的に警告を出すシステムを構築する。

青木先生の「格言」

Evidenceは提供せず、(反対する人に)提供させる。

発熱の原因は感染症ではないこともある

青木先生の「格言」

Problem listがしっかりしていると、抗菌薬が無効でもあわてない。

重症とはどういうことか?

 重症度は、基礎疾患と病期(感染症がどのくらい進行している時点で来院したか)による。起因微生物の種類や耐性度よりもこれらの要素が治療の成功を左右すると言える。

青木先生の「格言」

「重症=広域スペクトラムの抗菌薬使用」とは結びつかない。

「Sanford disease」とは?

 『SANFORD GUIDE TO ANTIMICROBIAL THERAPY』(Antimicrobial Therapy,Inc.、別名「熱病」とも呼ばれる米国の抗菌薬ポケットマニュアル)のとおりに診療しないと気がすまない、あるいはそのとおりに診療して安心してしまうこと。しかしこれは米国のマニュアルである。米国は耐性菌が多い国であり、日本には日本なりの要素があるはずである。

 「耐性菌が検出されたので治療が失敗した」というプレゼンテーションを聴くことがある。しかし耐性菌でなくても治療は成功しなかったのではないか? というケースがほとんどで、多くは前述のごとく「重症」であったためと思われる。耐性菌が多いから広域で……という抗菌薬使用は正しくない。

 抗菌薬治療が最初から百発百中主義である必要はなく、まず治療を開始し、その反応を見守ることも大切である。ウイルス性が主に疑われる場合は特に経過観察が有用である。

良きコンサルタントとは?

 常に正解を出すことは至難の業だが、主治医と共に最後まで一喜一憂し続けることは可能である。不明な点は正直に、そして調べてから答えればよい。しかしアドバイスは具体的に、かつ即実行可能な形で行うべきである。

青木先生の「格言」

Be repeatedly correct.
最後まで主治医の同伴者たれ。

コンサルタントとして生き抜く方法

 コンサルタント業務は緊張を強いられる困難な仕事である。時に逃れの場を持ち、共通の価値観をもつ人々(たとえば感染症診療の原則が浸透している病院のカンファレンスに参加するなど)と交流することで、自分の仕事にモチベーションを取り戻し、続けて行くことができる。

青木先生の「格言」

勉強のチャンスがあれば逃さない。そこから道が開けてくる。
恩師は大切に。

 

(次回へと続く)

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