No. 82009. 03. 12
その他 >

第15回 米国式感染症科ケースカンファレンス 2008年11月29日 秋葉原コンベンションセンター(3/3)

奈良県立医科大学附属病院 感染症センター

笠原 敬

(※今号は3分割配信の3回目です。→1回目 2回目

 3例目は、両上肢の腫脹・熱感を主訴として、蜂窩織炎が疑われて転院してこられた50代の症例でした。約10日間にわたる抗菌薬投与にも関わらず、四肢の腫脹・熱感は改善せず、また発熱が持続し、徐々に呼吸状態の悪化や下腿浮腫などが出現し、胸部レントゲン、心電図、そして心エコーから心嚢液の貯留が認められました。心嚢液の性状はスライド(ファイル1)のとおりです。

 この時点で発表者およびフロアからは、表(ファイル2)のような鑑別診断があがりました。結果的には、心嚢液を用いた肺炎球菌の尿中抗原検査が陽性となり、さらに16S rRNAを用いた遺伝子検査では、肺炎球菌に89%一致、PCRではlyt(A)が陽性であり、肺炎球菌による心外膜炎という最終診断でした。

 フロアからは16S rRNAのシークエンスや、lyt(A)のPCR検査の「感度・特異度」について質問があがりました。特に、本症例では心嚢液の培養検査でStreptococcus oralis が1コロニー検出されたという結果を受け、Streptococcus oralis Streptococcus mitis でも肺炎球菌尿中抗原検査が陽性になりうることから、「偽陽性ではないか」という意見もでました。ただ、実際に培養で生えたS.oralis は「培地の塗り始めではなく塗り終わりに1コロニー生えた(本当に検体に菌が含まれていれば、普通は塗り始めに生えるはずです)」ことや、シークエンス結果およびPCR検査結果から、総合的には肺炎球菌と考えてよいだろう、という結論でした。その後、発表者から、さらに心外膜炎の原因(ファイル3)および感染性心外膜炎の原因微生物(ファイル4)についても紹介がありました。

 なお、本症例ではペニシリンG2400万単位を24時間持続投与し、血中濃度を実際に測定し、13.7~23.8μg/mlといった結果が得られた(十分に肺炎球菌のMICを上回っている)ことも紹介されました。

 この症例では様々な議論のポイントがありましたが、そのなかでも16S rRNAのシークエンス検査の実際や、lyt(A)の意義、ペニシリンGの血中濃度など、基礎医学的な部分が議論になり、IDATENの議論としてはめずらしく、しかし一方で「基礎医学と臨床医学のリンク」を感じることができたのではないでしょうか。

(おわり)

自分の発表を控え、極度の緊張状態に陥るN先生
記事一覧
最新記事
成人 > レビュー
No. 1062024. 09. 23
  • 東京都立小児総合医療センター感染症科・免疫科
  • 大坪勇人、堀越裕歩
  • この投稿はパスワードで保護されているため抜粋文はありません。

    成人 > その他
    No. 1052024. 06. 29
  • 国立感染症研究所 研究企画調整センター/国立成育医療研究センター感染症科
  • 船木孝則
  • 浜松医科大学小児科学講座
  • 宮入 烈
  • #本稿における記述は筆者の個人的見解であり、所属組織やIDATENを代表する公式な見解ではありません。 はじめに 皆さんは、Immunization Agenda 2030(IA2030)というものをご存じだろうか[1]。世界保健機関(World Health Organizat…続きを読む

    その他 >
    No. 1042024. 04. 01
  • 京都大学医学部附属病院検査部・感染制御部
  • 京都大学大学院医学研究科臨床病態検査学
  • 篠原 浩
  • はじめに 抗微生物薬適正使用の手引き(以降「手引き」)の第三版が2023年11月16日に厚生労働省から公表された[1]。本論説では、この手引き第三版について、実際の医療現場での活用法などを含めて解説する。 さて、抗微生物薬適正使用の手引きの第一版[2]が厚生労働省から公表されたの…続きを読む

    2023年米国感染症学会総会(IDWeek 2023)参加報告
    その他 >
    No. 1032024. 02. 17
  • 聖路加国際病院感染症科
  • 石川和宏
  • テキサス大学MDアンダーソンがんセンター感染症科
  • 松尾貴公
    2023年米国感染症学会総会(IDWeek 2023)参加報告

    2023年10月11日から15日までボストンで開催されたIDWeek 2023は、対面式とバーチャル会議のハイブリッド形式が採られ、9500人以上の参加者を集めました(図1、2)。このIDWeekは感染症領域では世界最大の学会総会で、米国感染症学会(IDSA)、米国小児感染症学会…続きを読む

    成人 > その他
    No. 1022023. 09. 27
  • 国立がん研究センター東病院 感染症科
  • 東京医科大学八王子医療センター感染症科
  • 相野田 祐介
  • はじめに 皆さんはHIV検査の「ウェスタンブロット法」という言葉を覚えていますか? ご存じの方も多いと思いますが、実はすでにHIV感染症の確認のためのウェスタンブロット法を用いた検査は、多くの施設でイムノクロマト(IC)法を原理とするHIV-1/2抗体確認検査法に切り替わっていま…続きを読む

    ASM microbe 2023 体験記
    その他 >
    No. 1012023. 08. 15
  • 京都大学医学部附属病院検査部・感染制御部
  • 京都大学大学院医学研究科臨床病態検査学
  • 篠原 浩
  • ASM microbe 2023 体験記

    今回、米国微生物学会(American Society of Microbiology;ASM)の学術講演会であるASM Microbeで現地発表する機会に恵まれましたので、情報を共有したいと思います。 1.ASM Microbeについて ASM Microbeは年1回開催され、…続きを読む

    ベトナム熱帯感染症研修
    その他 >
    No. 1002023. 01. 23
  • 国立国際医療研究センター
  • 守山祐樹
    ベトナム熱帯感染症研修

    ベトナム熱帯感染症研修は、ベトナムのベトナム国ホーチミン市熱帯病院(図1)で熱帯病の研修ができるコースです。COVID-19の影響で2020年以降中断していましたが、2023年度は再開予定です。 例年、10~11月ごろに1週間程度、ベトナムのホーチミンに渡航します。ここでは、私が…続きを読む

    「タイ・ミャンマー国境における現地で学ぶ熱帯感染症医師研修」の紹介
    その他 >
    No. 992022. 12. 17
  • 埼玉医科大学総合医療センター感染症科・感染制御科  Case Western Reserve University/Cleveland VA Medical Center
  • 小野大輔
    「タイ・ミャンマー国境における現地で学ぶ熱帯感染症医師研修」の紹介

    「タイ・ミャンマー国境における現地で学ぶ熱帯感染症医師研修」は、タイ王国のさまざまな地域・医療機関において、熱帯医学のみならず現地の医療体制、公衆衛生などについても直に学ぶことができる研修です。私も2015年度に参加させていただきましたが、大変有意義かつ楽しい2週間を送ることがで…続きを読む

    マヒドン大学熱帯医学短期研修
    その他 >
    No. 982022. 12. 05
  • 愛知県がんセンター感染症内科
  • 伊東 直哉
    マヒドン大学熱帯医学短期研修

    タイ王国マヒドン大学熱帯医学短期研修は、3日間で熱帯医学の基本を学べるコースです。医師(内科医、小児科医、総合診療医、感染症医)、看護師などを対象としています。2022年度は3年ぶりに短期研修が再開されます。COVID-19の影響を考え、医師・医学生を対象にオンライン研修と組み合…続きを読む

    手感染症――化膿性腱鞘炎を中心に
    成人 > ケーススタディ
    No. 972022. 08. 10
  • 東京大学医学部附属病院 感染症内科
  • 脇本 優司、岡本 耕
    手感染症――化膿性腱鞘炎を中心に

    はじめに 全身の中でも手指が最も外傷を負いやすいこともあり、手感染症(hand infection)は頻度の高い皮膚軟部組織感染症の一つである。手感染症は侵される解剖学的部位や病原体などによって分類されるが、中でも化膿性腱鞘炎は外科的緊急疾患であり、早期の治療介入が手指の機能予後…続きを読む