第14回 米国式感染症科ケースカンファレンス(3/3)
(※今号のセミナーレポートは、3回連続で配信しました。)
ケーススタディのレポート(後半)です。
2.1日10行の水溶性下痢の後に全身状態の悪化を認め、人工呼吸器管理となった5か月男児
このケースではフロアから、サルモネラ、カンピロバクターや下痢原性大腸菌をはじめとして、ロタウイルスなどのウイルス性腸炎、さらには5か月という移行抗体が低下しはじめる時期であることから、もともと液性免疫不全があったならばクリプトスポリジウムやジアルジアの可能性も考えるというコメントがありました。感染性胃腸炎以外にも心筋炎や感染性心内膜炎、髄膜炎や敗血症などの鑑別診断があがりました。またフロアからは短腸症候群や新生児壊死性腸炎(NEC)といった小児科ならではの鑑別疾患もあげていただきました。
入院後の経過ですが、ノロウイルス検査が陽性となり、輸液などの対症療法を行っていたら入院時に採取した血液培養からGroup B streptococcus、ついで大腸菌が陽性になった、ということで、議論は、「どうして血液培養が陽性になったか」そして「このような重症の(ウイルス性)下痢症で、抗菌薬を投与するか否か」に焦点がおかれました。
菌の侵入門戸については、ウイルス感染が先行して感染防御機構が破綻した腸管粘膜からの侵入(いわゆるBacterial translocation)だろう、そして抗菌薬については”Sepsis”が疑われた時点でなるべく早く投与せざるをえないだろう、という意見が多かったように思います。フロアからは”Probiotics”についてのコメントもありました。
最後に、笠井先生から本邦における小児の集中治療充実(PICU: pediatric ICU)の必要性を説明して頂きました。
3.約1週間の経過の腰痛を主訴に入院した70歳代女性
このケースでも松永先生が「解剖学的に考えると、まずは腰椎・腸腰筋を考える。憩室炎などから感染が直接波及することもあるだろうが、血行性の可能性を考え、心内膜炎などを考えておかなくてはならない.微生物学的に考えると細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などがあるが、細菌なら特にグラム陽性球菌、なかでも黄色ブドウ球菌を、腹腔内感染を考えるのであればグラム陰性桿菌を考えるだろう。もちろん結核もはずせない。エンピリックセラピーとしてはバンコマイシンが適切ではないか。ワークアップとしては血液培養や尿培養、当然画像検査も行う」とコメントをくださいました。
発表者からは表1のような鑑別診断を提示頂きました。
結果的にはMRI所見から仙腸関節炎が疑われ、また血液培養では2セットでpan-sensitiveのStaphylococcus epidermidisが分離され、当初アンピシリン・スルバクタム、そしてST合剤で治癒した、という経過でした。
フロアからはこのようなS.epidermidisに対するベストの抗菌薬は何か、そして議論は「他科とのコミュニケーションのとりかた、特にこちらのレコメンデーションを聞き入れてもらいにくい場合の対処」に及びました。亀田総合病院の細川先生からは、ペニシリン耐性は誘導耐性(ペニシリナーゼ産生の遺伝子を持ってはいるが、ペニシリンが存在しない環境では遺伝子の機能を発揮せず、ペニシリンが存在すると、徐々に転写・翻訳されペニシリナーゼを産生するようになる)の可能性があり、感受性検査でペニシリン感受性と出ても、実際はペニシリンは使いにくいのではないかというコメントがありました。
表1 鑑別診断
感染症 筋骨格系:椎体炎、股関節炎、仙腸関節炎、腸腰筋膿瘍 感染性心内膜炎、感染性大動脈瘤 腎盂腎炎、腎膿瘍 カンピロバクター腸炎 結核 全身ブルセラ症
seronegativespondyloparthropathy crystalarthropathy 股関節脱臼 坐骨神経痛 滑液包膜炎 大腿骨頸部骨折 大腿骨頭壊死 骨転移 肉腫 osteoarthritis |
皆様のお考えはいかがでしたでしょうか? 今後もKANSEN JOURNALでは、ケースカンファレンスや研究会のレポートを続けていきたいと思います。よろしくお願い申し上げます。
(了)