No. 1062024. 10. 23
成人 > レビュー

OASCISを活用した地域連携と抗菌薬適正使用――多摩・府中モデル

  • 東京都立小児総合医療センター感染症科・免疫科
  • 大坪勇人、堀越裕歩
  • #本稿に関して開示すべきCOIはありません。

    抗菌薬適正使用と加算

    薬剤耐性菌の拡大は日本全体ならびに世界の課題であり、薬剤耐性菌対策として抗菌薬の適正使用が求められている。全国抗菌薬販売量(defined daily doses換算)において、2022年時点で内服薬は注射薬のおよそ9倍であり、外来で内服抗菌薬を処方する機会が多い診療所と共同で適正使用を進めていく必要がある[1]。

    抗菌薬適正使用の必要性が評価され、2024年度の診療報酬改定では抗菌薬適正使用体制加算(5点)が新設された。外来診療において、この内容は既存の外来感染対策向上加算(6点)、連携強化加算(3点)、サーベイランス強化加算(1点)より、さらに抗菌薬適正使用に踏み込んだものとなっている。Access抗菌薬の使用比率が60%以上、あるいはサーベイランスに参加する医療機関全体の上位30%以内であることが加算の基準である[2]。

    Access抗菌薬とは

    抗菌薬の適正性を評価する指標として、WHOが提唱しているAWaRe分類がある。「Access」「Watch」「Reserve」の3つのカテゴリーに分けられる。「Access」は一般的な感染症で主に用いるべき抗菌薬、「Watch」は耐性化が懸念されるため限られた疾患や適応にのみ用いるべき抗菌薬、「Reserve」は薬剤耐性菌に他の手段がない場合にのみ使用すべき抗菌薬である(図1)。WHOによるAccessの目標割合は60%以上であり、抗菌薬適正使用体制加算の目標も同様に60%以上に設定されている。

    AWaRe分類の詳細は、Kansen Journal No.74(2019/9/15)の、日馬先生が執筆されている「WHOが推奨する新しい抗菌薬適正使用の基準――AWaRe分類」を参照いただきたい[3,4]。ただし、日馬先生執筆後にAWaRe分類が改訂され、現在は記事が掲載された当時と多少分類が異なっているので注意が必要である[5]。

    図1 AWaRe分類別の内服抗菌薬

    なぜ、地域単位での抗菌薬適正使用が必要なのか

    地域により高齢化率や小児人口、感染症疾患頻度、流行疾患が異なるため、単純に抗菌薬使用量やAccess割合で日本全国を一律に評価することはできない。薬剤耐性率や耐性菌の分布・種類も地域で異なるので、そのような背景を踏まえた抗菌薬処方の適正性を評価する必要がある。そのためには地域単位で、地域内での適正性を議論することが妥当であろう。例えば、病院単独でMRSAなど耐性菌の保菌や感染症を減らしても、地域から紹介される耐性菌の持ち込み患者が続く限り病院での耐性菌制圧は困難であり、地域全体での耐性菌対策が求められている[6]。

    多摩地区・府中市では、2017年から医師会の協力を頂きながら地域での抗菌薬適正使用を推進してきた。2023年度からは、OASCISを活用した抗菌薬適正使用に関する地域連携を立ち上げてカンファレンスを開始している。外来感染対策向上加算に関する加算要件も踏まえたカンファレンスである。以下、診療所のOASCIS登録の流れ、そして当地域で行っている取り組みである「多摩・府中モデル」を紹介したい。

    OASCIS(オアシス)とは

    地域で抗菌薬の適正使用を普及するに当たり、その地域の抗菌薬処方の実態を把握する必要がある。診療所での抗菌薬処方を簡便に確認するシステムとしてOASCISが開発された[7]。OASCISはonline monitoring system for antimicrobial stewardship at clinicsの略であるが、筆者は執筆時点でフルスペルは覚えていなかった。レセプトデータを用いて登録するため、個別のデータ入力が不要となっている。以下、許可を得てOASCISのウェブサイト情報を加工した資料を紹介する。

    OASCIS登録の流れ(執筆時点)

    地域でOASCISを用いたカンファレンスを開催するために、各診療所がOASCISに登録する必要がある。①初期準備:施設登録、②初期準備:データ登録の準備、③毎月のデータ登録の3段階に分けて説明する(図2)。

    図2 OASCIS登録の流れ

    ① 初期準備:施設登録(図3

    まず診療所がOASCISのウェブサイト内「参加登録申請」から申請を行う。申請受付後1か月以内(執筆時点で経験的には2週間以内)に参加可否の通知が登録メールアドレスに返信される。OASCIS登録完了後に、「グループ機能」から各地域のグループに加入する。

    図3 初期準備:施設登録

    ② 初期準備:データ登録の準備(図4

    「UKEファイル出力方法の確認」「レセプト匿名化ツール準備」の2つの準備工程がある。「UKEファイル出力方法の確認」では、社保と国保、両方のUKEファイル(点検用レセプト、レセプトチェック用UKEファイル、医科レセプトファイルと同義)を出力する必要がある。電子カルテメーカーやレセコンメーカーごとに方法が異なり、ソフトのバージョンによっても方法が異なる可能性があるため、メーカーに問い合わせる必要がある。当取り組みでは、地域の診療所の希望がある場合に、メールのCC機能などを用いながら、代理でメーカーに問い合わせを行っている。2023年はOASCISがあまり普及していなかったため、代理の問い合わせが必要なことが多かった。2024年はOASCIS普及に伴って各メーカーがOASCISの対応に慣れたこともあり、代理の問い合わせが必要なことは今のところない。「レセプト匿名化ツール準備」では、診療所がUSBメモリを準備し、OASCISウェブサイトからレセプト匿名化ツールをUSB内にダウンロードする。

    図4 初期準備:データ登録の準備

    ③ 毎月のデータ登録(図5

    メーカーの指示通りに、レセプト業務用PCからUKEファイルを出力する。UKEファイルをUSBメモリのレセプト匿名化ツールを用いて匿名化し、匿名化したUKEファイルをOASCISウェブサイトに登録する。多摩・府中モデル内のとある診療所を例にすると、UKEファイル出力15分程度、匿名化3分程度、登録3分程度、全体で長くとも30分以内には完了していた[8]。この診療所では、レセプト業務用PCがバックグラウンドでUKEファイルを自動作成していたので、UKEファイル出力中に別業務を行うことが可能であった。ファイル出力時間などは、PCの処理速度や外来患者数、メーカーにより左右されると考えられる。診療所が加算を算定するために必要な厚生局への届出に関しては割愛する。

    図5 毎月のデータ登録

    多摩・府中モデルの紹介――カンファレンス定期開催まで

    われわれが多摩地区・府中市で行ってきた活動を紹介する。2023年3~6月にかけて、有志の府中市医師会員にOASCISとOASCIS内当院グループへの加入を促し、地域での抗菌薬適正使用に関するカンファレンス定期開催までの大方針を決定した。同時期に、有志の診療所と、もともと多摩地区で薬剤耐性対策に尽力している診療所、計4診療所が加入した。その後、府中市医師会例会、府中市医師会共催AMRセミナー、府中市医師会報寄稿、地域の勉強会などで精力的に宣伝を行い、3診療所が加入した[8]。さらには有志の府中市医師会員と共に各診療所に直接伺い、2診療所が加入した。

    計9診療所のOASCIS登録データを基に、2023年2月に初回のOASCISを活用した抗菌薬適正使用に関する地域連携Webカンファレンスを、既存の地域病院間カンファレンスに合併するかたちで開催し、以後は定期開催とすることも決定した。OASCISはグループに加入した診療所の毎月の抗菌薬処方状況を迅速に確認できるので、カンファレンスでも最新の情報で議論することができた。

    2024年6月の第2回カンファレンスでは、多摩・府中地域で患者数が増えているマイコプラズマ感染症の治療適応や治療薬選択を議題とした。Access割合60%を目指す上ではWatch抗菌薬であるマクロライド系抗菌薬の使用は削減したいところではあるが、マイコプラズマ肺炎患者へのマクロライド系抗菌薬使用は適正である。また別の議題として、2023年からの全国的なアモキシシリン供給不足により代替として広域抗菌薬を選ばざるを得ない状況が続いていて、多摩・府中地域でもアモキシシリンが手に入りにくい[9]。カンファレンスで、Access抗菌薬であるセファレキシンでの代替などを紹介した。このような地域の事情を加味した適正使用を双方向性に議論していきたい。

    地域連携カンファレンスの概要を示す。グループの各診療所が匿名化された状態で、抗菌薬使用量や使用割合、使用抗菌薬の分類毎割合をAWaRe分類などを用いながら地域の現状のデータ紹介をしている。その後、風邪に抗菌薬が不要であるエビデンスの紹介、Access割合を高める方法などの情報を提供している。地域の流行、診療所の先生方が興味を持っている内容やOASCISの地域データを用いて抗菌薬処方の適正化に繋がる情報を提供するよう心掛けている。概ね20~30分程度で行っている。

    よくある質問

    よく「医師の処方を取り締まるような活動ではないのか」という質問を頂くが、不適切な処方を取り締まるようなものではないことは強調したい。現行の抗菌薬処方のまま登録してもらい、地域連携カンファレンスを通じて、双方向性に抗菌薬について議論していくことが当地域の目標である。

    結語

    多摩・府中モデルがOASCISを用いた地域連携の一例となり、各地域でカンファレンスなどを通じた抗菌薬適正使用が発展していくことを望む。


    【References】
    1)抗菌薬使用サーベイランス Japan Surveillance of Antimicrobial Consumption(JSAC). 国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンター(2024年5月28日参照).
    https://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/index.html
    2)1.個別改訂項目について(令和6年2月14日 ※3月7日修正).厚生労働省 (2024年5月28日参照).
    https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220531.pdf
    3)日馬由貴: WHOが推奨する新しい抗菌薬適正使用の基準――AWaRe分類. KANSEN Journal. 2019; No.74.
    http://www.theidaten.jp/wp_new/20190906-74/
    4)抗菌薬マスター.AMR臨床リファレンスセンター:(2024年5月28日参照).
    https://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/030/20181128172757.html
    5) AWaRe classification of antibiotics for evaluation and monitoring of use, 2023. World Health Organization(2024年9月25日参照).
    https://www.who.int/publications/i/item/WHO-MHP-HPS-EML-2023.04
    6)倉井華子: 地域を巻き込む抗菌薬適正使用活動のポイント. 日本環境感染学会誌. 2023; 38(4): 160-6.
    7)OASCIS.AMR臨床リファレンスセンター(2024年5月28日参照).
    https://oascis.ncgm.go.jp/
    8) 大坪勇人,堀越裕歩.耐性菌死亡ががんを超える将来.府中市医師会会報.2024; 641: 7-9.
    9) Otsubo Y, Matsunaga N, Tsukada A, et al. Chronic amoxicillin shortage led to alternative broad-spectrum antimicrobial use in pediatric clinics. J Infect Chemother 2024; Available online 29 August.

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