No. 662018. 11. 28
成人 > ケーススタディ

1週間以上持続する発熱・頭痛・倦怠感と血球減少のため紹介された78歳女性
(2/3)

  • 日本赤十字社和歌山医療センター 感染症内科
  • 小林 謙一郎、久保 健児、吉宮 伸洋

    本号は3分割してお届けします。第1号

    *本症例は、実際の症例に基づく架空のものです。

    前回のまとめ

    和歌山県中紀地方に居住している78歳女性。発熱、頭痛、倦怠感といった非特異的な症状で、近医から抗菌薬や総合感冒薬を処方されたが改善せず、血球減少も進行したため紹介された。

    本症例のプロブレムリスト

    # 発熱(10/7~、38℃台、入院後も持続)
    # 2系統血球減少(白血球〔好中球<500/μL〕・血小板の減少)
    # 肝逸脱酵素の上昇
    # フェリチンの上昇
    # 異型リンパ球(11%)
    # CRP陰性
    # APTTの延長

    診断に向けて「発熱+○○」のアプローチを行う。

    発熱+血小板減少

    血小板減少の原因は、(1)産生の低下、(2)消費や破壊の亢進、(3)脾臓でのプール(脾機能の亢進)、(4)血小板の希釈に分類される。血小板減少には多くの原因があるが、発熱+血小板減少とした場合の主な疾患を表1[1-4]に示した。

    HIV感染症、デング熱などは、血小板減少の原因として複数の機序が考えられている[1]。播種性血管内凝固症候群(DIC)は頻度の高い血小板減少の原因であるが、重篤な感染症(敗血症)や悪性疾患などを背景として凝固活性が亢進し、血小板が消費される。溶血性尿毒症症候群(HUS)では血小板の破壊が亢進するが、その原因としてベロトキシンを産生する腸管出血性大腸菌感染症や赤痢などがある。

    発熱+好中球減少がみられる主な疾患を表2[5]に示した。前述の発熱+血小板減少がみられる疾患群と共通しているものが多く、これらの疾患は発熱+血球減少(好中球減少+血小板減少)との鑑別の対象となる。疾患の鑑別には、詳細な病歴聴取や身体診察が大切である。

    麻疹や風疹、伝染性紅斑などの発疹がみられるウイルスの場合は、特徴的な病歴(発熱と発疹出現のタイミングや広がり方)があり詳しく聴取する。伝染性単核球症では、好中球や血小板減少に加えて異型リンパ球の上昇や肝逸脱酵素の上昇がよくみられる。デング熱、マラリア、腸チフス・パラチフスは国内ではみられない(あるいは、ほとんどみられない)ので、渡航歴を聞くことが重要である。急性ウイルス性肝炎、デング熱、マラリア、腸チフス・パラチフスは、初期には特異的な所見に欠けることが多い。表1[1-4]にある感染症は、それ自体で発熱+血球減少がみられるが、重篤な感染症(敗血症)の場合は、原因微生物によらず血球減少がみられうる。

    表1 発熱+血小板減少がみられる主な疾患
    表2 発熱+好中球減少がみられる疾患

    発熱+CRP陰性(あるいは、あまり上昇しない)

    CRPは、炎症の急性期に肝臓で産生され血中に分泌されるタンパクで、主にIL-6の刺激を受ける[6]。感染症など体内で炎症反応や組織の破壊が起きたときに短時間で上昇する。非感染症で発熱+CRP陰性の代表的な疾患としては、全身性エリテマトーデス(SLE)が挙げられる。SLEでCRPの上昇がみられる場合は、細菌感染症や漿膜炎(心膜炎、胸膜炎など)の合併を考えるべきと言われる。

    多くの感染症(特に細菌感染症)では急性期から上昇がみられるが、ウイルス感染症や結核などではあまり上昇しないか基準範囲内のことが多い。小児のウイルス性呼吸器感染症とCRPの上昇に関する研究では、ウイルス性呼吸器感染症患者の約60%でCRPの上昇がみられたが、CRPの平均値は2.80±4.87mg/dLであった[7]。

    肺結核患者においては、塗抹陽性培養陽性肺結核の13%、塗抹陰性培養陽性の73%でCRPが陰性だったという報告がある[8]。

    髄膜炎では発熱や強い頭痛がみられるが、歩行が可能など比較的軽症な場合、無菌性髄膜炎を考える。無菌性髄膜炎では、CRPが陰性か軽度の上昇であることが多い。血清CRP値を細菌性髄膜炎と無菌性髄膜炎で比較した研究によると、無菌性髄膜炎におけるCRPの平均値(±SD)は0.68±1.2mg/dLで、細菌性髄膜炎の22.04±8.3mg/dLと比べて有意に低値であった[4]。

    肝硬変患者は、CRPの肝臓での産生力が低下し、CRPが上昇しやすい細菌感染症でも上昇がみられないこともある[9]。

    発熱+疫学情報

    原因が不明な発熱患者を診た場合に「発熱+〇〇」のアプローチを行うが、疫学情報も考慮する。特に感染症は地域的・季節的な流行がみられることがある(表3)[10-13]。

    表3 国内で地域的な流行がみられる感染症
    SFTS:重症熱性血小板減少症候群
    (文献10-13をもとに筆者作成)

    今回は発熱+血球減少、発熱+CRP陰性、和歌山県における感染症流行状況などを踏まえ、以下の原因検索を行った。なお、和歌山県は日本紅斑熱やツツガムシ病の流行地であるが、本症例は特徴的な皮疹がなく、検査は行わなかった。また、ネズミとの接触歴があったものの、経過(抗菌薬を投与されていた)やCRP陰性よりレプトスピラ症の可能性は低いと考え、検索は行わなかった。非感染症の鑑別疾患として、悪性リンパ腫、SLE、血球貪食症候群を挙げた。

    • 血液培養:2セット陰性
    • 尿培養:陰性
    • 血清学的検査:
      EBV:VCA-IgG抗体陽性、VCA-IgM抗体陰性、EBNA抗体陽性
      CMV:IgG抗体(EIA)陽性、IgM抗体(EIA)陰性
      HIV:HIV抗体(EIA)陰性
      可溶性IL2レセプター:1410U/mL
    • 自己免疫関連:抗核抗体40倍
    • 骨髄検査:異型リンパ球がみられたが、血球貪食像は明らかではなかった。
    • 画像検査:頸部-骨盤部造影CT(入院時)で有意なリンパ節腫大なし、肝脾腫なし
    • 遺伝子検査:SFTSV-PCR(全血)を保健所に依頼

    【References】
    1)Warkentin TE: Thrombocytopenia caused by platelet destruction, hypersplenism, or hemodilution. In Hematology, 7th edition. Elsevier. 2018, p.1955-72.
    2)Long SS, Prober CG, Fischer M: Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases E-Book. Elsevier Health Sciences, 2017.
    3)Assinger A: Platelets and infection – an emerging role of platelets in viral infection. Front Immunol. 2014 Dec 18; 5: 649.
    4)Gowin E, Wysocki J, Avonts D, et al: Usefulness of inflammatory biomarkers in discriminating between bacterial and aseptic meningitis in hospitalized children from a population with low vaccination coverage. Arch Med Sci. 2016 Apr 1; 12(2): 408-14.
    5)Holland SM, Gallin JI: Disorders of Granulocytes and Monocytes. In Harrison’s principles of internal medicine. 2008, p.472-83.
    6)Del Giudice M, Gangestad SW: Rethinking IL-6 and CRP: Why they are more than inflammatory biomarkers, and why it matters. Brain Behav Immun. 2018 May; 70: 61-75.
    7)Jae-Sik Jeon, Insoo Rheem, Jae Kyung Kim: C-Reactive Protein and Respiratory Viral Infection. Korean J Clin Lab Sci. 2017; 49(1): 15-21.
    8)Ito K, Yoshiyama T, Wada M, et al: [C-reactive protein in patients with bacteriological positive lung tuberculosis]. Kekkaku. 2004 Apr; 79(4): 309-11.
    9)Pieri G, Agarwal B, Burroughs AK: C-reactive protein and bacterial infection in cirrhosis. Ann Gastroenterol. 2014; 27(2): 113-120.
    10)国立感染症研究所: 〈速報〉国内感染が確認された回帰熱の2例. IASR. 2013.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/relapsing-fever-m/relapsing-fever-iasrs/3877-pr4046.html
    11)国立感染症研究所: ライム病2006~2010年. IASR. 2011 Aug; 32: 216-7.
    https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/378/tpc378-j.html
    12)国立感染症研究所: つつがむし病・日本紅斑熱2007~2016年. IASR. 2017 June; 38: 109-12.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/tsutsugamushi-m/tsutsugamushi-iasrtpc/7324-448t.html
    13)国立感染症研究所: 重症熱性血小板減少症候群(SFTS). IASR. 2018.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/3143-sfts.html

     

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  • 1)国立国際医療研究センター国際感染症センター
  • 2)東北大学大学院医学系研究科新興・再興感染症学講座
  • 3)帝京大学医学部附属病院感染制御部
  • 4)帝京大学医学部附属病院中央検査部
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