MRSA感染症の治療(バンコマイシンを中心に)(3/3)
今回のテーマ:難しい局面(2)「侵襲性感染症に対して抗菌薬を併用すべきか?」
少しでも殺菌能を上げる必要があるMRSA侵襲性感染症において、抗菌薬を併用するか否かをめぐっては、しばしば議論されるところです。シリーズ最後の第3回目である今回は、「難しい局面(2)」として、MRSA侵襲性感染症における併用療法について取り上げます。
前・後半に分けて、前半では抗菌活性を補う目的としてセファゾリン併用を例に、そして後半ではシナジー効果を得る目的として近年その知見が変化しつつあるゲンタマイシンとリファンピシンの併用を例に見ていきます。
抗菌活性を補うための併用:セファゾリンの併用
MRSAを含む黄色ブドウ球菌による敗血症や感染性心内膜炎などの侵襲性感染症を想定してエンピリックに治療を開始する場合、薬剤感受性結果が判明するまでは、バンコマイシンにβラクタム系薬を併用することを検討してもよいと筆者は考えます。なぜなら、過去の複数の報告から、MSSAに対する治療成績において、バンコマイシンは黄色ブドウ球菌用ペニシリン系薬に劣ることが分かっているからです。実際の治療では、第一選択薬であるオキサシリン、ナフシリンといった黄色ブドウ球菌用ペニシリン系薬が残念ながら本邦では使用できないため、第2選択薬であるセファゾリンで代用しています。
しかし、近年のある後ろ向き研究では、MSSA菌血症患者において、セファゾリン投与群ではナフシリンまたはオキサシリン投与群に比べて、30日・90日死亡率が有意に低かったと報告されており、セファゾリンを黄色ブドウ球菌の第一選択薬として用いる本邦のプラクティスも大きく問題があるわけではなさそうです[1]。
セファゾリンを初めとするβラクタム系薬をバンコマイシンに併用する際、β-lactam antibiotic-induced vancomycin resistant MRSA(BIVR)という現象について触れられることがあります。BIVRとは、特定のMRSA株ではβラクタム系薬の併用によって逆にバンコマイシンの効果が落ちてしまうとする、主に基礎研究の結果に基づいた考えです[2]。しかし一方で、臨床研究においては、近年の報告でβラクタム系薬の併用を好意的にとらえているものもあります。ある多施設研究において、MRSA菌血症患者に対してバンコマイシンにペニシリン系薬を加えた群では、加えなかった群に比べて血液培養陰性化までの期間が有意に短かったとされています(ただし、死亡率には有意差なし)[3]。
以上より、βラクタム系薬の併用の有効性についてはまだ分かっていないことが多いですが、起炎菌がMSSAであった場合にはバンコマイシンが特定のβラクタム系薬に劣っていると分かっている以上、確実な臨床診断や薬剤感受性が判明するまでの短期間であれば、少しでも殺菌能を上げる必要がある侵襲性感染症に対して、βラクタム系薬の併用が望ましいのではないかと筆者は考えています。
シナジー効果を得るための併用:リファンピシンまたはゲンタマイシンの併用
リファンピシンは、細胞分裂が止まっている菌にも殺菌的に働くことや、バイオフィルムへの良好な移行性などを背景に、併用薬として用いられてきました[4]。しかし、その有効性について、現時点である程度有効性が見込めそうと考えられているのは人工物感染症や骨髄炎についてのみであり[5]、それ以外では併用の有効性を疑問視する報告が多くなされています。
あるランダム化比較試験では、自然弁のMRSA感染性心内膜炎患者について、バンコマイシン単剤投与群と比べて、バンコマイシンにリファンピシン内服を加えた併用群のほうが、血液培養陰性化までの平均期間が長かったとしています[6]。また、最近のある大規模ランダム化比較試験において、黄色ブドウ球菌による菌血症(ただし、MSSAが主体)に対して、ベースとなる黄色ブドウ球菌用ペニシリン系薬やグリコペプチド系薬などにリファンピシンを併用した群と併用しなかった群の間では、死亡率や血液培養陰性化までの期間について有意差がありませんでした[7]。
次にゲンタマイシンは、in vitroで抗MRSA薬とのシナジー効果が認められることなどを背景として、併用薬として用いられてきました[1]。しかし、臨床試験においては、ゲンタマイシン併用の有効性を示す質の高いエビデンスは乏しいのが現状です。
あるランダム化比較研究では、MRSAを含む黄色ブドウ球菌菌血症(右心系の感染性心内膜炎を含む)に対して、ダプトマイシン投与群とバンコマイシン+低用量ゲンタマイシン投与群において、治療成功率に有意な差はありませんでした[8]。また、ゲンタマイシンの併用は、たとえ低用量であっても腎機能障害のリスクであるとされています[9]。
以上から、IDSAのガイドラインでは、菌血症および自然弁の感染性心内膜炎において、ルーティンでのリファンピシンまたはゲンタマイシン併用を推奨していません[6]。
この2剤の併用が推奨されている数少ない例としては、人工弁の感染性心内膜炎の場合があります。アメリカ心臓協会(American Heart Association;AHA)と欧州心臓病学会(European Society of Cardiology;ESC)のガイドラインでは、MSSAの場合もMRSAの場合もともに、リファンピシンとゲンタマイシンの2剤の併用を推奨しています[10, 11]。
しかし、やはりここでも、この推奨の根拠は必ずしも質の高いエビデンスに則したものではありません。根拠の一つとして用いられている報告は、黄色ブドウ球菌ではなくコアグラーゼ陰性ブドウ球菌を対象としており[10]、かつこの報告の結果に否定的である研究も存在しています。ある前向き研究では、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の人工弁感染性心内膜炎において、バンコマイシンにリファンピシンやゲンタマイシン、およびその両方を併用しても、有意な死亡率の低下は認められなかったとしています[12]。
ここまでの内容をまとめると、シナジー効果を目的とした併用療法については、質の高いエビデンスに立脚した推奨は少ないようです。一方で、推奨がある人工弁感染性心内膜炎でのリファンピシンとゲンタマイシンの併用などについて、併用しなくてもよいというエビデンスもまた確立していません。以上から、基本的には推奨がある場合に限り併用するが、その場合でも併用薬による有害事象や相互作用などのデメリットを考慮し、個々の症例ごとに併用期間や併用自体をするかどうかを慎重に検討・再評価しながら治療していくのが妥当ではないかと筆者は考えています。
おわりに
これまで3回にわたって、バンコマイシンを中心としたMRSA感染症治療について書かせていただきました。MRSAは誰もが知っている耐性菌であり、バンコマイシンも誰もが知っている抗MRSA薬ですが、ともに現在でも新たな知見についての報告が多くなされている古くて新しいトピックであるため、ミニレクチャーのテーマとして選んだ次第です。至らない点も多々あったとは思いますが、皆さまの日頃の診療の一助となれば幸いです。
ポイント
- 黄色ブドウ球菌による侵襲性感染症のエンピリック治療では、感受性結果が判明するまでにバンコマイシンにセファゾリンなどβラクタム系薬を併用し、抗菌活性を補うことも選択肢の一つである。
- リファンピシン併用では人工物感染や骨髄炎、リファンピシン+ゲンタマイシン併用では人工弁の感染性心内膜炎と、併用療法が有効であるかもしれない対象はごく限られており、かつその知見も変わりつつある。
【References】
1)McDanel JS, Roghmann MC, Perencevich EN, et al: Comparative Effectiveness of Cefazolin Versus Nafcillin or Oxacillin for Treatment of Methicillin-Susceptible Staphylococcus aureus Infections Complicated by Bacteremia: A Nationwide Cohort Study. Clin Infect Dis. 2017 Jul 1; 65(1): 100-6.
2)Yanagisawa C, Hanaki H, Matsui H, et al: Rapid depletion of free vancomycin in medium in the presence of beta-lactam antibiotics and growth restoration in Staphylococcus aureus strains with beta-lactam-induced vancomycin resistance. Antimicrob Agents Chemother. 2009 Jan; 53(1): 63-8.
3)Davis JS, Sud A, O’Sullivan MVN, et al: Combination of Vancomycin and β-Lactam Therapy for Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Bacteremia: A Pilot Multicenter Randomized Controlled Trial. Clin Infect Dis. 2016 Jan 15; 62(2): 173-80.
4)Davis JS, Van Hal S, Tong SY: Combination antibiotic treatment of serious methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections. Semin Respir Crit Care Med. 2015 Feb; 36(1): 3-16.
5)Perlroth J, Kuo M, Tan J, et al: Adjunctive use of rifampin for the treatment of Staphylococcus aureus infections: a systematic review of the literature. Arch Intern Med. 2008 Apr 28; 168(8): 805-19.
6)Levine DP, Fromm BS, Reddy BR: Slow response to vancomycin or vancomycin plus rifampin in methicillin-resistant Staphylococcus aureus endocarditis. Ann Intern Med. 1991 Nov 1; 115(9): 674-80.
7)Thwaites GE, Scarborough M, Szubert A, et al: Adjunctive rifampicin for Staphylococcus aureus bacteraemia (ARREST): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2017 Dec 14. pii: S0140-6736(17)32456-X.
8)Fowler VG Jr, Boucher HW, Corey GR, et al: Daptomycin versus standard therapy for bacteremia and endocarditis caused by Staphylococcus aureus. N Engl J Med. 2006 Aug 17;355(7):653-65.
9)Cosgrove SE, Vigliani GA, Fowler VG Jr, et al: Initial low-dose gentamicin for Staphylococcus aureus bacteremia and endocarditis is nephrotoxic. Clin Infect Dis. 2009 Mar 15; 48(6): 713-21.
10)Baddour LM, Wilson WR, Bayer AS, et al: Infective Endocarditis in Adults: Diagnosis, Antimicrobial Therapy, and Management of Complications: A Scientific Statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association. Circulation. 2015 Oct 13; 132(15): 1435-86.
11)Habib G, Lancellotti P, Antunes MJ, et al: 2015 ESC Guidelines for the management of infective endocarditis: The Task Force for the Management of Infective Endocarditis of the European Society of Cardiology (ESC). Endorsed by: European Association for Cardio-Thoracic Surgery (EACTS), the European Association of Nuclear Medicine (EANM). Eur Heart J. 2015 Nov 21; 36(44): 3075-128.
12)Chu VH, Miro JM, Hoen B, et al: Coagulase-negative staphylococcal prosthetic valve endocarditis―a contemporary update based on the International Collaboration on Endocarditis: prospective cohort study. Heart. 2009 Apr; 95(7): 570-6.
13)岡 秀昭・編: 感染症クリスタルエビデンス(印刷中), 金芳堂, 2018, p.90-8(第3章1~3).