No. 622017. 08. 15
成人 > レビュー

水にまつわる感染症

東京大学医学部附属病院感染症内科

岡本 耕

はじめに

夏の暑さが増し、水遊びに行く人が増える時期である。日常生活の中で、あるいはレジャーとして、海、川、プール、温浴施設など水に触れる機会は数多い。レジャー白書(2015年)[1]によると、日本国内で年間960万人が海水浴に行き、1080万人がプールで泳ぎ(ちなみに、全国には屋内プールが4000か所以上、屋外プールが3万か所以上存在する)[2]、3570万人が健康ランドやスーパー銭湯などの温浴施設を利用している。これらに加えて、毎年1500万人以上に上る海外渡航者の中で、ビーチリゾートに行く人も少なくないだろう(例えば、年間で約150万人の日本人がハワイを訪れている)[3][4]。今号では、水にまつわる感染症について取り上げる。

感染経路

水に曝露して感染する主なメカニズムとしては、①糞口感染(便中の微生物が、偶発的に飲み込んだ水を介して経口伝播する)、②直接接種(微生物が直接皮膚などの患部に植え付けられる)、③エアロゾル吸引の3つがある[5]。

例えば、1時間泳ぐと10~150mLの水を飲み込んでいるとされる[6]。飲料用水でない限り、われわれが曝露する水はそもそも「キレイ」ではない。海水中には、1L当たり1億個以上の微生物が存在する[7]。砂浜には、主に便中にいるような細菌が、海水の数十倍以上存在するかもしれないと言われている[8]。微生物は、もともと環境中に存在するものもあれば、ヒトの排泄物や廃棄物に由来するものもある[9][10]。

感染を起こす微生物、部位はいろいろ

感染症の原因となる微生物は、細菌(抗酸菌、スピロヘータ)、ウイルス、寄生虫(原虫、蠕虫)と様々である。感染部位や水の種類(淡水か海水か)によって原因となる微生物が異なる。淡水であっても河川や池なのか、それともプールなのかによっても、よく見られる微生物が異なる。例えば、Vibrio vulnificusは海水への曝露後に皮膚軟部組織感染症を起こすが、赤痢菌や大腸菌は河川や池での淡水への曝露後に消化管感染症を起こし、CryptosporidiumGiardiaはスイミングプールでの淡水曝露後に消化管感染症を起こすことが知られている。

感染症を起こしうる部位も様々である[11]。消化器・呼吸器・皮膚感染症が多いが、耳や鼻、眼、中枢神経のほか、全身感染症を起こすこともある[12]。海、川、湖、池などでの遊泳後および温浴施設での入浴後の様々な症状を調べた研究では、3~8%の人が下痢を訴えていた[13][14]。多くの場合、感染が起きても無症状か軽微な症状であるが、時に重篤な症状や後遺症、アウトブレークの原因となることがある[9][10]。1971年から2000年までのアメリカのサーベイランスでは、250を超えるアウトブレークで2万人を超える患者の報告があった(表1)[12]。その多くは、胃腸炎であった。主な感染症とその原因微生物を表2[7][9][10][15-19]にまとめた(主に海外でみられるものも含む)。

表1 アメリカのサーベイランス1971年から2000年
表2 主な感染症とその原因微生物

1.皮膚軟部組織感染症[7]

海、川、湖など水との接触がある状況で受傷し、皮膚軟部組織感染症を起こした場合、Staphylococcus aureusStreptococcus pyogenes といった典型的な細菌以外にも他の状況では問題にならないような微生物を考慮する必要がある。

海水の場合は、V. vulnificusShewanellaErysipelothrix rhusiopathiaeなどを考える。淡水の場合は、Aeromonas hydrophilaEdwardsiella tardaChromobacterium violaceumStreptococcus iniaeなどを考える。fish tank granulomaの原因として有名なMycobacterium marinum をはじめとした非結核性抗酸菌は、淡水と海水のいずれでもみられる。これらを念頭に置いた検査、エンピリックな治療が必要になる。

2.急性外耳道炎[9]

急性外耳道炎は、外耳道に残った水によって湿疹様になったところに二次的に感染が生じる。掻痒感があり、外耳道を綿棒などでかいたりすることで症状が増悪することがある。通常は抗菌薬の外用で改善するが、重症例では全身投与が必要になる場合もある。

3.呼吸器感染症

水にまつわる肺炎の原因微生物としては、Legionellaが非常によく知られている。2007年の報告数は700件弱であったものが年々増加し、昨年は1500件あまりでほぼ倍増している[20]

Legionella は本来は環境中にいるが、冷却塔水や循環式浴槽水など水温 20℃以上の人工環境水ではアメーバなどの原生生物が生息しており、それらに取り込まれることで死滅することなく細胞内で増殖する。入浴以外の状況でも感染しうるが、前述のように入浴施設も多く、特に重要な微生物であろう。ちなみに、厚生労働省は循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルを発表している[21]。

4.V. vulnificus

V. vulnificusは好塩性で、海水中に存在する菌の中で多いものの一つである。カキなどの海産物の摂取により消化管感染症を起こすほか、菌血症、皮膚軟部組織感染症の原因となる[22]。死亡率が50~60%を超えるという報告も複数あり、しばしば重篤な感染症を起こす(皮膚軟部組織感染では20~30%)[22][23]。世界中で見られるが、日本では1999年から2003年にかけての調査で年間約30件の報告があった[24]。報告の半数以上が熊本県、佐賀県、福岡県といった有明海周囲の北部九州であった。

V. vulnificusは基礎疾患、特に肝硬変などの肝疾患を持っている患者でリスクが高い。皮膚軟部組織感染症では軽微な蜂窩織炎から壊死性筋膜炎まで幅広い症状を呈しうる。通常は曝露から1週間以内に症状が出現するが、潜伏期間が2週間近くに及ぶこともある[23]。治療としては、第3世代のセファロスポリンとミノサイクリンなどのテトラサイクリンが第一選択となる。

5.レプトスピラ症

Leptospira interrogansをはじめとした病原性Leptospira による多様な症状を示す人獣共通感染症である[25][26]。レプトスピラはネズミ、イヌ、ネコなど多様な哺乳動物の腎臓に保菌され、尿中に排菌される。ヒトは、主に尿で汚染された水(河川、泥)や土壌などから経皮的に感染する。汚染された水や食物による経口感染もある。

Leptospiraは熱帯・亜熱帯を中心に世界中で見られるため、渡航関連の感染症としても重要である。また、感染症法4類感染症に指定された届出疾患である。日本では2007年から2016年までに284例の報告があり、うち258例(91%)が国内で、沖縄がその半数近く(142例)を占めていた[27]。報告の6割以上が河川などでの水(淡水)との接触を契機として感染したものと推定されている。2016年にも沖縄で川遊びをしたグループでの集団発生事例があった[28]。

レプトスピラ症の臨床症状は多彩で、ほぼ無症状ものから、感冒様症状などにとどまる軽症のもの、腎障害や肝障害、出血傾向など臓器障害をきたす重症のものまである。典型的には、1~2週間の潜伏期間を経て、突然発症の発熱、筋肉痛、頭痛などの感冒様症状が出現し、その後に一部のものでは黄疸、出血、呼吸器症状など重篤な症状を呈する。診断には、血液・尿・髄液の分離培養やPCR、ペア血清を用いた血清抗体検査を用いる。治療はドキシサイクリン内服、ペニシリン、セフトリアキソン点滴などで行う。

さいごに

水にまつわる感染症について簡単に概説した。夏本番を前に水を差すような話ではあるが、水に曝露した患者を診療する機会は意外に多いのではないかと思う。そのような際に今号の特集が一助になればうれしい。


【References】
1)日本生産性本部: レジャー白書2015―国内旅行のゆくえと余暇, 2015, 生産性出版.
2)文部科学省: 体育・スポーツ施設現況調査, 2010.
3)観光庁: 統計情報・白書, 日本人海外旅行者数, 2016.
4)Hawaii Tourism Authority: 2016 Annual Report to the Hawaii State Legislature.
5)Miler A: Recreational Infections. In: Infectious Diseases, 3rd edition, Elsevier, 2010.
6)Soller JA, Schoen ME, Bartrand T, et al: Estimated human health risks from exposure to recreational waters impacted by human and non-human sources of faecal contamination. Water Res. 2010 Sep; 44(16): 4674-91.
7)Noonburg GE: Management of extremity trauma and related infections occurring in the aquatic environment. J Am Acad Orthop Surg. 2005 Jul-Aug; 13(4): 243-53.
8)Halliday E, Gast RJ: Bacteria in beach sands: an emerging challenge in protecting coastal water quality and bather health. Environ Sci Technol. 2011 Jan 15; 45(2): 370-9.
9)Clemence MA, et al: Infections and Intoxications from the Ocean: Risks of the Shore. In: Infections of Leisure, 5th edition, ASM Press, 2016.
10)Ayi B: Infections Acquired via Fresh Water: from Lakes to Hot Tubs. In: Infections of Leisure, 5th edition, ASM Press, 2016.
11)Henrickson SE, Wong T, Allen P, et al: Marine swimming-related illness: implications for monitoring and environmental policy. Environ Health Perspect. 2001 Jul; 109(7): 645-50.
12)Yoder JS, Hlavsa MC, Craun GF, et al; Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Surveillance for waterborne disease and outbreaks associated with recreational water use and other aquatic facility-associated health events―United States, 2005-2006. MMWR Surveill Summ. 2008 Sep 12; 57(9): 1-29.
13)Wade TJ, Pai N, Eisenberg JN, et al: Do U.S. Environmental Protection Agency water quality guidelines for recreational waters prevent gastrointestinal illness? A systematic review and meta-analysis. Environ Health Perspect. 2003 Jun; 111(8): 1102-9.
14)Wiedenmann A, Krüger P, Dietz K, et al: A randomized controlled trial assessing infectious disease risks from bathing in fresh recreational waters in relation to the concentration of Escherichia coli, intestinal enterococci, Clostridium perfringens, and somatic coliphages. Environ Health Perspect. 2006 Feb; 114(2): 228-36.
15)Schlossberg D: Infections from leisure-time activities. Microbes Infect. 2001 May; 3(6): 509-14.
16)Diaz JH, Lopez FA: Skin, soft tissue and systemic bacterial infections following aquatic injuries and exposures. Am J Med Sci. 2015 Mar; 349(3): 269-75.
17)Ender PT, Dolan MJ: Pneumonia associated with near-drowning. Clin Infect Dis. 1997 Oct; 25(4): 896-907.
18)森崇宏, 古井辰郎, 宮居奈央・他: 浴室で伝播したと考えられた小児淋菌感染症の2症例. 日本性感染症学会誌. 2013; 24(2): 96 .
19)Goodyear-Smith F: What is the evidence for non-sexual transmission of gonorrhoea in children after the neonatal period? A systematic review. J Forensic Leg Med. 2007 Nov; 14(8): 489-502.
20)全国水利用設備環境衛生協会: レジオネラ症感染者数, 2017.
21)厚生労働省: 循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル.
22)Daniels NA: Vibrio vulnificus oysters: pearls and perils. Clin Infect Dis. 2011 Mar 15; 52(6): 788-92.
23)Heng SP, Letchumanan V, Deng CY, et al: Vibrio vulnificus: An Environmental and Clinical Burden. Front Microbiol. 2017 May 31; 8: 997.
24)厚生労働省: ビブリオ・バルニフィカスに関するQ&A, 2016.
25)Monahan AM, Miller IS, Nally JE: Leptospirosis: risks during recreational activities. J Appl Microbiol. 2009 Sep; 107(3): 707-16.
26)Bharti AR, Nally JE, Ricaldi JN, et al: Leptospirosis: a zoonotic disease of global importance. Lancet Infect Dis. 2003 Dec; 3(12): 757-71.
27)国立感染症研究所: レプトスピラ症 2007年1月~2016年4月. IASR. 2016; 37: 103-5.
28)柿田徹也, 喜屋武向子, 髙良武俊・他: 沖縄県本島北部の河川で発生したレプトスピラ症集団感染事例. IASR. 2017; 38: 40-1.

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