No. 522014. 10. 23
成人 > レビュー

エボラウイルス感染症の現状と対策(1/2)

奈良県立医科大学感染症センター

笠原 敬

今号は2回に分けて配信します。


「米国で2人目のエボラ感染」「スペインで3次感染か」エボラウイルス感染症に関する報道が日々加熱してきており、インターネット上の断片的な情報は、さらなる憶測と混乱を生み出している。
今回のエボラウイルス感染症のアウトブレイクについて、ひとつだけ言えることがある。それは今回のアウトブレイクが、未だかつて人類が経験したことのない規模のものであるということである。しかしアフリカでは今まで数百人規模の死者を出すアウトブレイクが何度か起きているがそれぞれ鎮静に成功してきた。そして現在も世界各国はこの危機に対して、様々な対策を打ち始めている。実際にこのアウトブレイクの最中でも、セネガルおよびナイジェリアでは潜伏期間の2倍である42日間患者の発生がなく、セネガルでは10月17日、ナイジェリアでは10月20日にWHOからアウトブレイクの終結宣言が出ている。これは、エボラウイルス感染症のアウトブレイクは適切な対応により封じ込めることが可能であることを示唆している。
Kansen Journalではエボラウイルス感染症についての現時点での流行状況や知見、対策や各種通知について、臨時号による情報提供を行っていく。

エボラウイルス感染症の現時点の流行状況(2014年10月18日)

 WHOはエボラウイルス感染症の流行状況について3~7日毎に定期的なアップデートを出している[1](厚生労働省検疫所FORTHのウェブサイトで日本語による解説が行われている[2]。現時点では10月17日のものが最新である。WHOはエボラウイルス感染症発生地域を「広範囲に及ぶ深刻な感染の伝播が生じている国」と「初期の数症例が生じているか、限局的な伝播が生じている国」の2つのグループに分けており、前者にギニア、リベリア、シエラレオネ、後者にナイジェリア、セネガル、スペイン、アメリカが含まれている。各国の患者数は表1、2の通りである。

表1 広範囲に及ぶ深刻な感染の伝播が生じている国におけるエボラウイルス患者数及び死亡者数(2014年10月17日現在、WHO)

国名症例定義患者数死亡者数
ギニア 確定例1217671
可能性例191191
疑い例1110
1519862
リベリア確定例
可能性例
疑い例
42622484
シエラレオネ確定例2977932
可能性例37161
疑い例396107
34101200
91914546

表2 初期の数症例が生じているか、限局的な伝播が生じている国におけるエボラウイルス患者数及び死亡者数(2014年10月17日現在、WHO)

国名症例定義患者数死亡者数
ナイジェリア確定例197
可能性例11
疑い例00
208
セネガル確定例10
可能性例00
疑い例00
10
スペイン確定例10
可能性例
疑い例
10
アメリカ確定例31

アメリカにおける二次感染例

アメリカの病院ではすでに8例のエボラウイルス感染症患者が入院治療を受けている(表3)。このうち6名(番号1~6)がエボラウイルス感染症の流行地で感染して米国の病院に収容された患者で、2名(番号7、8)が米国でエボラウイルス感染症患者(番号5)のケアの際に感染したと考えられている患者(医療従事者)である。

この表から言える重要なことは、「エボラウイルス感染症だと分かって」搬送・入院した番号1~4と6の患者のケアにあたっては二次感染者が今のところ出ていないが、「エボラウイルス感染症だと分からず」対応された番号5の患者のケアにあたって二次感染者が2名(番号7、8)出ていることである。

この二次感染の発生にあたっては、最近病院関係者から様々な証言が出てきている[3]。患者は9月19日にリベリアから飛行機に搭乗し、9月20日に病院のあるダラスに到着した。9月24日に発症し、9月25日にテキサスヘルスプレスバイテリアン病院を受診したが一度家に帰されている。9月28日に家族がエボラウイルス感染を心配して同じ病院に救急車で受診し入院となったが、この際も当初は隔離されず待合で長時間他の患者と滞在していたことが分かっている。さらに当初ケアにあたった医療従事者の個人防護用具が十分でなく、またトレーニングや医療体制が全く整っていなかったことも証言されている。

全てのエボラウイルス感染症患者がそうだと分かって最初から体制の整った病院まで搬送され、受診・入院するのであれば2次感染のリスクは低そうだ。しかし現実はなかなかそうはいかないだろう。日本においても一類感染症指定医療機関での受け入れ体制を整えることはもちろんだが、それ以上に一類感染症指定医療機関ではない医療施設で、これから冬を迎えるにあたってインフルエンザなどで増加する発熱患者に紛れ込むかもしれない流行地から帰国した発熱患者に対して、いかに早くその情報を察知し、対応するかを考えておくことが求められている。

次号以降では、エボラウイルス感染症の流行状況のアップデートや必要とされる準備体制などについて順次解説していく予定である。

表3 アメリカで治療されたエボラウイルス感染症患者(2014年10月18日現在)

番号職業詳細治療施設
1医師リベリアで感染。8月2日入院、8月20日軽快退院。エモリー大学病院
2宣教師リベリアで感染。8月5日入院、8月19日軽快退院。エモリー大学病院
3医師リベリアで感染。9月5日入院、9月25日軽快退院。ネブラスカメディカルセンター
4医師シエラレオネで感染。9月9日入院。10月15日入院中。エモリー大学病院
5旅行者リベリアで感染。9月30日診断。10月8日死亡。テキサスヘルスプレスバイテリアン病院
6カメラマンリベリアで感染。10月6日入院。ネブラスカメディカルセンター
7看護師番号5の患者のケアで感染。10月11日診断。アメリカ国立衛生研究所臨床センター
8看護師番号5の患者のケアで感染。10月15日診断。エモリー大学病院

【References】
1) WHO. Global Alert and Response. Situation reports: Ebola response roadmap. 2014. (Accessed at http://www.who.int/csr/disease/ebola/situation-reports/en/.)
3)CNN: Ebola: 5 things nurses say the Texas hospital got wrong. (Accessed at http://edition.cnn.com/2014/10/15/health/texas-ebola-nurses-union-claims/index.html.)

(了)

記事一覧
最新記事
成人 > レビュー
No. 1062024. 10. 23
  • 東京都立小児総合医療センター感染症科・免疫科
  • 大坪勇人、堀越裕歩
  • #本稿に関して開示すべきCOIはありません。 抗菌薬適正使用と加算 薬剤耐性菌の拡大は日本全体ならびに世界の課題であり、薬剤耐性菌対策として抗菌薬の適正使用が求められている。全国抗菌薬販売量(defined daily doses換算)において、2022年時点で内服薬は注射薬のお…続きを読む

    成人 > レビュー
    No. 932022. 05. 09
  • 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科
  • 黒田 浩一

    COVID-19(Coronavirus Disease 2019)流行当初の2020年、軽症例に対する重症化予防効果を十分に示す薬剤は存在せず、発症早期は対症療法で経過観察するしかなかった。世界的には、2020年終盤から発症早期に投与することで重症化予防効果(入院予防効果)が期…続きを読む

    宿泊療養施設におけるCOVID-19患者の診療
    成人 > レビュー
    No. 912021. 10. 22
  • 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科
  • 土井 朝子
    宿泊療養施設におけるCOVID-19患者の診療

    COVID-19患者の増加期には、宿泊療養施設への入所も急増する。自治体により対応は多少異なると思うが、多くの自治体で宿泊療養施設には医師会もしくは病院からの派遣医師が関与しているのではないかと思われる。自宅療養中の患者が増加するにつれ、保健所と協力しながら、往診体制が構築された…続きを読む