発熱・発疹を訴えERを受診した50歳代男性(2/3)
(3週連続で配信しています。1号目)
本症例のプロブレムリスト
#2.全身性紅斑(体幹部優位の紅丘疹)
#3.肝酵素上昇
#4.血小板減少
診断に向けて、まずは皮疹からアプローチしていく。皮疹を診察する際は、①部位、分布(体幹中心か四肢末梢優位か、対称性か露出部か)、②並び方・集まり方(散在性、癒合性など)、③形状(線状、環状など)、④色調、 ⑤大きさに着目する。
また、発疹は一次的に出現する原発疹と二次的に変化した続発疹とから構成される。健常皮膚に最初に(一次的に)出現する発疹を原発疹と言い、色調の変化が主体である斑、隆起がある丘疹や結節・腫瘤、内容物として水分を含む水疱や角化物などを含む嚢腫、膿を含む膿疱や一過性の隆起である膨疹などに分けられる。続発疹とは、他の発疹から二次的に生じる皮疹のことを言い、鱗屑、痂皮、表皮剥離、びらん、潰瘍に分けられる[1] 。
本例の皮疹を表現すると、①体幹部優位に対称性、②散在性、③環状、④淡紅色、⑤1~3mm程度の大きさの皮疹が見られ、分類としては原発疹の「紅丘疹」に分類される。発疹を生じる原因疾患は多種多様であり、原因を大別すると感染症によるものか、非感染性の疾患によるものかに分けられる。今回は紅丘疹を起こす疾患に限定し、感染/非感染に分けて考えていく(表)[2]。
表 紅丘疹を起こす疾患
感染性 | ウイルス感染 | 麻疹、風疹、突発性発疹、伝染性紅斑、伝染性単核球症、エコーウイルス・コクサッキーウイルス感染症、急性HIV 感染症、デング熱 |
リケッチア感染 | ツツガムシ、日本紅斑熱 | |
細菌感染 | 丹毒、猩紅熱、蜂窩織炎、梅毒、パラチフス、腸チフス、ライム病、トキシックショック症候群、レプトスピラ症 | |
非感染性疾患 | 薬疹、全身エリテマトーデス、成人Still 病、多形滲出性紅斑、悪性リンパ腫 |
(藤谷茂樹・編著,讃井將満・他編:特集―重症感染症,INTENSIVIST,2(1):2010.より引用改変)
1.ウイルス性
発熱と発疹では、まずウイルス感染を考えやすい。その際には患者背景を検討することが重要である。すなわち、時期や地域における流行状況といった曝露リスクと、ワクチン接種歴などの免疫レベルの2つを考えなければならない。
2013年は風疹の大流行が起きた年であった[3]。同年までに麻疹・風疹ワクチンの接種率が向上した結果、日本では麻疹の流行はほぼ制圧されつつある状況であったにもかかわらず、風疹が都市圏を中心に流行したのである。したがって、発熱と発疹を訴える患者で風疹ワクチンの接種がなされていないような世代であれば、まずは風疹を疑うべき背景があった。
風疹の発疹は、①全身に対称性、②散在性、③環状、④淡紅色、⑤2~4mm程度の大きさの皮疹である。日本から報告された風疹の典型的な写真がNEJM誌に掲載されているので参考にされたい[4]。
風疹であったとすれば、血小板減少を伴う場合は、重症例で見られる血小板減少性紫斑病と考えられる。また、表の中で、発熱・肝酵素上昇が見られる場合、ウイルス感染としては伝染性単核球症様症候群や急性 HIV感染症を考慮する。肝酵素上昇だけから考えれば、肝炎ウイルスについてもスクリーニングを考慮する。これらのウイルス感染に伴う Gianotti-Crosti症候群も鑑別には入るが、これは本例の年齢からは非典型的ではあった。
2.細菌性
細菌性として考慮すべきものは、本例では全身性紅斑であり、局所の皮膚軟部組織感染症(丹毒、蜂窩織炎)は考えられず、あるとすれば腸チフス(バラ疹)や梅毒、レプトスピラ、リケッチア症などであるが、いずれも病歴だけで診断するのは難しい。
3.その他
薬剤性は常に鑑別に入るが、本例では被疑薬が存在しないため否定された。
非感染症の中では、成人Still病などが鑑別に入るが、成人Still病で特徴的なサーモンピンク疹(①四肢近位部や体幹に、②散在性、③癒合性、④淡紅色~桃色、⑤数mm程度)は本例では皮疹の形状が異なり、また解熱時に消退することもなかったため、否定的であった。
発熱と発疹の鑑別では、通常これらの疾患を念頭に検査を行なうが、原因の分からない「中毒診」として自然軽快する例も多い。
本例で行った原因検索
[血液培養2セット]
陰性
[尿培養]
陰性
[血清学的検査]
・風疹:IgM(EIA)陰性
・EBV:VCA-IgG陽性、VCA-IgM陰性、EBNA 4倍(陽性)
・CMV:IgG 33.8(陽性)、IgM 0.30(陰性)
・HIV:HIV抗体(EIA)陰性
・HBV:HBs抗原陰性
・HCV:HCV抗体陰性
・梅毒:STS、TPHAともに陰性
これらの一般的な検索では原因が不明のままであった。風疹であれば通常3日で解熱するが、3日以上発熱が続いていた点からも風疹は否定的であった。そこで、上級医が再度診察をし直した。すると、「救急外来では全身服を脱がせること」と指導されていたにもかかわらず、本例では時間外受診であったために守られていなかった。担当した看護師も気にもとめなかった病変が、このとき初めて明らかになった。
【References】
1)Longo D,Fauci A,Kasper D,et al:Harrison’s Principles of Internal Medicine:Volumes 1 and 2,18th ed,McGraw-Hill Professional,2011.
2)藤谷茂樹・編著,讃井將満・他編:特集―重症感染症,INTENSIVIST,2(1):2010.
3)IDWR速報グラフ累計報告数2013年第35週
http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/2131-rubella-doko.html
4)Kutsuna S,Hayakawa KN:Images in clinical medicine.N Engl J Med.2013 Aug 8;369(6):558.
(つづく)