No. 472014. 03. 04
成人 > ケーススタディ

発熱・嘔吐を主訴に来院した重篤な既往歴のない60歳代女性(1/3)

東北大学病院検査部

大江 千紘

東北大学大学院 医学系研究科 感染症診療地域連携講座

具 芳明

(今号は3週連続で配信します。)

症 例

 60歳代女性

主 訴

 発熱、嘔吐、食欲不振

現病歴

入院2日前、朝より食欲不振、午後になり発熱・嘔吐が出現した。近くの救急病院を受診し、内服薬の処方を受け帰宅した。入院1日前、高熱・嘔吐が持続し夜間に救急搬送された。搬送先の病院でピペラシリン(PIPC)2g を投与された。入院当日、発熱・嘔吐に加えて項部硬直、意識レベルの低下が見られるようになった。細菌性髄膜炎が疑われ当院へ転院搬送された。転院前にPIPC 2gを1回投与された。

既往歴

  • 糖尿病:HbA1c(NGSP)6.4%程度(経口血糖降下薬内服中)
  • 脂質異常症

社会生活歴

  • 夫と2人暮らし、ADLは完全に自立している。
  • 嗜好歴:喫煙なし、飲酒なし
  • アレルギー:なし

現 症

  • バイタルサイン:体温40.1℃,血圧150/81mmHg,脈拍85回/分,呼吸数26回/分,SpO2:100%(O2、2L)
  • 全身状態:ベッド上でぐったりしている。
  • 意 識:傾眠傾向。名前はやっと答えることができるが、離握手のオーダーは入らず。
  • 頭 部:結膜黄染なし、貧血なし、出血斑なし。
  • 頸 部:リンパ節腫大なし。頸部痛が強く前屈はできない。後頸部の圧痛も強い。
  • 胸 部:呼吸音は清でラ音を聴取せず。心雑音を聴取しない。
  • 腹 部:平坦・軟で圧痛はなし。腸蠕動音はやや亢進している。
  • 皮 膚:四肢中心にレース様、圧迫で退色する紫色の皮疹あり。出血斑なし。
  • 神 経:Kernig徴候陽性。Brudzinski徴候は頸部の痛みのため実施できず。

検査結果

  • 血液所見:白血球11800/μL(Neu 88.3%,Lym 1.5%,Mon 3.1%,Eos 0.0%,Bas 0.2%)、赤血球 358万/μL、Hb 11.7g/dL、Plt 10.1万/μL、PT-INR 0.90、PT 120秒以上、APTT 29.4秒
  • 生化学所見・その他:TP 6.7g/dL、Alb 3.2g/dL、AST 28IU/L、ALT 28IU/L、LDH 285IU/L、ALP 165IU/L、γ-GTP 39IU/L、ChE 193IU/L、T-bil 2.0mg/dL、CPK 274mU/mL、Na 134mEq/L、K 3.0mEq/L、Cl 97mEq/L、BUN 14.0mg/dL、Cr 0.66mg/dL、CRP 21.4mg/dL、PCT 4.13ng/mL
  • 尿所見:蛋白2+、グルコース3+、ケトン体2+、潜血2+、亜硝酸塩(-)、白血球(-)、尿中肺炎球菌抗原(-)

さて、本人からの情報はほとんど得られず、前医からの培養検査の情報もまったくない状況です。

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Q:鑑別疾患と必要な検査を挙げてください。

Q:初期治療として抗菌薬は必要ですか? 必要なら何を使用しますか?

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(つづく)

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