No. 462013. 12. 17
成人 > ケーススタディ

ステロイド内服中の髄膜炎、その裏には…(2/3)

神戸大学医学部附属病院 感染症内科

西村 翔、大路 剛

(今号は3週連続で配信しています。1号目


私たちは、髄液の細菌・真菌・抗酸菌の各種培養、さらにHSV-PCR、TB-PCR、ADA、クリプトコックス抗原などを追加で提出しました(髄液のグラム染色、抗酸菌染色、墨汁染色は陰性)。当院では当日内にクリプトコックス抗原検査陰性が確認できたため、院内発症の細菌性髄膜炎を想定してバンコマイシン+セフェピム+アンピシリンおよびヘルペス脳髄膜炎のカバーのためにアシクロビルをコンサルト同日から開始しました(後にTB-PCRは陰性、髄液ADA:6.0U/Lと判明)。

その後、髄液からはE.raffinosus が同定(血液培養は陰性)され、さらにHSV-PCRが陰性と判明したためアシクロビルを中断。第52病日には感受性結果に合わせてバンコマイシン+ゲンタマイシンに抗菌薬を変更して治療継続。第51病日にはいったん解熱が得られました。

しかし、第53病日から採血で炎症反応が再度上昇傾向であり、第57病日には38℃の発熱を認めました。当科介入当初から認めていた腹部膨満が継続していたため同日に上部内視鏡を施行したところ、十二指腸の全周性の粘膜脱落および抜き打ち様潰瘍を認めたため病理検体を提出し、サイトメガロウイルス腸炎疑いでガンシクロビルを開始。しかし、その後も発熱は持続し、腹部症状は継続したままでした。

この段階で、
①腸球菌による髄膜炎
②原因不明の十二指腸を中心とする上部消化管の炎症性病変
③ステロイド内服中
④数年前からの好酸球浸潤を伴う皮疹のエピソード
⑤出身地が奄美大島である(約20年前に関西へ移住)

――という情報をコンサルト時に得ていたことから、一つの基礎疾患の可能性を考えました。そうです、糞線虫症です。

当初よりこの可能性を想定していたのですが、上部消化管閉塞のためか排便が得られず、検査室で第57病日に内視鏡で採取した十二指腸液の生スメアを作成して確認したところ、やはり糞線虫が確認できました(最終的には病理検体でも糞線虫を確認)。糞線虫が確認できた第62病日以降、経腸栄養チューブからイベルメクチン(ストロメクトール® )の投与を開始したところ、第65日病日頃から解熱傾向、さらに上部消化管閉塞症状も解除され、第72病日からは排便が得られるようになりました。また、糞線虫を確認後に施行したHTLV-1抗体検査は陰性でした。

当症例の十二指腸液のスメアで確認されたラブジチス型幼虫を図1に示します。また、経過表を図2に示します。

図1 十二指腸液のスメアで確認されたラブジチス型幼虫
図2 経過表

(つづく)

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