No. 432013. 07. 19
成人 > レビュー

therapeutic drug monitoring(TDM)概論(2/3)

関東労災病院

内田裕之、岡秀昭

(今号は3週連続で配信しています。1号目


 第2回と第3回ではTDMの必要な各薬剤について概論していく。
今回はバンコマイシンを中心とした耐性グラム陽性菌用抗菌薬である。

バンコマイシン(Vancomycin;VCM)

  2009年に米国で出されたTDMガイドラインでは、5日以内の短期終了症例や15mg/L以下で投与する場合ではルーチンの血中濃度測定を推奨していないが[1]、エンピリックセラピーで開始して培養結果でMSSAであった場合など早期中止できた症例以外、すなわちMRSA菌血症に対する治療では、少なくとも14日以上の投与を要するため、1度はTDMを行なうことになるだろう。

1.TDM

 正常腎機能者なら4~5dose前、3日目以降のトラフを測定する。CKD(chronic kidney disease)症例では半減期が延長しており、定常状態到達が1週間後となる場合もある。すなわち、投与開始後1週間はトラフ値が上がり続けるので、正常腎機能者と同様の評価をしてしまうと中毒を招く可能性があることに注意が必要である。

 投与後のピーク値を測定すると、AUC(area under the concentration-time curve)を算出できる。しかし、ピーク値は薬物動態学的にある程度推算できること、腎毒性を反映しないこと、およびトラフ値モニタリングが効率的で臨床において実践的であることなどから、ピーク値をルーチンに測定する必要はない。

 体重当りの投与量は、肥満者での検討があり、理想体重より実体重を用いて算出するべきである[2]。

 継続投与中は、週1回を目安に、循環動態が不安定であればより頻回に、血中濃度を測定して有効性を担保するとともに、有害事象の発現を未然に防ぐようにする。

 目標血中濃度は耐性菌誘導のおそれから10mg/L以上に保つべきであるが[3]、15~20mg/L以上では腎障害が懸念される[4]。そのため10~15mg/Lが有効濃度域と考えられるが、髄膜炎のように移行性の悪いフォーカス、MRSAの持続菌血症、MRSAのVCMに対するMICが高めの株に対しては、リスクとベネフィットを考慮して15~20mg/Lをターゲットとする。

2.renal dosing

 血液透析や持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy;CRRT)を受けている場合を含む腎機能低下者への投与法の一つに、通称「ランダムトラフ法」と呼ばれるものがある[5]。アトランダムに血中濃度測定を行ない、目標濃度を下回ったら1gまたは20mg/kgを投与するという方法である。この方法では頻回採血が必要となるが、実測値に基づくため確実性の高い方法である。

 維持透析であれば、ランダムトラフ法だけでなく、透析日の透析後に500mgを上限に10mg/kgを補充投与することも有用な投与法の一つである[6]。この場合、週1回程度、透析前に血中濃度を測定し、目標濃度範囲内であれば現在の投与量を継続できることから、利便性の高い方法である。

 欧米の資料では「VCMの透析性は低い」と記載されているものも散見されるが、わが国の血液透析では一般にポリスルホンなどのハイパフォーマンス膜を採用しているため、血液透析で20%程度は除去される[7]。

 summary of Vancomycin TDM

開始時投与量・15~20mg/kgを12時間ごと(腎機能正常者)
・eGFR(mL/分)の20~25倍(腎機能低下者)
※ただし第1回目投与は減量しない
採血時期・4dose前(正常腎機能者)
・半減期4~5倍経過後(腎機能低下者)
採血時刻トラフ値(点滴投与直前)
目標血中濃度10~20mg/L

3.症例

 case1

 65歳男性、MRCNSシャント血流感染症の疑い、血液透析、ドライウェイト53kg
 初回はVCM20mg/kg≒1g投与
 以後、毎透析後にVCM10mg/kg≒0.5gを投与
 透析前の血中濃度をトラフ値として評価→23.9mg/L
 →透析日毎回(月水金)投与であったのを週2回(月金)投与に減量

 case2

 21歳男性、MRSA化膿性関節炎、eGFR100mL/分、170cm、80kg
 VCM1g12時間ごとで開始
 4dose目にトラフ値を測定→10.0mgL
 →VCM1.5g12時間ごとに増量

耐性グラム陽性菌用抗菌薬

1.テイコプラニン

 半減期が長いことから、初期の負荷投与が必要不可欠である。目標トラフ値は20mg/L以上と以前より高用量とすべきであることが認識されてきており、国内外で種々の負荷投与法、ターゲットトラフレベルが提唱されている。ただし、現時点では十分なコンセンサスを得るに至っていないと考える。VCMより腎障害が少ないなどメリットのある薬剤であるため[8]、わが国からも有益なclinical evidenceが発信されることを期待する。

2.リネゾリド

 TDMが不要な耐性グラム陽性菌用抗菌薬として登場した。しかし、血小板減少症が腎機能低下者に多いことなどfixed doseに疑問を投げかける報告が散見される[9]。わが国では、有害事象の調査目的であれば、研究レベルでメーカーが血中濃度測定を行なってくれる場合もある。

3.ダプトマイシン

 現状ではTDMは不要であるが、筋毒性が投与間隔の短さ、および高血中濃度と関連しているとの報告がある[10]。また、有効性を期待して、より高用量で使う方法[11]も知られてきており、今後の展開に注目すべきだろう。

 次回は、アミノグリコシド系抗菌薬およびボリコナゾールについて述べる。


〈References〉
1)Rybak M,Lomaestro B,Rotschafer JC,et al:Therapeutic monitoring of vancomycin in adult patients:a consensus review of the American Society of Health-System Pharmacists, the Infectious Diseases Society of America, and the Society of Infectious Diseases Pharmacists.Am J Health Syst Pharm.2009 Jan 1;66(1):82-98.
2)Hall RG 2nd,Payne KD,Bain AM,et al:Multicenter evaluation of vancomycin dosing:emphasis on obesity.Am J Med.2008 Jun;121(6):515-8.
3)Sakoulas G,Gold HS,Cohen RA,et al:Effects of prolonged vancomycin administration on methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA) in a patient with recurrent bacteraemia.J Antimicrob Chemother.2006 Apr;57(4):699-704.
4)Hidayat LK,Hsu DI,Quist R,et al:High-dose vancomycin therapy for methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections:efficacy and toxicity.Arch Intern Med.2006 Oct 23;166(19):2138-44.
5)日本化学療法学会:抗菌薬TDMガイドライン,杏林舎,2012.
6)Barth RH,DeVincenzo N:Use of vancomycin in high-flux hemodialysis:experience with 130 courses of therapy.Kidney Int.1996 Sep;50(3):929-36.
7)Pollard TA,Lampasona V,Akkerman S,et al:Vancomycin redistribution:dosing recommendations following high-flux hemodialysis.Kidney Int.1994 Jan;45(1):232-7.
8)Svetitsky S,Leibovici L,Paul M:Comparative efficacy and safety of vancomycin versus teicoplanin:systematic review and meta-analysis.Antimicrob Agents Chemother.2009 Oct;53(10):4069-79.
9)Wu VC,Wang YT,Wang CY:High frequency of linezolid-associated thrombocytopenia and anemia among patients with end-stage renal disease.Clin Infect Dis.2006 Jan 1;42(1):66-72.
10)Oleson FB Jr,Berman CL,Kirkpatrick JB,et al:Once-daily dosing in dogs optimizes daptomycin safety.Antimicrob Agents Chemother.2000 Nov;44(11):2948-53.
11)Figueroa DA,Mangini E,Amodio-Groton M,et al:Safety of high-dose intravenous daptomycin treatment:three-year cumulative experience in a clinical program.Clin Infect Dis.2009 Jul 15;49(2):177-80.

(つづく)

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