therapeutic drug monitoring(TDM)概論(1/3)
(今号は3週連続で配信します。)
TDMとは?
TDM(therapeutic drug monitoring)は、血中薬物濃度を測定して投与量を至適化していくclinical assessment skillの一つである。対象となる薬剤は、
- 有効域と中毒域が近いか重複している薬剤
- 効果および有害事象が血中濃度依存性であり、TDMを行なうことで方針が変わる薬剤
などの特徴を持った薬剤ではTDMを行なうべきと考えられる。グリコペプチド系抗菌薬、アミノグリコシド系抗菌薬、およびアゾール系抗真菌薬がこれに該当する。
TDMを行ない、対象薬剤を投与していくには、次の点を知っておく必要がある。
・開始用量の設定(最初に血中濃度測定するまでの暫定投与量) ・採血日(投与開始後または投与量変更後の何日目か?) ・採血時刻(投与前? 投与後?) ・腎機能(肝機能) ・年齢、性別、身長、体重 |
これから述べる各必要事項に関する基本的な考え方は、臨床で日常的に遭遇する一筋縄でいかない症例へのアプローチに必要となる。
クリアランス(腎機能)の評価――投与量は?
抗菌薬の多くは腎排泄性薬剤であり、TDMを行なううえで腎機能の評価は必要不可欠である。腎機能に応じた薬物投与量設定(renal dosing)を行なうのは、腎臓を守るためではなく、中毒性有害事象を防ぐ観点からであることを再確認しておく。「重症だから減量しない」「ICU症例だから減量しない」ということは、中毒性有害事象でclinical courseを複雑にするリスクを背負う行為であることを認識すべきである。
詳細は成書に譲るが、クレアチニンクリアランス(Ccr:mL/分)、および推算GFR(eGFR:mL/分/1.73m2)について少し触れる。
電子カルテなどの検査値画面で表示されるeGFRは、標準的体表面積1.73m2(170cm、63kg)で補正された値であり、患者それぞれの体格を反映していないことに注意が必要である。そのため、renal dosingを行なう際は体表面積補正を外し、単位をmL/分に換算して用いる必要がある。
日本化学療法学会の抗菌薬TDMガイドラインでは、renal dosingを行なう際にはCcrを用いることとされ、eGFRは適さないと記載されている[1]。一方、日本腎臓学会のCKD診療ガイドでは、CcrよりeGFRが正確に腎機能を反映することから、体表面積で補正された値であることに注意し、体表面積補正を外したeGFRを用いてrenal dosingを行なうこととされている[2]。
現時点でrenal dosingを行なうには、体表面積補正未補正eGFRとCcrをどちらも適切に使いこなすことが肝要である。 |
ピークとトラフ――採血時刻は?
用語の解説となってしまうが、TDMを行なううえで大切なので確認しておく。
「ピーク」は、通常、薬剤を投与して組織への分布が完了した直後の高い血中濃度を意味する。 「トラフ」は、薬剤を投与する直前の低くなった血中濃度を意味する。 |
Cmaxと厳密には異なるパラメータであることに注意する。ピークを測るかトラフを見るかは、PK/PD(薬物動態学/薬力学)の観点から薬剤ごとに異なってくる。
定常状態――採血日は?
TDMは定常状態で行なうのが基本である。「定常状態」は「薬物のin-out(投与速度と消失速度)が一定となった状態」と定義され、薬効が安定した状態と認識されている。通常、半減期の4~5倍の時間が経過すれば到達すると考えられている[3]。
すなわち、TDMは投与を開始して4~5倍の半減期が経過した日に予定する。半減期に依存するため、腎機能低下者は定常状態への到達が遅延することに注意が必要である。 |
何らかの理由で定常状態到達前に測定した値は、投与を継続することで薬剤の蓄積が進み、血中濃度が上昇することを見積もる必要がある。
分布容積――初回負荷投与、投与量の計算
「分布容積」(Vd)とは、薬剤が行き渡る容積(広さ)を意味する。初回投与では薬剤を体全体に充満させることが必要である。脂溶性薬剤であったり肥満者であったりとVdの大きい場合は、たとえ腎不全や肝不全であっても、その大きさに見合った初回投与量にする必要がある。これが初回負荷投与(loading dose)である。
Vdが小さい薬剤は一般に水溶性であり、細胞外液を中心に分布し、半減期が短く、腎排泄性の傾向がある。ゲンタマイシンのVdは0.25L/kgと小さく、主に細胞外液に分布する[4]。
一方、Vdが大きい薬剤は脂溶性で、細胞外液だけでなく細胞内や脂肪組織など身体の隅々に分布し、半減期が長く、肝代謝性の傾向がある。ボリコナゾールのVdは4.6L/kgであり、細胞内まで分布することが知られている[4]。
特殊な病態を除いて、一般に体重当たりの投与量を計算する際、水溶性薬剤の場合は理想体重、脂溶性薬剤の場合は(肥満者を中心に)実体重を用いることがよいと考えられている[4]。 |
次回からは、抗菌薬の各論を述べていく。
【References】
1)日本化学療法学会:抗菌薬TDMガイドライン,杏林舎,2012.
2)日本腎臓学会編:CKD診療ガイド2012,東京医学社,2012.
3)Winter ME著,篠崎公一・他編:改訂 ウィンターの臨床薬物動態学の基礎―投与設計の考え方と臨床に役立つ実践法,テクノミック,2005.
4)Aronoff GR,Bennett WM,Berns JS,et al:Drug Prescribing in Renal Failure:Dosing Guidelines for Adults and Children,5th ed.,American College of Physicians,2007.
(つづく)