慢性髄膜炎へのアプローチとクリプトコッカス髄膜炎(3/3)
前回(第2回)でのクリプトコッカス髄膜炎の診断に引き続き、今回(第3回)は治療について述べていきたい。
クリプトコッカス髄膜炎における治療のポイントは3つあり、
①適切な抗真菌薬の選択
②髄液圧の管理
③免疫抑制状態をきたす原因疾患の治療(免疫抑制状態からの離脱)
である。
2010年のIDSA(Infectious Diseases Society of America)のガイドライン[1]によれば、患者背景を3つに分け(HIV、臓器移植後、それ以外)、それぞれ治療法が定められている。いずれも基本的には、導入療法、地固め療法、維持療法の3段階に分かれる。
患者背景にかかわらず導入療法の治療レジメン自体は同じであり、第1選択はAmBd(ファンギゾン®:0.7~1.0mg/kg静注)に加えて、フルシトシン(アンコチル®:100mg/kg分4経口、経口摂取不良では静注)の併用が推奨されている。これは、AmBd単剤とAmBd+フルシトシンの併用群、AmBd+フルコナゾールの併用群、AmBd+フルシトシン+フルコナゾールの3剤併用群とをHIV患者において比較した場合、AmBd+フルシトシンの併用群が最も速やかに髄液中のクリプトコッカスの菌体を減らすことができたというRCTの結果に基づいている[2]。
腎機能低下時には、AmBdの代替薬としてLAmB(アムビゾーム®)(liposomal AmB 3~4mg/kg静注、ABLC5mg/kg静注)を用いることが推奨されている。また、腎機能障害時や高用量のポリエン系薬剤を同時内服している場合は、特にフルシトシンによる骨髄抑制をきたすことが多いため、開始3~5日目の時点で血中濃度を測定することが望ましい。投与2時間後の血中濃度が100μg/mL以下となるように調整が必要である。
AmBdやLAmBに対する耐性を認めるなどでポリエン系薬剤が使用できない場合は、フルコナゾール(800~1200mg経口)とフルシトシン(100mg/kg分4経口)との併用による2~10週間の導入療法が推奨されているほか、フルコナゾールのみであれば800~1200mg経口で最低10週間もしくは髄液培養の陰性化が確認されるまで継続することが推奨されている。特にフルコナゾールとフルシトシンの併用をする場合は肝機能のチェックを行う必要があるほか、フルコナゾールは特定の薬剤(シクロスポリンやタクロリムスなど)の血中濃度を上昇させることがあるため、薬剤の濃度調整を必要とする点は銘記すべきである。
導入療法の治療期間としては、HIV・臓器移植後の患者では最低2週間が推奨されている。一方で、HIV・臓器移植後以外の患者では最低4週間となっており、脳神経学的合併症を認めるようなら6週間以上へと延長することが推奨されている。
特にHIV・臓器移植以外の患者では、診断時に髄液培養陽性であったり中枢神経症状を伴うなど重症である場合、治療開始後2週間の時点で髄液検査の再評価を行なう。髄液検査によって頭蓋内圧の確認ができるほか、菌体の絶対数の評価も可能である。導入療法開始後2週間の時点での髄液培養が依然陽性となるようなら、培養が陰性化するまで引き続き2週間ごとに髄液評価を行なってもよいだろう。
4週間の導入療法を行なってもなお培養陰性とならない場合は、導入療法を10週間まで延長することが推奨されている。その際、初期導入療法がAmBd0.7mg/kg以下、LFAmB3mg/kg以下であれば、AmBdを1mg/kg、LFAmBを6mg/kgまで増量することもオプションとしてガイドラインに記載されている。ただし、ある文献では、LAmB4mg/kgの投与を行なったほうが、AmBd0.7mg/kの投与を行なった群に比べてより殺菌的であると報告された一方で[3]、AmBd0.7mg/kg、LFAmB3mg/kg、LFAmB6mg/kgで比較した場合にいずれも治療効果には有意差がなかったとするRCTもあり[4]、初期治療による効果が乏しい場合、その後の各抗菌薬の治療量に関してはいまだ一定の見解は得られていない。
急性期における髄圧管理に関しては、髄液初圧が25cmH2O以上となれば脳浮腫に伴う症状が出現する可能性があるため、積極的に穿刺によるドレナージを行なう必要がある。治療開始時点と治療開始後2週間時点の2点間での髄液圧の増減によって長期的な予後が異なると報告する文献[5]もあるため、髄液圧のコントロールに関しては注意したい。髄液の初圧が20cmH2O以下の正常圧となるまで、または極端に高い場合は初圧の50%以下となるまで、下げる必要がある。
初圧が20cmH2O以上、神経学的症状が持続する場合は、これらが2日間以上安定するまで繰り返し腰椎穿刺をすることが推奨されており、頻回のドレナージでもなお髄圧が高く症状が持続するようならば、場合によってはVPシャント術を考慮する。
導入療法に続く地固め療法としては、HIV患者、臓器移植後、その他との間でレジメンが少しずつ異なる。HIV患者ではフルコナゾール(800mg経口)、臓器移植後患者ではフルコナゾール(400~800mg、6~12mg/kg経口)、その他の患者群ではフルコナゾール(400mg)で、それぞれ最低8週間が推奨されている。アゾール系の中でもフルコナゾールは髄液移行性がよく、長期間の経口治療を行なっても安全性が高い。
最終的な維持療法に関しては、HIV患者では髄液培養が陰性化した後から開始し、基本的には免疫機能が再構築されるまでは継続とする。フルコナゾール(200mg経口)を少なくとも12か月間続ける必要があり、維持療法/予防的投与の中止基準としては、具体的にはCD4細胞数が100cells/mL以上ある症例でHIVのウイルス量が検出感度以下、またはきわめて低いレベルが3か月間以上続く場合に再発抑制療法の中止を考慮する。
臓器移植後の患者ではフルコナゾール(200~400mg経口)を、その他の患者群ではフルコナゾール(200mg経口)を、それぞれ6~12か月間続けることが推奨されている。
いずれも、背景にある免疫抑制状態からの離脱ができないかどうかを検討する必要がある。
最後に、妊婦におけるクリプトコッカス髄膜炎の治療についてだが、AmBd(0.7~1.0mg/kg静注)またはLAmB(liposomal AmB3~4mg/kg静注、ABLC5mg/kg静注)を選択する。Flucytosineは催奇形性があるためカテゴリーCに分類され、少なくとも妊娠第1期(妊娠16週まで)は使用を避けるべきである。妊娠第2期以降の使用に関しては、必ずしも副作用との関連があるとはされていないようだが、個々の症例に応じて判断する必要がある。フルコナゾールもまたカテゴリーCの薬剤であり、少なくとも妊娠第1期は使用を避ける必要がある。治療期間に関してはHIV・臓器移植後以外の患者群と同様でよいが、妊娠におけるどの期間であるかを意識しながら治療する必要がある。
【References】
1)Perfect JR,et al:Clinical Practice Guidelines for the Management of Cryptococcal Disease:2010 Update by the Infectious Diseases Society of America.Clin Infect Dis.2010 Feb 1;50(3):291-322.
2)Brouwer AE,et al:Combination antifungal therapies for HIV-associated cryptococcal meningitis:a randomised trial.Lancet.2004 May 29;363(9423):1764-7.
3)Chen SC,et al:Cryptococcosis in Australasia and the treatment of cryptococcal and other fungal infections with liposomal amphotericin B.J Antimicrob Chemother.2002 Feb;49 suppl1:57-61.
4)Hamill RJ,et al:Comparison of 2 doses of liposomal amphotericin B and conventional amphotericin B deoxycholate for treatment of AIDS-associated acute cryptococcal meningitis:a randomized,double-blind clinical trial of efficacy and safety.Clin Infect Dis.2010 Jul 15;51(2):225-32.
5)Graybill JR,et al:Diagnosis and management of increased intracranial pressure in patients with AIDS and cryptococcal meningitis.The NIAID Mycoses Study Group and AIDS Cooperative Treatment Groups.Clin Infect Dis.2000 Jan;30(1):47-54.
(了)