No. 342012. 06. 28
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固形臓器移植前にできること――移植後感染症のコントロールのために(2/3)

神戸大学医学部附属病院 感染症内科

西村 翔、大路 剛

(今号は3週連続で配信しています。 1回目


 移植後感染症に対して移植前に実施すべきこととして、1)感染源への曝露に関する病歴聴取、2)潜在的感染症のスクリーニング、3)ワクチンの接種――について概説します。

1.感染源への曝露に関する病歴聴取

 詳細な病歴聴取により、免疫正常者では問題にならない感染源への曝露も明らかにできます。特に聴取しておきたい内容を表1に示します。ドナーに関しても同様の情報を得ておくことは、後にレシピエントの感染症リスクを評価するにあたって有用です。

・居住環境、旅行歴(国内、国外含む)

・動物曝露歴(ペット含む)

・食生活(生チーズ摂取や偏食など)

・仕事や趣味(海や山への立ち入りなど)

・嗜好歴(アルコール、タバコ)

・薬剤使用歴

・ワクチン接種歴(幼少期含む)

・(可能であれば)家族のワクチン接種歴

・既往歴
– 過去の手術歴(解剖学的易感染部位の推定)
– 結核の既往や曝露歴(BCG接種歴含む)
– トキソプラズマなどの日和見感染症の有無
– 呼吸器感染症、尿路感染症の有無
– 性感染症の既往(HIV曝露のリスク行動含む)
– 肝炎の既往

表1 感染源への曝露に関する病歴聴取の内容

病歴聴取により、患者が同じ部位の感染症を繰り返している(例えば、憩室炎や副鼻腔炎)と判明した場合は、移植前に外科的処置も含めた感染のコントロールを検討すべきです。

2.潜在的感染症のスクリーニング

 過去の感染曝露、あるいは現在の活動性の感染症を評価するため、表2に示す項目についてスクリーニングを施行します。また、ドナーの潜在的感染症のスクリーニングも必要です。評価項目は原則的にレシピエントのものに準じます。

ルーチンで測定すべき項目特殊な環境下で測定すべき項目
・抗HIV抗体(HIV-1、HIV-2含む)
・B型肝炎ウイルス(HBs抗原/抗体、HBc抗体)
・C型肝炎ウイルス抗体
・CMV IgG抗体
・EBウイルス IgG抗体
・単純ヘルペスIgG抗体(1、2型いずれも)
・水痘・帯状疱疹ウイルスIgG抗体
・トキソプラズマIgG抗体(特に心臓移植患者)
・梅毒(非トレポネーマ試験)
・ツベルクリン反応(ただし、免疫抑制状態でアネルギーとなる可能性あり。クオンティフェロンの使用も検討事項)  
・地域流行性疾患(曝露歴がある場合)
 -糞線虫
 -Trypanosoma cruzi (シャーガス病)
 -ヒストプラズマ症
 -コクシジオイデス症
 -リーシュマニア症
 -HTLV-I、HTLV-II抗体
 -ウエストナイルウイルス
 -便中の寄生虫卵、虫体
 -尿中の寄生虫卵、虫体(住血吸虫症、腎移植 )
・各臓器の感染を過去に繰り返している患者、長期入院患者、頻回の広域抗菌薬曝露歴のある患者の該当臓器の定着菌の培養
 -尿培養(膀胱尿管逆流などで尿路感染を繰り返している患者など)
 -痰培養(嚢胞線維症や慢性肺疾患など)
表2 潜在的感染症のスクリーニング項目

3.ワクチンの接種

 移植後の免疫抑制下では、健常者と比較してワクチンによる十分な免疫応答が期待できないため、必要なワクチン(表3) は可能な限り移植待機中に接種しておくことが望ましいです。生ワクチンに関しては、アメリカ移植学会(American Society of Transplantation;AST)[1]では最低でも移植4週間前までには接種を終えておくことが推奨されており、移植後は原則禁忌です。移植後 の不活化ワクチンに関しては、最低6か月経過して免疫抑制が解除された時期から再開されることが多いです。以下、各ワクチンに関して個別に概説します。

ワクチン不活化/生移植前移植後備 考
破傷風(DPT)不活化“D”による局所反応は免疫抑制状態であり、問題にならないことが多い
百日咳(DPT)不活化移植後ならapよりaP
ポリオ(IPV)不活化経口生ワクチンは禁忌
肺炎球菌(PPSV23)不活化・抗体価チェックを推奨
・PSVは免疫原性が悪く、今後PCV7(or13)に置き換わる可能性あり(あるいは組み合わせて使用)
インフルエンザ菌(HIB)不活化成人臓器移植では肺移植患者などには考慮
インフルエンザウイルス不活化・2回目のワクチンの根拠は乏しい
・家族も接種を推奨
・マイコフェノレートモフェチル(MMF)を使用すると免疫原性が弱まる可能性あり
・経鼻生ワクチンは禁忌
B型肝炎不活化・移植後は免疫原性が弱まるので極力移植前に投与(0/1/6か月)。ただし、迅速スケジュール(0/7/21日)では少し効果が落ちるかもしれない
・移植前および移植後6~12か月ごとにHBs抗体価をチェックして<10IU/Lならブースターを検討
・B肝陽性患者の肝移植では、移植肝の感染を防ぐため、抗HBs免疫グロブリン(HBIG)を移植後約1年は使用する施設が多い
A型肝炎不活化移植臓器にかかわらず全慢性肝疾患患者
髄膜炎菌(MCV4)不活化軍人、ハイリスク地域への旅行者、寮などの共同生活者、エクリズマブ投与中、補体欠損者などのindicationある患者のみ
パピローマウイルス(2価/4価)不活化現状の9~26歳女性のみならず、男性への使用や年齢上限が拡大される可能性あり
麻疹/風疹/ムンプス(MMR)×原則、小児での移植や移植後の妊婦で問題となる
水痘・帯状疱疹×・移植まで最低4週は空ける。万が一、それまでに移植が行なわれる場合は、周術期はアシクロビル点滴かバラシクロビル内服で予防
・もし、水痘を疑わせる患者と接触した場合は、96時間以内に水痘・帯状疱疹免疫グロブリン(VZIG)を投与。入手不可ならアシクロビルまたはバラシクロビルで曝露後予防
・ゾスタバックス(商品名)に関しては現時点で移植患者におけるデータがない
ロタウイルス×原則、小児での移植時に問題となる
表3 ワクチンの種類
※青字のワクチンは全移植患者に推奨されるもの。

 なお、ワクチンそのものが移植臓器の拒絶反応を起こすとしたケーススタディ[2]も存在しますが、現時点で十分な根拠には乏しいといえます。

 ワクチンに関するもう一つの着眼点は、「家族(接触者)へのワクチン」です。特に、患者本人のワ クチン接種が制限される生ワクチン(MMR、水痘・帯状疱疹)に関しては、家族で免疫がない者は接種が推奨されます。ただし、家族でワクチン接種後に(特に水痘・帯状疱疹ワクチンで)発疹が出現するなどした場合は、患者への感染を予防するため、その家族との接触は避けるべきです。


【References】
1)Danzinger-Isakov L,et al:Guidelines for vaccination of solid organ transplant candidates and recipients.Am J Transplant.2009 Dec;9(Suppl 4):S258-62.
2)Avey RK,et al:Update on immunizations in solid organ transplant recipients:what clinicians need to know.Am J Transplant.2008 Jan;8(1):9-14.

(続く)

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