No. 332012. 04. 05
成人 > ケーススタディ

「声が出しにくい」という訴えで受診した50歳代男性(1/3)

日本赤十字社和歌山医療センター感染症科

古宮 伸洋

(今号は3週連続で配信します。)
※本症例は、実際の症例を参考にして作成した架空のものです。


  4月某日の内科外来――。「朝から声が出しにくくて、朝ご飯も飲み込みにくかった」という訴えで50歳代の男性が受診した。意識は清明で、血圧、体温などに異常はなかった。発語はやや聞き取りにくい感じはあったものの明らかな構音障害はなく、四肢運動麻痺なども認めなかった。外来担当医は脳梗塞の可能性を考え頭部CT撮影をオーダーしたが、異常所見は認められず、その日は帰宅となった。

 2日後、家で動けなくなっているところを親戚に発見され、救急車で当院を受診した。

既往歴

 特記なし

家族歴

 特記なし

生活歴

  • 不定期に解体作業、運送業などの手伝いを行なっている
  • アルコール:缶ビール(350mL)1本/日程度
  • タバコ:20本×15年ほど吸っていたが10年前に禁煙

来院時の身体所見

  • 身長162cm、体重60kg
  • 体温37.8℃、血圧160/90mmHg、脈拍130bpm、SpO2 96%
  • 呼吸数:25回/分
  • 全身状態:かなりつらそうな様子で、体を突っ張らせて(硬直して)いる。 意識は清明で、医療者からの問いかけは理解しているが、ろれつが回らずうまく返答することができない
  • 頭頸部:結膜に貧血・黄疸なし、リンパ節を触知しない、口を開けにくいとのことであったが、できる範囲で開けてもらうと、口腔内には齲歯が多数認められた(
  • 胸部: 両肺野に雑音を聴取しない
  • 心血管系:雑音を聴取しない
  • 腹部:平坦、やや硬い、圧痛および自発痛なし
  • 四肢:浮腫なし
図 「口を開けて」とお願いしたときの様子

画 像

  • 胸部X線撮影:異常所見なし

血 算

  • WBC 20500/μL(Neut 82.1%、Lym 4.7%、Mono 11.3%、Eos 0%)
  • RBC 550万/μL、Hb 17.0g/dL、Hct 49.7%、Plt 31.5万/μL

生化学

  • Na 150mEq/L、K 4.3mEq/L、Cl 107mEq/L
  • BUN 37.0mg/dL、Cr 1.50 mg/dL、BS 134mg/dL、CPK 4290 U/L
  • AST 106IU/L、ALT 45IU/L、LDH 534IU/L、γ-GTP 11IU/L、T-Bil 1.3mg/dL
  • Glu 186 mg/dL、CRP 0.96mg/dL

検 尿

  • タンパク(2+)、糖(-)、ビリルビン(-)、ケトン(-)、潜血(3+)

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 診断のために、どのような身体所見や情報が必要でしょうか?
初期評価のために、何をしますか?

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(続く)

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  • 2)東北大学大学院医学系研究科新興・再興感染症学講座
  • 3)帝京大学医学部附属病院感染制御部
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