No. 322012. 02. 09
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繰り返す発熱と自己炎症症候群――感染症科医のためのprimer(4/4)

帝京大学ちば総合医療センター血液・リウマチ内科

萩野 昇

(今号は4週連続で配信しました。 1回目  2回目  3回目

指導医ぶぅちん(以下「ぶぅちん」) 「さて、しまむら君」

研修医しまむら(以下「しまむら」) 「なんでしょう、ぶぅちんセンセ!」

ぶぅちん 「家族性地中海熱について知るところを述べよ」

しまむら 「あ、アレですよね。地中海に家族旅行に行った後、熱が出るやつ」

ぶぅちん 「知らないことは知りませんと言いなさい」

しまむら 「しかし、こんなまれな疾患について、知っておく必要ってあるんですか?」

ぶぅちん 「かつて尊敬する先生に、同じような質問をしたことがある。そしたら、”I rarely see those diseases, but the diseases are seeing me.”って言われたね。気づかない間に目の前を通り過ぎているだけだって」

しまむら 「ふーん。でも、それにしても……」

ぶぅちん 「不明熱診療に携わる人ならみんな持っているCunha先生のモノグラフ”Fever of Unknown Origin”の中で、『血沈 100mm/時となるFUO(fever of unknown origin)』として骨髄炎や側頭動脈炎と並んで”Hyper-IgD syndrome(HIDS)”が挙げられているのには感動した。Cunha先生の目の前はパスできなかったわけだ。なぜHIDSだけが挙げられているのか、そもそも本当にHIDSで血沈が100を超えるのかは……」

しまむら 「神のみぞ知る、ですね」

ぶぅちん 「まあ、総論・各論だけではピンとこないだろうから、症例をいくつか見てみようか。どれも実際にあった症例で、『こんなかたちで隠れていますよ』というのが教訓的だ。もちろん、ディテールは改変しています」

しまむら 「よろしくお願いします!」

ぶぅちん 「症例その1――外来を引き継いだときに、引き継ぎメモに『線維筋痛症・発熱』と書いてあった20歳代女性」

しまむら 「線維筋痛症で発熱って変ですね」

ぶぅちん 「いいこと言うねえ。線維筋痛症は血沈正常、自己抗体陰性が原則だ。もちろん、関節リウマチやその他のリウマチ性疾患に合併することはあって、そのときはその限りではない」

しまむら 「ふむふむ」

ぶぅちん 「実際に診療してみると、患者さんは非常に協力的な方なんだけど、同時に『先生、原因は分かんなくてもいいよ? これまでどの先生にも諦められていたもん』と、若干投げやりな感じでもあった。10歳代後半から出てきた発熱は、数日持続して解熱薬で改善する。もしかしたら、それを内服しなくても解熱したのかもしれないけど、試したことはないらしい」

しまむら 「ほうほう」

ぶぅちん 「さすがに10年近く感染症や悪性腫瘍による発熱が持続することはまれだろうし、何だろうなあと思いつつ診察。身体診察では明らかな異常なし。皮膚がなんだか『かさついて』いる感じかな、とだけ思った。リウマチ科の外来なので、自己抗体や血清マーカーなんかは『一通り調べられていて』陰性。自己抗体陰性で若年女性、発熱というキーワードがそろったら?」

しまむら 「サルコイドーシス、クローン病、高安動脈炎なんかを考えます」

ぶぅちん 「渋い! 地中海家族旅行とか言っていたしまむら君とは別人のようだ」

しまむら 「ぶぅちん先生がこの前レクチャーで『熱に浮かされた若い女性、猿喰ったか?(サル・ク・タカ)』って言っておられたのが、あまりにも意味不明で忘れられません!」

ぶぅちん 「そんなこと言ったっけ? 自身が熱に浮かされていたとしか思えん……。まあ、確かにどれも典型例では診断に悩まないけど、両側肺門リンパ節が腫脹しないサルコイドーシス、小腸限局型のクローン病、腎動脈に限局した炎症で線維筋性異形成と鑑別困難な高安動脈炎なんかでは、何年も診断つかないかもしれないね」

しまむら 「ふーん」

ぶぅちん 「しかし、それらであったとしても、さすがに10年以上無治療だと、何か身体診察なり血液検査なりで引っかかる異常が出てくると思う。そして、診療開始から6か月したところで、驚きの展開が!」

しまむら 「ゴクリ……」

ぶぅちん 「なんと、発熱のたびに腹痛が生じていた!」

しまむら 「えええ!」

ぶぅちん 「臨床所見は比較的典型例の家族性地中海熱だったわけだ。コルヒチンで10年来の腹痛もよくなって、患者さんは満足しておられたよ。後で聞いたら、以前の担当医に『◯◯◯ン(注:オピオイド系鎮痛薬)中毒じゃないの? 僕は◯◯◯ン中毒の患者は診ないからね』と言われて、腹痛を隠していたらしい」

しまむら 「なんともはや……」

ぶぅちん 「症例その2――発熱のため内科初診外来を受診した20歳代女性」

しまむら 「ふむふむ」

ぶぅちん 「いつも『風邪をひいて』近くの病院を受診していたけど、今回はたまたまこちらの内科外来にいらっしゃった。病歴聴取で『よく首のリンパが腫れる』と。15歳の頃、腎盂腎炎で入院した既往あり」

しまむら 「ふむふむ」

ぶぅちん 「風邪シーズンの忙しい内科外来だと危うくスルーするところだったけど、幸い時間の余裕があったので詳しく聴取できた。『風邪』はだいたい1か月に1回、規則正しくひいているらしい。そんなかぜ症候群ある?」

しまむら 「ないと思います」

ぶぅちん 「1か月に1回規則正しく熱が出て、頸部のリンパ節が腫脹して、それが3~5日続いて、近くの病院で薬をもらって改善するということを、小児の頃から延々と繰り返していたらしい」

しまむら 「小児の頃から!」

ぶぅちん 「そう。その患者さんにとっては、自分の体質は『そういうもの』だったので、新しい目で見ないと気づかない。15歳の頃の『腎盂腎炎』も、起因菌が同定されたわけではなく、発熱が続いて入院して、入院中には『口内炎が出て』、抗生物質で治ったとのこと。患者さんが既往歴を病名でおっしゃるときには注意が必要だね」

しまむら 「なるほど」

ぶぅちん 「この患者さんは、臨床症状はPFAPA症候群様で、HIDSの可能性も少しだけ考えながら外来で診療を継続しています。PFAPA症候群としては発症年齢が高いことが気になるけど(多くは5歳以下で発症)、そのような症例もあるようだね。ちなみに、血中IgD 値はカットオフ値を少し超えていたけど、参考所見止まり」

ぶぅちん 「もちろん、最初からこういったまれな病態を疑って診療する必要はないし、そうすべきでもない。除外しなければならない疾患はたくさんある。何よりも、抗菌薬がちょっとだけ投与されて見かけの臨床所見が改善した骨髄炎、感染性心内膜炎、膿瘍など、『partially-treated ナントカ』が一番の大敵だし、依然として結核には足元をすくわれる」

しまむら 「ふむふむ」

ぶぅちん 「そして、回帰する発熱で感染症と言えば!」

しまむら 「言えば!」

ぶぅちん 「回帰熱!」

しまむら 「ダニとシラミで重症度とか違うやつですね!」

ぶぅちん 「……変なところを覚えているなあ。起因微生物は?」

しまむら 「それもダニとシラミで違うやつですね!」

ぶぅちん 「……間違っちゃいないけど。KANSEN JOURNALのバックナンバーで復習しといてね」[1]

ぶぅちん 「かなりエッジの効いた内容でお送りした『自己炎症症候群』でしたが、ご参考になりましたでしょうか?」

しまむら 「センセ、エッジが効いたというより、先生のいろいろな立場がオン・ザ・エッ……(バキッ)」

ぶぅちん 「ということで、終幕でございます」


【References】
1)忽那賢志, 笠原敬: 周期性の発熱と下肢痛を主訴に受診した20代女性. KANSEN JOURNAL. 2011; 27.
http://www.theidaten.jp/journal_cont/20110528J-27-4.htm

(了)

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