侵襲性カンジダ症の診断と治療(3/3)
3回目の配信は、侵襲性カンジダ症の治療についてです。
抗真菌薬の概要
現在、侵襲性カンジダ症の治療の主体となっている抗真菌薬は、アゾール系、ポリエンマクロライド系、エキノキャンディン系の3つです。
アゾール系の薬理作用は、菌体を構成するエルゴステロールの合成阻害によります。アゾール系は肝臓のチトクロームP450を介して代謝されるため、同じP450で代謝される他の薬剤との相互作用が見られ、注意が必要です。
アゾール系の代表格であるフルコナゾールは、豊富な臨床実績、安全性、ジェネリックがあって安価であることから、今なお第一線で活躍している薬剤です。
同じくアゾール系のボリコナゾールは、カンジダ全般への試験管内での感受性がフルコナゾールより優れ、さらにフルコナゾールに自然耐性を持つC.kruseiにも活性があるという特徴があります。ただし、その耐性傾向には地域差があることが報告されています[1]。
アゾール系には、ほかにイトラコナゾールや新薬のposaconazoleなどもあります。イトラコナゾールは経口薬だと吸収が不安定で、尿、髄液、眼球などへの移行も悪く、糸状菌へのスペクトルを有するものの、主選択薬としてのworld evidenceレベルの比較対照研究にも乏しいという欠点があります。posaconazoleに関してはわが国では認可されておらず、試験管内での感受性はよいものの、経口薬しかないという弱点もあります。
ポリエンマクロライド系は、エルゴステロールに結合し、膜透過性亢進によって殺真菌作用を示します。代表薬であるアンホテリシンBは、以前は侵襲性カンジダ症に対して好んで使用された薬剤です。しかし、腎毒性が問題となり、現在では腎毒性を弱めたアンホテリシンBリポソーム製剤に取って代わられることが多くなりました。ただし、リポソーム製剤はアンホテリシンBより極めて高価で、用量が多くなり、腎毒性以外の副作用の頻度は変わらないという問題点があります。
エキノキャンディン系は、ほとんどのカンジダに奏効する高い活性と安全性を持つ薬剤で、β-Dグルカン合成阻害によって殺真菌作用を示します。C.parapsilosis などにはMICが高く、感受性不良である傾向がありますが、その臨床的意義はよく分かっていません。ちなみに、わが国で認可されているエキノキャンディン系はミカファンギンだけです。
上記三系統の抗真菌薬以外にフルシトシンという抗真菌薬もありますが、薬理作用が静菌的なので、他剤と併用されることが一般的です。
抗真菌薬の使用法
これらの抗真菌薬を侵襲性カンジダ症に対して使い分ける際に重要になってくるのが、フルコナゾール耐性の有無です。フルコナゾール耐性のカンジダ属の代表格はC.krusei とC.glabrata ですが、それぞれ耐性の機序が異なります。C.krusei が用量にかかわらずフルコナゾール耐性なのに対して、C.glabrata では薬剤排出ポンプによる耐性傾向を示すため、フルコナゾール高用量だと感受性を示すことがあります。
逆に、フルコナゾールに感受性が良好でありながら、他の薬剤に感受性不良を示すものに、ミカファンギンに対するC.parapsilosis、アンホテリシンBに対するC.lusitaniae があります。
それでは、実際の臨床で、ターゲットとするカンジダ菌種や薬剤耐性について不明な場合には、どのように薬剤を選んでいけばよいのでしょうか?
非好中球減少症の患者であれば、原則としてフルコナゾールを第一選択とします。
フルコナゾールとミカファンギン、アンホテリシンBのそれぞれ実際の成績の比較についてですが、非好中球減少症合併例ではアンホテリシンBとフルコナゾールとで有効性に差がないことがいくつかの試験で判明しています。しかも、その際に明らかにフルコナゾールのほうが腎毒性が少なかったという経緯があります[2、3]。
他方、ミカファンギンとフルコナゾールの比較では、ミカファンギンの群のほうが臨床経過や微生物学的な反応率はよかったものの、60日間での死亡率に両群の有意差はなかったという試験の結果があります[4]。
これらの試験結果を見ても、非好中球減少症の侵襲性カンジダ症で、フルコナゾールが最初に検討される薬剤であると思われます。
逆に、フルコナゾールの使用が望ましくない場合としては、表のようなものがあります。いずれかに該当する場合は、ミカファンギンやアンホテリシンBを選択し、フルコナゾールを避けたほうがよいでしょう。
・血行動態が不安定である。 ・フルコナゾール耐性のカンジダ属の分離や定着がある。 ・アゾール系の最近の投与歴がある。 ・C.glabrata 感染のリスクが高い集団(高齢者、がん患者、糖尿病患者)に属する。 ・その施設での感受性分布でアゾール耐性傾向のカンジダ検出率が高い。 |
好中球減少症を伴う侵襲性カンジダ症の経験的治療に関しては、非好中球減少に比べてデータに乏しくなるため、不透明なところがあります。
好中球減少症合併例でも、臨床的に安定していて、アゾール系の投与歴がないのであれば、フルコナゾールを選択することもあると思われます。しかしながら、好中球減少症が起きる集団では、すでにフルコナゾールが投与されていたり、長期入院していたり、がん患者などであったりと、フルコナゾール耐性のリスクが高くなりがちです。それゆえ、好中球減少症を伴う侵襲性カンジダ症の初期治療には、ミカファンギンあるいはアンホテリシンBリポソーム製剤が選ばれる傾向にあります。
しかし、その選択の有効性を証明する明確なエビデンスはまだ得られていません。好中球減少症患者における初期治療の奏効率で比較した実際の臨床試験においては、フルコナゾール、アンホテリシンB、エキノキャンディン系のcaspofungin は、ほぼ同等の成績(65%前後)であったことが確認されています[5、6]。しかし、臨床試験の結果は乖離しており、caspofungin とアンホテリシンBの比較では、caspofunginの優位を示すデータもある一方で[7]、ミカファンギンとアンホテリシンBリポソーム製剤では奏効率に差が出なかった[8]データもあります。
合併症によって抗真菌薬を使い分ける必要もあります。眼内炎合併に対しては、眼内移行不良のミカファンギンを避けてアンホテリシンBやアゾール系が優先されます。感染性心内膜炎や髄膜炎の合併例でもアンホテリシンBが好まれる傾向があります。
また、抗真菌薬以外の留意点としては、カンジダ血症の転帰を左右するのが好中球数回復であるとのデータが出ているため[9]、薬剤選択に加えて、好中球数の回復自体が重要になります。
病因となったカンジダの種類が分離され、容体が安定していれば、標的治療を試みます。
病因のカンジダがフルコナゾール感受性であれば、フルコナゾールに薬剤変更をします。それ以外ではミカファンギンが推奨されます。分離された菌がC.krusei もしくはボリコナゾール感受性のC.glabrata であれば、経口薬にする場合に限り、ボリコナゾールを使用することもあります。
抗真菌薬投与終了の目安は、血液培養が陰性化し、すべての合併症の症状が消失してから14日後です。好中球減少症患者であれば、これに好中球減少から脱していることが条件に加わります。発熱や血液培養陽性が持続する場合には、膿瘍や感染性心内膜炎などの合併症の精査を行なう必要があります。
侵襲性カンジダ症で特に注意が必要な合併症はカンジダ眼内炎です。とりわけ非好中球減少症患者に多く、約1割に起こるとも言われるため、眼底チェックは症状の有無にかかわらず必須です。眼科的検査のタイミングは通常は治療開始後早期に行われますが、好中球減少症患者では好中球回復に伴って眼内炎症状が出現することがあるため、好中球回復まで待ってから再検したほうがよいかもしれません。好中球減少症患者では多発性肝脾膿瘍を合併し、しばしば不明熱の原因になります。好中球回復期にCTなどの画像診断で顕在化してくることが典型的です。
侵襲性カンジダ症とカテーテル抜去
侵襲性カンジダ症の管理の際の問題に「カテーテル留置の是非」があります。中心静脈カテーテルに関しては、原則としては、抜去ないしは別の部位への差し替えが推奨されています。非好中球減少症患者では、カテーテル抜去がカンジダ血症の期間を短縮し、死亡率を低下させるという、抜去を強く支持するデータが得られているからです[10]。ただし、好中球減少症など、真菌の侵入経路がカテーテルでなく粘膜障害を起こした腸管が主だと考えられる場合には、カテーテル抜去を疑問視する意見もあります。好中球減少症におけるカンジダ血症では、早期カテーテル抜去は血液培養消失時期を早めず、治療成功率や予後改善などの従来言われていた利点も、多変量解析では消失したという報告もあります。
それでは、侵襲性カンジダ症の治療についてまとめます。
・侵襲性カンジダ症の経験的治療では、フルコナゾール耐性のリスクと合併症の有無、重症度に応じて治療薬を決定します。 ・経験的治療でアゾール耐性が疑われる場合には、ミカファンギンやアンホテリシンBリポソーム製剤を使用します。 ・侵襲性カンジダ症の原因真菌がフルコナゾール感受性であれば、フルコナゾールを使用します。 ・治療終了の目安は、合併症がなければ、血培陰性後14日後です。 ・侵襲性カンジダ症では、眼底検査とカテーテル抜去が必要です。 |
【References】
1)Pfaller MA, et al: Candida krusei, a multidrug-resistant opportunistic fungal pathogen: geographic and temporal trends from the ARTEMIS DISK Antifungal Surveillance Program, 2001 to 2005. J Clin Microbiol. 2008 Feb; 46(2): 515-21.
2)Phillips P, et al: Multicenter randomized trial of fluconazole versus amphotericin B for treatment of candidemia in non-neutropenic patients. Canadian Candidemia Study Group. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1997 May; 16(5): 337-45.
3)Pfaller MA, et al: Candida krusei, a multidrug-resistant opportunistic fungal pathogen: geographic and temporal trends from the ARTEMIS DISK Antifungal Surveillance Program, 2001 to 2005. J Clin Microbiol. 2008 Feb; 46(2): 515-21.
4)Roboli AC, Rotsein C, Papas PG, et al: Voriconazole versus a regimen of amphotericin B for candidaemia and invasive candidosis : a phase III ranodomised double-blind trial. Lancet. 2007; 269:1519.
5)Anaissie EJ, et al: Fluconazole versus amphotericin B in the treatment of hematogenous candidiasis: a matched cohort study. Am J Med. 1996 Aug; 101(2): 170-6.
6)Betts R, et al: Efficacy of caspofungin against invasive Candida or invasive Aspergillus infections in neutropenic patients. Cancer. 2006 Jan 15; 106(2): 466-73.
7)Mora-Duarte J, et al: Comparison of caspofungin and amphotericin B for invasive candidiasis. N Engl J Med. 2002 Dec 19; 347(25): 2020-9.
8)Kuse ER, et al: Micafungin versus liposomal amphotericin B for candidaemia and invasive candidosis: a phase III randomised double-blind trial. Lancet. 2007 May 5; 369(9572): 1519-27.
9)Anaissie EJ, et al: Predictors of adverse outcome in cancer patients with candidemia. Am J Med. 1998 Mar; 104(3): 238-45.
10)Nguyen MH, et al: Therapeutic approaches in patients with candidemia. Evaluation in a multicenter, prospective, observational study. Arch Intern Med. 1995 Dec 11-25; 155(22): 2429-35.
(了)