No. 252011. 03. 29
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院内における下痢症(Clostridium difficile腸炎)(2/3)

東京女子医科大学感染症科/ 東京都立墨東病院救急診療科(東京ER墨東)

相野田 祐介

 (3分割配信の2回目です。 1回目

所 見

 下痢はもちろんですが、発熱のみが見られるなど、症状がすべてそろわないこともあります。重症例では腸炎の症状としてイレウスをきたすこともあり、結果として下痢のない腸炎も存在します。そのため、入院患者の不明熱では、CDIを鑑別疾患に入れることがしばしばあります。

 一般検査所見では白血球の増多がしばしば認められますが、それ自体は非特異的なものであり、あくまで傾向というだけであって、診断に大きく寄与するものではありません。ただし、初期には下痢の前に白血球上昇をきたす例があるため、下痢のない白血球上昇のケースで、CDIを鑑別疾患として挙げつつ注意深い経過観察が必要なこともあります。

 内視鏡検査では偽膜の形成が有名ですが、偽膜を形成しないケースもあり、感度は50%程度との報告もあるので、注意が必要です[1]。

検 査

1.便のトキシン検査

 基本的には、便のトキシン検査が重要になります。トキシンには主にAとBがありますが、従来はAの測定キットのみしかなく、特異度は90%以上と高かったものの感度が60~80%程度とやや低く、陰性の場合でも注意が必要でした[2]。最近ではトキシンAとトキシンBの両方を測定できるキットも発売され、感度が改善したとされています。ただし、検査には当然限界があり、検査キットも試薬やそのほかの条件によって検出感度が異なることがあります。すべてのキットで同様の結果が得られるかどうかについては、今後さらなる検討が必要です。また、検体側の問題で正確な結果が出ないこともあり、例えば採取後2時間以上経過した場合や冷蔵庫で保管した場合には偽陰性が増えるとされています[3]。

 スワブでの採取も、検査キットに使う便の検体量(キットの種類にもよるが、25μL以上としているものが多い)が足りない可能性が高く、希釈してしまうと不適切な濃度の便になってしまい、またスワブの材質の影響を受ける可能性もあることから、推奨されていません。もちろん、CDIを疑ってもいない便のトキシン検査は論外です。

 従来、便のトキシン検査が陰性であったときは計3回繰り返すとされてきました。これは、抗酸菌の喀痰塗抹検査などと同様に、繰り返すことで検査感度が上がると考えられてきたためです。しかし最近では、陰性例で繰り返し検査を行なうことには否定的となってきています。初回陰性例で繰り返し検査を行なったところ、2回目以降は真の陽性よりも偽陽性が増えてしまったとの報告もあり[4]、有用性に疑問がもたれたためです。最新のガイドラインでも、初回陰性だった場合の検査の繰り返しは推奨されていません[1]。

 もちろん、検体不良のための偽陰性もあるので、初回が前述のような不良検体であった場合で、その後に良質な検体(排便後間もない下痢便)が採取できたのなら検討する価値はあるかもしれません。ただ、検査陰性であっても臨床経過や重症度からCDIであるかどうかを検討することもありますし、その結果CDIと判断して治療を行なうこともあります。

2.そのほかの検査

 IDSA/SHEAのガイドラインなどでは、便培養で菌を検出して、それに対して毒素産生検査を行なうことが最も感度・特異度に優れるとされています。ただし、一般的な臨床現場では、便培養はあまり意味がありません。嫌気性菌を狙わない一般的な便培養ではC.difficileの培養検査感度が低く、検出されたとしてもCDIの原因となる毒素を出しているかどうかの検査が一般的な施設では困難であるためです。

次のウェブサイトで、IDSA/SHEAのガイドラインを見やすいポケット版にしたものが掲載されています。

 また、しばしば指摘されてきたMRSA腸炎ですが、その存在も含めて様々な議論があります。その議論がどうあれ、MRSAは消化管内の常在菌でもあり、単なる便培養のみでMRSA陽性となっただけでは保菌を示しているに過ぎない可能性が高く、ただちに腸炎を意味するものではありません。従来MRSA腸炎とされてきたものの多くが実はCDIであり、結果としてVCMの消化管内投与で用が足りたという例も多数あります。

 画像検査については、CT検査の感度・特異度ともに充分ではなく、画像単独での診断は困難です[5]。

 次回は、軽症~重症例・再発例の治療と感染対策について考えていきたいと思います。


【References】
1)Cohen SH, et al: Clinical practice guidelines for Clostridium difficile infection in adults: 2010 update by the society for healthcare epidemiology of America (SHEA) and the infectious diseases society of America (IDSA). Infect Control Hosp Epidemiol. 2010 May; 31(5): 431-55.
2)Vargas SO, et al: Evaluation of a new enzyme immunoassay for Clostridium difficile toxin A. J Clin Pathol. 1997 Dec; 50(12): 996-1000.
3)CDC: Frequently Asked Questions about Clostridium difficile for Healthcare Providers. http://www.cdc.gov/HAI/organisms/cdiff/Cdiff_faqs_HCP.html
4)Peterson LR, Robicsek A: Does my patient have Clostridium difficile infection? Ann Intern Med. 2009 Aug 4; 151(3): 176-9.
5)Kirkpatrick ID, Greenberg HM: Evaluating the CT diagnosis of Clostridium difficile colitis: should CT guide therapy? AJR Am J Roentgenol. 2001 Mar; 176(3): 635-9.

(続く)

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