No. 232010. 12. 04
成人 > レビュー

サイトメガロウイルス感染症の診断と治療(2/3)

神戸大学医学部附属病院 感染症内科

羽山 ブライアン、大路 剛

 (3分割配信の2回目です 1回目

伝染性単核球症

  サイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)感染によって生じる疾患のうちで最も多いのは、ご存じのとおり伝染性単核球症(infectious mononucleosis ; IM)です。IMは軽症であれば「ちょっと風邪が長引くな」という程度の症状しかきたさないため、厳密な調査を行なうことは事実上不可能です。したがって、正確な疫学データはありませんが、全人口の数%程度には生じるとされています。このうち8割程度はEBウイルス(Epstein-Barr virus ; EBV)によるものですが、残りの2割程度のほとんどはCMVによるものとされます[1]。

 臨床症状は発熱、倦怠感、全身関節痛・筋肉痛など非特異的な全身症状が主となります。EBVによるIMではよく見られる咽頭炎、全身(特に頚部の)リンパ節腫脹、肝脾腫などは、CMVでも見られはするものの、EBVの場合に比べるとやや頻度が下がります。肺炎、心筋炎、肝炎、脳炎などの合併症もまれに見られますが、重症例は珍しく、ほとんど見られません。一部の症例でギラン・バレー症候群を続発することがあります[2]。

 検査所見としては、疾患名の由来である異型リンパ球の出現が特徴的です。他にはリンパ球増多を伴う白血球増多、トランスアミナーゼの上昇などが見られます。

 診断は主に血清診断によります。CMV-IgGのペア血清測定(急性期とその2週間以上後の採血で、4倍以上の抗体価の開きがあれば急性感染と診断)やCMV-IgMの測定などで行ないます。前者については、他のペア血清を測定する疾患と同様、診断がつく頃には臨床症状が改善していますし、後者については、偽陽性やIgM持続陽性患者の問題があり、いま一つクリアカットな診断法がありません。しかし、そもそも治療を要することが非常に珍しいためか、CMVによるIMに対して、PCRやアンチゲネミア法といった、より新しい診断技術を応用しようという動きはあまり見られないようです。

 ほとんどの場合で、すべての臨床症状が時間とともに自然軽快するため、特異的な治療は不要です。肺炎などの臓器障害が出現していたとしても、抗ウイルス療法は不要と考えられています。もし、重症な病態に陥って治療を要するとすれば、後でお話しする免疫抑制患者での治療を応用するのが妥当と思われますが、実績は限られており、適切な薬剤、投与量・期間は不明です。

先天性CMV感染症

  先天性CMV感染症は、妊娠中に母親が初感染した場合に胎児に生じる感染症です。TORCH症候群の一つとして有名ですが、そのうちでもCMVによるものが最も多く、世界の全出産の1%程度にCMV感染が生じているとする報告があります。その1割程度で点状出血、肝脾腫、黄疸、小頭症などを示す症候性の感染症が生じます。さらには、症候性の患者の半数~9割、無症候性の患者でも1割程度において、感音難聴や精神発達遅滞などの後遺症が見られます。特に難聴は高頻度に見られる後遺症で、先天性感音難聴の1/3はCMVによるものとの報告もあります[3]。

 診断は尿からのウイルス培養、PCR、臍帯血中のCMV-IgMなどで行ないます。先天性CMV感染では、出産前に病理学的な変化がある程度進んでしまっているという面があり、治療に用いる薬剤の副作用も強いため、マネジメントに関する定見はまだありません。しかし、近年では、症候性の感染を起こしている新生児に対してガンシクロビルやバルガンシクロビルでの治療が積極的に試みられており、将来の感音難聴を減らすとの報告も見られます[4]。副作用の少ない治療薬が今後導入されるようであれば、積極的なスクリーニングとそれに応じた治療がいずれ一般的になるかもしれません。


<References>
1.Klemola E, et al: Infectious-mononucleosis-like disease with negative heterophil agglutination test. Clinical features in relation to Epstein-Barr virus and cytomegalovirus antibodies. J Infect Dis. 1970 Jun; 121(6): 608-14.
2.Schmitz H, Enders G: Cytomegalovirus as a frequent cause of Guillain-Barre syndrome. J Med Virol. 1977; 1(1): 21-7.
3.Kenneson A, Cannon MJ: Review and meta-analysis of the epidemiology of congenital cytomegalovirus (CMV) infection. Rev Med Virol. 2007 Jul-Aug; 17(4): 253-76.
4.Amir J, Wolf DG, Levy I: Treatment of symptomatic congenital cytomegalovirus infection with intravenous ganciclovir followed by long-term oral valganciclovir. Eur J Pediatr. 2010 Sep; 169(9): 1061-7.

(続く)

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