No. 202010. 07. 13
成人 > ケーススタディ

多量の腹水貯留の原因精査を目的に来院した90歳女性(2/3)

亀田総合病院 総合診療・感染症科

馳亮太、山本舜悟

(3分割配信の2回目です 1回目

腹水貯留の原因

 腹水貯留の原因にはいろいろあるが、1)門脈圧亢進が原因の場合、2)門脈圧亢進とは別に原因がある場合に大別される。

 門脈圧亢進の原因として最も多いのは肝硬変で、特発性細菌性腹膜炎が合併することが多い。急性肝炎や肝臓内に発生する悪性腫瘍でも、肝類洞性に門脈圧が亢進する。肝類洞後性の門脈圧亢進の原因としては右心不全やBudd-Chiari症候群、肝類洞前性の原因としては門脈血栓や脾静脈血栓、住血吸虫症が挙げられる。

 一方、門脈圧亢進を伴わない腹水貯留の原因として、癌性腹膜炎、結核性および二次性腹膜炎、腸閉塞、血管炎、膵炎、ネフローゼに伴う低アルブミン血症などが鑑別に挙がる。

 門脈圧亢進が原因か、門脈圧亢進とは関連のない原因かを区別するためには、Serum-Ascites Albumin Gradient(「血清中のアルブミン-腹水中のアルブミン」の値)略してSAAGが有用な指標となる。これが1.1以上であれば門脈圧亢進、1.1未満であれば門脈圧亢進とは関連のないものが原因として疑われる。

SAAG ≧1.1

門脈圧亢進が原因

SAAG <1.1

門脈圧亢進とは関連のない原因

・肝類洞性

– 肝硬変(±特発性細菌性腹膜炎)

– 急性肝炎

– 多発腫瘍(肝細胞癌or 転移性癌)

・肝類洞後性

– 右心不全

– Budd-Chiari 症候群、他の静脈閉塞疾患

・肝類洞前性

– 門脈or 脾静脈血栓症

– 住血吸虫症

・腹膜炎:結核、腸穿孔

・癌性腹膜炎

・膵炎

・漿膜炎

・低アルブミン血症

– ネフローゼ症候群

– 蛋白漏出性胃腸症

・Meigs 症候群(卵巣腫瘍)

・腸閉塞、腸虚血

・術後リンパ管漏出症

検 査

 最初の検査として、血算や生化に加えて、アルブミン、ビリルビンを含めた肝機能値、凝固、HBs抗原、HCV抗体、そして腹水の細胞数、細胞分画、アルブミン値を調べてみることにした。

 血液検査では、B型肝炎やC型肝炎の可能性はなさそうで、アルブミンが低い以外には肝硬変を示唆する結果は出なかった。

 たっぷりとたまった腹水を穿刺してみると、引けてきた液体は黄色透明。SAAGを計算してみると0.9であり、門脈圧亢進とは関連のない原因が示唆された。

 ちなみに腹水の細胞数は850で、リンパ球が40%と優位であった。グラム染色を行なってみたが菌体は確認できず、念のため血液培養のボトルを使って培養検査も提出しておいた。

 2か月間でゆっくりと進行してきたという経過から、悪性腫瘍関連、結核性腹膜炎を念頭に検索を進めた。

 悪性腫瘍に関しては、細胞診を繰り返し提出したものの異型細胞を認めず、上部内視鏡、下部内視鏡、婦人科診察、胸腹部造影CT()、骨盤MRIを施行してみた。しかし、腹水貯留の原因となりそうな悪性腫瘍の存在は確認できなかった。

図 腹部造影CT

 結核性腹膜炎に関しては、抗酸菌の塗抹染色、結核PCR、抗酸菌培養の検査を提出した。抗酸菌培養は結果待ちの状態で、塗抹染色は陰性、PCR検査も陰性であった。

 改めて病歴を取り直してみたが、患者自身に結核の既往はなく、結核曝露歴もなし。追加で行なってみたツベルクリン検査もクオンティフェロン検査も陰性であった。

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さて、この時点ではどのようなことを考え、
どのように今後の診断を進めていったらよいだろうか?

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(つづく)

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