Pneumocystis jirovecii pneumonia(PCP)の診断と治療(1/3)
(3分割配信の1回目です)
Pneumocystis jirovecii pneumonia (以下、PCP)は、無治療では致死的な経過をたどる日和見感染症です。免疫抑制患者に起きる同じ日和見感染症といっても、HIV感染者におけるPCPと非HIV感染者におけるPCPでは大きく臨床像が異なります。しかしながら今までの報告では、主にHIV感染者におけるPCPに対して記述されているものが多く、非HIV感染者におけるPCPに対しても同様に対処してよいものかどうか疑問に感じていた方も多いのではないでしょうか。
今回のレビューでは、PCPの臨床経過、診断、治療、予防について、HIVと非HIV感染者とを随所に対比させながら、まとめてみました。
歴史的な背景
1909年にPneumocystis はChagas(Trypanosoma cruzi によるChagas’ diseaseを発見した医師です)により発見され、当初は原虫トリパノソーマに近いものと報告されましたが、数年後にCariniらによって別の属として考えられるようになり、後にPneumocystis carinii と呼ばれることとなります。その後、1980年代のHIV感染者の増加とともに、日和見感染症として問題となりました。
最近では、ラット由来のPneumocystis carinii とヒト由来のものとで形態学的には非常に似ているものの遺伝子的には異なるため、Pneumocystis jirovecii と呼ばれています。
Pneumocystis はどこにでも存在する
Pneumocystis は世界中に分布し、小児時期において3-4歳までに大部分が暴露されています。ある調査では、小児の血清抗体は52-85%が陽性であったとの報告や、ばらつきはあるものの、小児の鼻咽頭粘液などで17-100%がpolymerase chain reaction(PCR)陽性であったとする報告があります[1]。ですから、後述するようにPCR陽性=Pneumocystis 感染症とは必ずしも診断できないことに注意が必要です。
PCPのリスクファクター
PCPは、HIV患者やステロイド・免疫抑制剤使用などによる細胞性免疫不全を有する患者で主に問題になります。HIV患者ではCD4が低下するにつれて罹患しやすくなり、CD4が200/mclを下回ると6か月以内に8%の割合で発症するという報告もあります。
また、悪性疾患(特にリンパ系造血器悪性疾患)や、骨髄移植をはじめとした臓器移植患者、Wegener肉芽腫やPM/DMなどの自己免疫疾患、重度の栄養失調、未熟児なども発症リスクとして挙げられます。
経 過
PCPの一般的な臨床症状としては、呼吸困難、発熱、乾性咳嗽を呈します。非HIV患者のPCPは、急激な経過をとることが多く[2]、対してHIV患者のPCPでは、数週間以上にわたり症状が持続し、徐々に増悪する亜急性の経過をとることが一般的です。胸部聴診においては異常所見を認めないことが多いため、聴診所見が正常だからといってPCPを除外することはできません。注意深く観察すると低酸素を示唆する頻呼吸やチアノーゼが見られることがあります。
通常、病変は肺に限局しますが、リンパ節、脾臓、肝臓などへの播種性感染例も報告されています。PCPの治療の一つにペンタミジンの吸入がありますが、肺外病変に対しては無効なので注意が必要です
まとめ
- Pneumocystis が発見されて100周年を迎えた。
- Pneumocystis には大部分が小児時に暴露されている。
- HIV患者へ主に感染するが、免疫抑制剤使用者、リンパ系造血器悪性疾患や臓器移植患者などの細胞性免疫不全者もリスクファクターである。
- PCPの臨床症状としては、呼吸困難、発熱、乾性咳嗽が典型的である。
- 非HIV患者では急激な経過を呈する一方で、HIV患者では亜急性の経過をとることが一般的である。
次回は、PCPの診断における、画像所見、気管支鏡検査の適応、PCP-PCR、β-D-glucan の役割についてレビューしたいと思います。
<References>
1. Morris A, Wei K, Afshar K, Huang L. Epidemiology and clinical
significance of pneumocystis colonization. J Infect Dis 2008;197:10-7.
2.Thomas CF, Jr., Limper AH. Pneumocystis pneumonia. N Engl J Med
2004;350:2487-98.
(つづく)