No. 182010. 05. 05
成人 > ケーススタディ

発熱を主訴に来院した40代女性(3/3)

東海大学医学部付属病院総合内科

上田晃弘

(3分割配信の3回目です 1回目 2回目
※本症例は実際にあった症例を元に、個人情報などに配慮しつつ、 再構成したものです。


 脾摘後患者の発熱であり、肺炎球菌性敗血症をはじめとする敗血症を疑い、速やかに血液培養2セット採取後、セフトリアキソン1回2g、24時間ごとの投与を開始した。

 意識障害、頭痛は認めず、髄液穿刺は行わなかった。

その後、入院時の血液培養から、肺炎球菌が2セット中2セット検出された。
幸い、入院後の患者の状態は安定しており、計2週間の抗菌薬の投与を行った後、無事退院となった。なお、この際、肺炎球菌ワクチンを行った。

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診断:脾摘後肺炎球菌性敗血症

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脾摘後敗血症(postsplenectomy sepsis:PSS)とは

脾臓摘出は液性免疫障害をきたす代表的な免疫不全状態である。末梢血中のHowell-Jolly bodyやpacked RBCが脾機能低下を反映するとされる。

問題となる微生物

問題となる微生物には、肺炎球菌、b型インフルエンザ菌、髄膜炎菌などの莢膜を有する微生物(encapsulated bacteria)、イヌ咬傷に伴う
Capnocytophaga spp. などがあるが、肺炎球菌の頻度が最も高く、重要である。

リスク

脾摘後敗血症のリスクは、脾摘の原因となった疾患により異なる。
・低頻度:手術に伴うもの、特発性血小板減少症、外傷
・中頻度:球状赤血球症、ホジキン病、門脈圧亢進症
・高頻度:サラセミア、自己免疫性リンパ増殖性疾患
脾摘後早期(1、2年)が最もリスクが高いが、それ以降でも起こり得る。

病 態

微熱、寒気、咽頭炎、筋肉痛、嘔吐、下痢など、短期間の前駆症状があり、急激に増悪し、数時間で進行する。播種性血管内凝固症候群(DIC)、痙攣、昏睡、電撃型紫斑病、血栓性微小血管障害(TMA)などを引き起こす。歩いて医療機関を受診した患者が数時間でショックになりうる病態である。

診 断

診断には、脾摘後患者、脾機能低下をきたす慢性疾患を有する患者が発熱した場合に常に本症を疑うことが必要である。菌血症である確率がきわめて高く、血液培養は早期に陽性化することが多い。

致死率

古典的には、適切な抗菌薬と集中治療を行っても50~70%と致死率はきわめて高い。早期診断と積極的な治療が予後の改善に有効と思われる。なお、致死率は脾摘の原因と関連性はない。

対 応

本症を疑った場合には、速やかに抗菌薬の投与を開始する必要があり、評価のために治療開始が遅れてはいけない。具体的には、肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌を対象として、セフトリアキソン1回2gの投与を速やかに開始する。髄膜炎が疑われる場合には、セフトリアキソン1回2gを12時間ごととバンコマイシン1回1gを12時間ごとの併用を行う。

患者の医療機関へのアクセスが悪い場合などは、先に経口抗菌薬を処方しておき、発熱や悪寒が見られた場合には、患者は自己判断で内服を開始したうえで、医療機関を受診するという方法もある。

予 防

予防として重要なのは肺炎球菌ワクチンの接種であり、待機的な脾臓摘出術の場合は術前2週間前までに、緊急摘出術の場合では術後2週間あるいは退院時のより早い時期に接種を行う。また、患者教育も重要である。

Take Home message

  • 脾摘患者で発熱が見られた場合は、PSS(脾摘後敗血症)を考え、速やかに抗菌薬投与を開始する必要がある。
  • 外傷歴、外科手術歴などの既往歴は、特に脾摘を意識し、詳細に聴取する必要がある。

<References>
Mandell GL et al: Principles and Practice of Infectious diseases, 7th ed. Elsevier, Churchill Livingstone, 2010
Pavlu J et al:Pneumococcal septicaemia. Lancet Infect Dis. 2007 Mar;7(3):234.
(末梢血塗抹標本中の肺炎球菌の画像はとても印象的です)

(了)

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