発熱と全身の皮膚剥離を主訴に来院した60歳代の男性(2/4)
(4分割配信の2回目です。 1回目)
※本症例は実際にあった症例を元に、個人情報などに配慮しつつ、 再構成したものです。
症例をまとめると、「CVポートを挿入され中心静脈栄養を行っている64歳の男性が、インフルエンザAと診断された後に発熱が5日間続き、5日目から表皮剥離を認めている。受診時のバイタルサインはShock Index 1.74でありショック状態である」となる。そんなことを考えているところに、上司である医師Aが様子を見に来たので相談してみることにした。
筆者「先生! 大変です! かくかくしかじか……。SJS/TENじゃないかと思うんですが、やはりここはステロイドでしょうか?」
医師A「まあまあ、落ち着いて。こういう複雑なケースこそ基本に戻ることが大事。まずはプロブレムリストを挙げてからじっくり考えてみよか」
筆者「プロブレムリストですか……ちょっと苦手なんですけど、やってみます」
医師A「うむ」
これまでの病歴からプロブレムリストを挙げると以下のようになった。
# 膀胱癌術後
# 中心静脈ポート留置中
# インフルエンザA陽性(オセルタミビル、レボフロキサシン、アセトアミノフェン投与中)
# 低栄養状態
# 発熱
# 熱傷様の表皮剥離、紅斑(ニコルスキー現象陽性※)
# 低酸素血症
# ショックバイタル
# 左下肺野のCoarse Crackle
# 眼脂
※ニコルスキー現象:皮膚を機械的に圧迫、摩擦を与えることによって表皮剥離や水疱を生じる現象
筆者「こんなところでしょうか、先生」
医師A「ええやん。じゃあここから鑑別診断を考えていこか。ここでは大きく感染症と非感染症で分けて考えてみよう。感染症だとどんな疾患が鑑別に挙がる?」
筆者「まずはインフルエンザですね。5日前に迅速検査でインフルエンザAと診断されていますし」
医師A「インフルエンザと合わないところは?」
筆者「オセルタミビルを飲んでいるにしては発熱の期間が長すぎるように思います。あと普通は皮膚病変は伴わないですよね」
医師A「確かにインフルエンザにしては熱が長く続いてるなあ。インフルエンザ罹患後で発熱が続く場合に考えておくべき感染症は?」
筆者「はい、インフルエンザ後の細菌性肺炎は鑑別として考えられると思います。昨日から咳と痰が増えてきているという点も合います。インフルエンザに罹患すると気道上皮が傷害されるので肺炎球菌や黄色ブドウ球菌による肺炎が増えるといわれています」
医師A「教科書棒読みやな。インフルエンザ後の細菌性肺炎で合わないところは?」
筆者「やはり皮膚病変は伴わないと思います。もし肺炎球菌が起炎菌としたら、劇症型肺炎球菌感染症でPurpura Fulminansが出ることがあるかもしれませんが、この患者とは皮膚病変が違うと思います」
医師A「マニアックやなー。ほかにインフルエンザ後ということで考えられる疾患はある?」
筆者「患者さんの奥さんは『熱がずっと続いている』と言っていましたが、仮に発熱が二峰性だったとすれば、実は疾患が二つ存在したということで、たとえば副鼻腔炎などが考えられると思います。もっとも副鼻腔の圧痛はないし、皮膚病変も合わないし、そもそも副鼻腔炎でショックになる人はあまりいないと思います」
医師A「まあそうかもなあ。インフルエンザ後ということ以外にも感染症を疑うポイントはあるかな?」
筆者「左上腕に中心静脈ポートが入っていることですね。僕もこれは怪しいと思います」
医師A「そうやな。体内に異物がある場合は常に感染を疑わんとあかん。でも中心静脈ポート感染症で全身の皮膚病変が出るかな?」
筆者「……」
医師A「じゃあ今度は皮膚病変のほうから感染症の鑑別診断を考えてみよか。こういう表皮剥離が出てくる感染症には何がある?」
筆者「昔、小児科で研修したときに見たSSSS(黄色ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群:Staphylococcal Scaled Skin Syndrome)に似ているような気がしますけど、あれは子どもの病気だしなあ」
医師A「大人にも起こるんかもしれへんで。知らんけど」
筆者「だとしたら、黄色ブドウ球菌による中心静脈ポート感染症でSSSSが起こっている、というのはありえるかもしれません」
医師A「なるほど。ほかには?」
筆者「あとはTSS(毒素性ショック症候群:Toxic Shock Syndrome)でしょうか」
医師A「確かに膜様落屑に似てるような気もするけどなあ……。合わないところは?」
筆者「普通は、膜様落屑は四肢末梢に出てくると思います。それに、膜様落屑が出てくるのはだいたい症状出現の7~14日後で今回のように発症直後からみられることは稀じゃないかと……」
医師A「そうやな。TSSで最初から体幹に膜様落屑が出てるというのはあまり聞かへんな。でも起こるんかもしれへんで。知らんけど」
筆者「じゃあ一応鑑別に入れておきます」
医師A「ほかに皮膚病変が見られる感染症疾患はある?」
筆者「うーん……あとは壊死性筋膜炎とかですかねえ。ショック状態だし。でもやっぱり皮膚病変が違うような気がします」
医師A「壊死性筋膜炎のリスクファクターはない? 牡蠣を食べたりしてへん?」
筆者「食べてないようです。肝疾患の既往もないですし、鉄剤の内服もしていません。体表にも怪我らしいものはありませんでした」
医師A「まあまあ、一応鑑別に入れとこか。細菌感染症ばっかりやけど、ウイルスとか真菌とか寄生虫とかは考えられへん?」
筆者「ウイルス感染症で皮疹が出ているのを見ることがたまにありますけど……表皮剥離はないんじゃないですかね。いや、あまり診たことないんで自信がないです」
医師A「じゃあ一応鑑別に入れとこか。感染症はこれくらいかな。次に非感染症の鑑別診断を考えてみよか」
筆者「自己免疫疾患の天疱瘡とか類天疱瘡とかどうでしょうか」
医師A「あるやろうなあ。ちょっと経過が違うような気もするけど」
筆者「あとは最初から疑っていたSJS/TENですね」
医師A「うん、まあこれは鑑別に挙げんとあかんな。じゃあ鑑別診断はこんなとこかな」
というわけで我われは鑑別疾患として以下のものを挙げた。
感染症
# ポート感染症による毒素性ショック症候群(Toxic Shock Syndrome: TSS)
# ポート感染症による黄色ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(Staphylococcal Scaled Skin Syndrome: SSSS)
# 麻疹、エンテロウイルスやエコーウィルスなどによるViral Infection
# インフルエンザ後のpurpura fulminansを伴う肺炎球菌性肺炎
非感染症
# 天疱瘡
# 類天疱瘡
# SJS/TEN
医師A「さあ、じゃあこれからどうする?」
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以上の結果を踏まえて、マネジメントはどうしますか?
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(つづく)