感染性腸炎の診断と治療
~安易に安易に「胃腸炎」と診断していませんか?(1/3)
(3分割配信の1回目です)
日々の寒さを感じるたびに、「今年もノロの季節が来たんだな……」と思う今日この頃です。いま巷で話題となっている感染症はインフルエンザですが、ノロウイルスにも対応する必要があります。
「嘔吐しました」「下痢なんですけど……」という主訴で受診される方は少なくありませんし、そうした患者をみた医療者から、「検査では何が必要ですか?」「抗菌薬の治療は必要ですか?」という相談をいただくこともたびたびあります。
そこで今号は感染性腸炎にスポットをあててみたいと思います。
下痢の定義
「下痢ってなんですか?」という質問を医学生から受けることがあります。「下痢」に対する定義があやふやになっていることがあるのです。「昨日1回下痢したんですけど……」という発言は日常でしばしば聞かれますが、この発言は下痢の定義に合わせると正しいとは言えません。
米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでは、下痢は「腸蠕動の亢進によって起きる1日に3回以上の排便とそれに伴う脱水」と定義されています[1]。
腸炎とは?
単純に言えば、腸の炎症です。症状としては下痢が有名ですが、重症の腸炎などでは逆に便が出ないこともありますので、下痢がないという理由だけで腸炎を否定することはできません。そのほかの症状としては嘔吐や腹痛や発熱があります。
腸炎は、感染性病原体に起因するものとそうでないものとで感染性腸炎と非感染性腸炎に分けられます。感染性の場合、小腸型あるいは大腸型というように好発部位があり、それぞれ頻度の高い症状は異なりますが、鑑別は困難なことが多いです。
感染性腸炎と非感染性腸炎
感染性腸炎の原因として表1の微生物があげられます。
細菌性 | ウイルス性 | 原虫 |
サルモネラ属 |
ノロウイルス |
クリプトスポリジウム |
カンピロバクター属 |
ロタウイルス |
ジアルジア |
Shigella属 |
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赤痢アメーバ |
病原性大腸菌 |
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ビブリオ属 |
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エルシニア属 |
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Clostridium difficile |
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非感染性の腸炎としては、消化管内容物の影響(刺激物など)や自己免疫疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)があります。
救急外来での安易な「胃腸炎」診断は危険
特に冬季になると、救急外来はノロウイルス感染症の患者でいっぱいになることもあり、下痢を主訴とする患者は「胃腸炎」として右から左に流したくなるほど忙しくなってしまいます。しかし「胃腸炎」という病名はもともとかなり包括的なものであり、安易に適用すると、重篤な疾患を見逃してしまう危険性があります。
下痢のみの症状であってもきちんと注意深い問診や確実な診察を心がける必要があります。筆者もこの1年間の間に、「下痢」という主訴で鼠径ヘルニア陥屯であったり、尿路感染症由来の敗血症であったり、レジオネラ肺炎であった症例を経験しました。ほかにも消化管出血や大動脈瘤破裂で腸管穿破した場合など、大量の下血でもしばしば「下痢」を主訴とすることがあります。
次回は、感染性腸炎の具体的な診断と治療についてお話しします。
<References>
1.Richard L Guerrant, Thomas Van Gilder, Ted S Steiner, et al. “Practice Guidelines for the Management of Infectious Diarrhea” Clin Infect Dis 2001; 32:331?50. PMID: 11170940
(つづく)