第17回米国式感染症科ケースカンファレンス(3/4)
(4分割配信の3回目です。 1回目 2回目)
前号に引き続き、ケースカンファレンスの内容をレポートします。
Case 2 尿混濁と精液中の血液混入
(聖路加国際病院内科感染症科 吉田晴香先生/森信好先生)
大変活気あるカンファレンスとなった。
症例は30歳代のインド人男性。3週間程前から尿混濁、精液中の血液混入を自覚していた。近医泌尿器科を受診し、IVP (intravenous pyelography)および腹部超音波検査を施行したが、明らかな異常所見は認めず膀胱炎と診断、レボフロキサシン100mg 1日3回を1週間内服した。しかしその後も症状が持続するため、聖路加国際病院の泌尿器科を受診、さらに尿路感染症の評価目的に感染症科を紹介受診した。
以上の病歴をふまえ、参加者から多数の質問がなされた。
- 職業は? →事務作業が主体。
- 食事は? →菜食主義。
- インドからいつ来日したか? →3か月前(ニューデリー在住)。
- 性交渉のパートナーは? →奥様のみ。東京で一緒に住んでいる。
- 射精時の疼痛は? →疼痛はない。
- 精液への血液混入の再現性は? →何度か繰り返し起きている。
- 尿も肉眼的血尿か? →尿は混濁のみで、肉眼的血尿を認めたことはない。
- 外陰部の外傷歴は? →なし。
- 海水、淡水との接触は? →なし。
- エジプト旅行歴は?(Scistosomiasisを疑っての質問) →なし
次に診察・検査結果が供覧された。
身体所見では特記すべき異常は認めなかった。尿外観は白濁のみで肉眼的血尿はなし。ただし定性検査では蛋白2+、潜血3+であった。トリグリセリドを測定したところ、133mg/dLと高値を示した。
以上から、「乳び尿」をキーワードとして参加者から鑑別診断が挙げられた。
乳び尿の原因としては、リンパ流の停滞、胸管閉塞をきたす病態が鑑別となるが、感染症ならフィラリア、結核、住血吸虫症が、また感染症以外では悪性腫瘍によるものが多いだろうと考えられた。
鑑別診断を頭に置きつつ、その後の経過が示された。
イムノクロマトグラフィーによるバンクロフト糸状虫尿中抗原測定を他大学の寄生虫病学講座に依頼したところ、陽性という結果を得た。なお、入院の上夜間に採血を行い、Giemza染色により血中バンクロフト糸状虫の塗抹検鏡が試みられたが、これは陰性であった。胸部から腹部のCTも行われたが、リンパ管閉塞をきたしうる異常も認められなかった。
以上から、バンクロフト糸状虫(Wuchereria bancrofti)によるリンパ管フィラリア症と診断された。
治療は、Diethylcarbamazine (スパトニン) 6mg/kg 経口 2週間投与で行われた。
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最終診断
バンクロフト糸状虫(Wuchereria bancrofti)によるリンパ管フィラリア症
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フィラリア症に関するreview
ケースカンファレンスの後、フィラリア症に関するreviewが行われた。
乳び尿の鑑別
感染性と非感染性に区別される(下図)。
(森 信好先生:聖路加国際病院内科感染症科のご厚意による)
フィラリア症の疫学(下図)
バンクロフト糸状虫が70%を占めるが、ほとんどはインドで発生している。つまりインドはフィラリア症の好発地域と言える。インド国内は99%がバンクロフト糸状虫である。
(森 信好先生:聖路加国際病院内科感染症科のご厚意による)
感染経路と生活環
幼虫が蚊により媒介され、リンパ節で1年かけて成虫となる。バンクロフト糸状虫の場合は鼠径部や精巣のリンパ節に侵入するため、下肢のリンパ浮腫が出現しやすい。陰嚢にリンパ管が穿破すると乳び精液をきたす。
検査
末梢血塗抹検鏡が行われる。バンクロフト糸状虫の夜間周期性のため、10 p.m.から4 a.m.の間の採血で感度が高い。しかし検鏡の感度は低く、とくに晩期感染では低い。抗原検査はRapid-format immunochromatographic cardtestがあり、感度96-100%、特異度100%とされる。
治療
Diethylcarbamazine(スパトニン) 6mg/kg 経口2週間+/- Ivermectin400mcg/kg経口で行われる。乳び尿については安静も有効である。
Take Home Message
(森 信好先生:聖路加国際病院内科感染症科のご厚意による)
(次回、ケース3へと続く)