発熱+関節炎へのアプローチ(1/3)
(3分割配信の1回目です)
発熱とともに関節痛を訴えて外来を受診する患者は多い。腫脹・熱感・痛みなど、一見して明らかな関節の炎症所見を伴う場合もあれば、システムレビューによってはじめて明らかになる関節炎もある。
関節痛への一般的アプローチ
「関節が痛い」とき、その疼痛が臨床的に有意な炎症によって惹起されたものか(関節炎か否か)が重要である。炎症の有無は他覚的に腫脹・疼痛・発赤・熱感を確かめることによって、すなわち身体診察によって判断する。ただし、股関節など構造的に触診が不可能な関節もある。診察法の詳細は他の優れた成書・総説[1]に譲る。
関節の痛みが炎症によって惹起されている、すなわち「関節炎」が認められた場合、「急性か慢性か」「単関節炎か多関節炎か」によって、鑑別診断の方向づけを行う。その後、侵された関節の分布パターン(小関節優位・上肢大関節優位・下肢大関節優位)によって診断の絞り込みを行う。表1に急性関節炎の鑑別(単関節炎・少関節炎・多関節炎に分類)、表2に発熱+多関節炎の鑑別ポイントを挙げた [2][3]。
表1 急性関節炎の鑑別
単関節炎 (Monoarticular) | 少関節炎 (Oligoarticular) | 多関節炎 (Polyarticular) | 皮膚病変を伴う 関節痛 / 関節炎 |
化膿性関節炎 結核性関節炎 真菌性関節炎 細菌性心内膜炎 痛風 偽痛風(CPPD沈着症) | 播種性淋菌感染症 Brucellosis 真菌性関節炎 ・Histoplasmosis ・Coccidioidomycosis ・Sporotrichosis 反応性関節炎 ・Chlamydia trachomatis ・Salmonella enteritidis ・Salmonella typhimurium ・Shigella flexneri ・Yersinia enterocolitica ・Yersinia pseudotuberculosis ・Campylobacter jejuni 細菌性心内膜炎 リウマチ性疾患 ・成人スティル病 ・炎症性腸疾患関連関節炎 ・乾癬性関節炎 ・強直性脊椎炎 腫瘍随伴症候群 血清病 (serum sickness) サルコイドーシス 糞線虫症 (Strongyloidiasis) ギニア虫感染症 (Dracunculiasis) | ウィルス感染症 ・Hepatitis B virus ・Hepatitis C virus ・HIV ・Cytomegalovirus ・Epstein-Barr virus ・Arboviruses 急性リウマチ熱 (Acute rheumatic fever) 関節リウマチ 回帰熱 (relapsing fever:Borrelia recurrentis) Whipple’s disease Giardiasis Loa loa infection Toxoplasmosis 腫瘍随伴症候群 心房粘液種 薬剤性 (Fluoroquinolone-induced) 家族性地中海熱 | ライム病 播種性淋菌感染症 慢性髄膜炎菌血症 (Chronic meningococcemia) 梅毒 ロッキー山脈紅斑熱(Rocky Mountain Spotted Fever) Rat-bite fever (Streptobacillus moniliformis) 発疹チフス Parvovirus B19感染症 HIV感染症 風疹 (自然感染、ワクチン接種後) デング熱 全身性エリテマトーデス クリオグロブリン血症 Schnitzler症候群 |
表2 発熱+多関節炎の鑑別ポイント
40℃以上の発熱: 成人スティル病 細菌性関節炎 全身性エリテマトーデス 発熱が関節炎に先行: ウィルス性関節炎 ライム病 反応性関節炎 成人スティル病 細菌性心内膜炎 移動性関節炎 急性リウマチ熱 播種性淋菌感染症 播種性髄膜炎菌感染症 ウィルス性関節炎 全身性エリテマトーデス 急性白血病 Whipple病 痛みの程度に比して関節の腫脹が目立つ 結核性関節炎 細菌性心内膜炎 炎症性腸疾患関連関節炎 巨細胞性動脈炎 ライム病 関節の腫脹に比して痛みが強い 急性リウマチ熱 家族性地中海熱 急性白血病 HIV感染症 リウマトイド因子陽性 関節リウマチ ウィルス性関節炎 結核性関節炎 細菌性心内膜炎 全身性エリテマトーデス サルコイドーシス 血管炎 朝のこわばり 関節リウマチ リウマチ性多発筋痛症 成人スティル病 反応性関節炎・ウィルス性関節炎の一部? 対称性の小関節滑膜炎 関節リウマチ 全身性エリテマトーデス ウィルス性関節炎 白血球増多(15,000/mm3以上) 細菌性関節炎 細菌性心内膜炎 成人スティル病 血管炎 急性白血病 白血球減少 全身性エリテマトーデス ウィルス性関節炎 寛解と再発を繰り返す ライム病 結晶性関節炎 炎症性腸疾患関連関節炎 Whipple病 家族性地中海熱 成人スティル病 全身性エリテマトーデス |
ウィルス感染症による多発関節炎
Parvovirus B19
小児ではりんご病(fifth disease)が有名だが、成人においては急性の関節リウマチ様多発関節炎を引き起こすことがある。男性よりも女性に感染した場合に関節炎を引き起こす頻度が高い。発熱は比較的稀で、約15%に顔面紅斑が見られる。
診断は「パルボウィルスB19-IgM抗体(抗VCA-IgM抗体)」による(「紅斑が出現している妊婦について、このウイルスによる感染症が強く疑われ、IgM型抗体価を測定した場合」のみに保険算定)。
HBV
急性B型肝炎の前黄疸期に対称性関節炎(手関節・膝関節)が生じ、発熱・蕁麻疹様皮疹を伴うことがある。関節炎は黄疸に約10日間先行し、黄疸の出現とともに消失する。慢性B型肝炎においては、クリオグロブリン血症に伴う関節症状が出現することがある。
HCV
高齢男性の急性C型肝炎において、関節症状が生じることがある。また、慢性C型肝炎・クリオグロブリン血症に伴う関節症状が出現することがある。
風疹(Rubella)
Parvovirus B19同様、関節リウマチに類似した手指の対称性多関節炎を起こすことがある。またワクチン接種後、特に成人において一過性関節炎の発症を認めることがある。
次号では、ウィルス感染症による多発関節炎(続)、細菌感染症による多発関節炎について述べる。
<References>
1. 上野征夫.リウマチ病診療ビジュアルテキスト 第2版,医学書院,2008.
2. Jonathan Cohen & William G. Powderly Infectious Diseases.Mosby 2003.
3.Pinals RS.Polyarthritis and fever.N Engl J Med. 1994 Mar 17;330(11):769-74.
(つづく)