第21回日本性感染症学会 特別公開講座「内科医のためのSTI診療のコツ」 (4/4)
それでは今回は症例検討の様子をご報告します。症例検討ではサクラ精機の青木眞先生をコメンテータにお迎えし、旭中央病院の中村先生、都立駒込病院の柳沢先生、聖路加国際病院の森先生からそれぞれ症例を呈示していただきました。
症例1
一例目の症例は、数ヶ月前から日本滞在中の40歳代の外国人。悪寒・戦慄を伴うインフルエンザ様の筋肉痛と関節痛のため、近医でプレドニゾロン(1日40mg、5日間)を投与されたが改善しない、という経過です。身体所見では複数の非対称性の大関節の腫脹を認めました。
ディスカッションは、「急性の多発関節炎の鑑別」を中心に行われました。感染性のものとしては、ウイルス性と細菌性(特に感染性心内膜炎)が、非感染性のものとしては、結晶誘発性関節炎や慢性多関節炎を呈する疾患群の初期症状(関節リウマチ、SLE、血管炎など)、その他に反応性関節炎、脊椎炎関連関節炎など様々な鑑別が出ました。なお、ウイルス性の場合はHBV、HCV、パルボB19ウイルスやHIVなども原因になります。
この症例では、最終的に右膝関節穿刺液からNeisseria gonorrhoeae が検出され、最終診断は播種性の淋菌感染症でした。聞くと、commercial sex workerとの接触があったということでした。治療は、クラミジアの同時感染も考慮し、セフトリアキソンとミノサイクリンの併用で行われました。症例のまとめとして表1のような議論がなされました。
なお、播種性の淋菌感染症は、教科書的には「化膿性の関節炎を伴わず、腱鞘炎・皮膚炎・多関節痛の3徴を呈する」ものと「皮膚所見を伴わない化膿性関節炎を呈する」ものに分かれるとされ、また関節炎も必ずしも多発性とは限らないことにも注意が必要です。また、淋菌におけるフルオロキノロン耐性は年々増加しており、CDC(Centers for Disease Control and Prevention)はフルオロキノロンは初期選択薬としては推奨していません。
表1 症例1のまとめ
症例2
二例目の症例は、30歳代の男性で、発熱・咽頭痛・下痢を主訴に、近医でフロモックス®
→ジスロマック®
この時点では、伝染性単核球症に合併した横紋筋融解症と診断され、経過観察のみで改善したのですが、その1年後、再度同様の症状と全身のリンパ節腫脹で再診されました。再度HIV抗体を検査すると陽性でした。振り返ると、初診時が急性HIV感染症のエピソードだったのだろう、ということでした。
この症例の反省点として、急性HIV感染症を疑うときの検査方針におけるウィンドウピリオドの問題、そして伝染性単核球症様の病態を見たときの問診の重要性が議論されました。感染初期(症状出現後11日前後)に適切な検査は核酸増幅検査(NAT:Nucleic acid amplification testing)であり、また第4世代の抗体検査では、症状出現後22日以降くらいから抗体を検知することができるようになっています。
症例3
三例目の症例は、HIVの患者で、主訴は頸部リンパ節腫脹と発熱でした。身体所見では、手掌を含む全身に皮疹を認め、初診時に陰性であった梅毒血清反応がRPR 54.4、TPLA 395.1と陽性化していました。腰椎穿刺を行うと、細胞19個/μL、蛋白29mg/dL、糖55mg/dLでVDRLは陰性でした。神経梅毒として治療(1800万単位のペニシリンG)を行い、治癒されました。この症例では「HIVをみれば梅毒を、梅毒をみればHIVを」想定することの重要性が指摘されました。なお、頸部リンパ節は生検でホジキンリンパ腫と診断されました。
神経梅毒の診断は時に難しいのですが、まず血清のTPPAまたはFTA-ABSを行い、陰性ならば神経梅毒を除外、陽性であれば次に髄液のVDRLを行い、これが陽性なら神経梅毒として治療をします。
髄液のVDRLが陰性ならば、次に髄液の白血球数を調べ、これが5個/μL以上なら治療をしますが、5個μL以下なら髄液の蛋白を調べ、45mg/dL以下なら除外、45mg/dL以上なら髄液のFTA-ABSを行い、陽性ならば神経梅毒として治療する、といった検査方針が提唱されています(Up To Dateにはフローチャートが掲載されています)[1].
※今回の報告で、STI報告を終わりとさせていただきます。
※実際に提示された症例の順番とは異なります。
※表1は研究会で使用されたものではなく、編集部で用意したものです。
<References>
1. Marra CM. Neurosyphilis. UpToDate 17.1.
(了)