第15回 米国式感染症科ケースカンファレンス 2008年11月29日 秋葉原コンベンションセンター(3/3)
3例目は、両上肢の腫脹・熱感を主訴として、蜂窩織炎が疑われて転院してこられた50代の症例でした。約10日間にわたる抗菌薬投与にも関わらず、四肢の腫脹・熱感は改善せず、また発熱が持続し、徐々に呼吸状態の悪化や下腿浮腫などが出現し、胸部レントゲン、心電図、そして心エコーから心嚢液の貯留が認められました。心嚢液の性状はスライド(ファイル1)のとおりです。
この時点で発表者およびフロアからは、表(ファイル2)のような鑑別診断があがりました。結果的には、心嚢液を用いた肺炎球菌の尿中抗原検査が陽性となり、さらに16S rRNAを用いた遺伝子検査では、肺炎球菌に89%一致、PCRではlyt(A)が陽性であり、肺炎球菌による心外膜炎という最終診断でした。
フロアからは16S rRNAのシークエンスや、lyt(A)のPCR検査の「感度・特異度」について質問があがりました。特に、本症例では心嚢液の培養検査でStreptococcus oralis が1コロニー検出されたという結果を受け、Streptococcus oralis やStreptococcus mitis でも肺炎球菌尿中抗原検査が陽性になりうることから、「偽陽性ではないか」という意見もでました。ただ、実際に培養で生えたS.oralis は「培地の塗り始めではなく塗り終わりに1コロニー生えた(本当に検体に菌が含まれていれば、普通は塗り始めに生えるはずです)」ことや、シークエンス結果およびPCR検査結果から、総合的には肺炎球菌と考えてよいだろう、という結論でした。その後、発表者から、さらに心外膜炎の原因(ファイル3)および感染性心外膜炎の原因微生物(ファイル4)についても紹介がありました。
なお、本症例ではペニシリンG2400万単位を24時間持続投与し、血中濃度を実際に測定し、13.7~23.8μg/mlといった結果が得られた(十分に肺炎球菌のMICを上回っている)ことも紹介されました。
この症例では様々な議論のポイントがありましたが、そのなかでも16S rRNAのシークエンス検査の実際や、lyt(A)の意義、ペニシリンGの血中濃度など、基礎医学的な部分が議論になり、IDATENの議論としてはめずらしく、しかし一方で「基礎医学と臨床医学のリンク」を感じることができたのではないでしょうか。
(おわり)