No. 82009. 02. 27
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第15回 米国式感染症科ケースカンファレンス 2008年11月29日 秋葉原コンベンションセンター(2/3)

奈良県立医科大学附属病院 感染症センター

笠原 敬

(※今号は3回連続配信の2回目です。→1回目


症例1 海外旅行後に発熱と筋肉痛を訴えて来院した女性
スライド1

 最初の症例は、オーストラリアに10日間前後の観光に行って、帰国して2日目に39℃の発熱と筋肉痛を主訴に来院された女性でした。この症例ではいわゆる「Travel medicine」の考え方を提示していただきました。一般的な問診事項としては、具体的にどのような地域に滞在したのか、どのような活動をしたのか、蚊を含む虫刺されなどはあったか、虫除けは使用したか、動物との接触はあったか、池や沼に入ったりしなかったか、どのようなものを食べたか、予防内服の有無、ワクチン接種歴などが含まれます。また、有熱患者の身体所見では特に皮疹や虫刺されのあとに注意が必要です。

 そして、渡航地域での流行感染症をインターネットを用いて調べるテクニックについても紹介されました(スライド2)。また、実際に鑑別疾患をあげるうえでは各々の疾患の潜伏期間を考えることが非常に有用である、ということでした。

 フロアとのディスカッションでは、実際に忙しい救急外来において、まだ熱がでて2日しかたっていない患者が来院したときに、「どこまで検査するか」という議論がされました。最初の時点でリケッチアの検査までするのか、血液培養はどうするのか、などの意見がでました。武蔵野赤十字病院の本郷先生は、「患者の状態によっては、外来で血液培養をとって、いったんは帰すこともある(全例に入院してもらうわけではない)」とおっしゃっていました。鑑別診断としては「短期間(10日以内)の潜伏期間」を軸にしてラッサ熱、リケッチア、消化器感染症、レプトスピラ、黄熱(オーストラリアにはない)などがあがり、本症例の最終診断はインフルエンザでした。

症例2:ネフローゼ症候群で入院、プレドニン静注後に多症状が出現した小児

 2例目はネフローゼ症候群のために入院し、プレドニンの静注を開始した翌日から嘔吐や前胸部痛などの症状が出現し、さらに38℃台の発熱、腹痛が出現した、という小児症例でした。長崎大学の森内先生からは、鑑別診断・病態のアセスメントとして、ネフローゼなので、アルブミンのみならずγグロブリンも低下しており、さらにステロイドも投与されているため、それなりの免疫抑制状態を考えて対処する必要があること、鑑別疾患としては敗血症、原因菌としては肺炎球菌や血管内カテーテルがあるのでブドウ球菌などをあげていただきました。また「腹痛」という所見から、虫垂炎の穿孔、腸重積、特発性細菌性腹膜炎などの鑑別があがりました。

 結果的に血液培養からは肺炎球菌が培養され、エンピリカルに開始されていたメロペネムを続行し、治癒した、という経過でした。小児における敗血症の「治療期間」に関するディスカッションもありましたが、小児と一言でいっても実際には新生児から1歳、10歳など、かなり年齢層に幅があることから、なかなかエビデンスが得られにくいことや、本症例のような低γグロブリン状態では、例えばγグロブリンの投与も正当化されるのではないか、という議論がありました。

 症例呈示に引き続き、小児感染症、とくにワクチンの現状についてのみにレクチャーがあり、肺炎球菌ワクチン、そしてインフルエンザ桿菌ワクチン(HIBワクチン)の接種の必要性について説明がありました。そのなかの議論で、やはり「ワクチンにおいては日本は発展途上国以下」という意見もでました。

 次号は、3例目の症例についてご紹介いたします。

(つづく)

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