糖尿病患者がかかりやすい感染症
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(※今号のミニレビューは、3回連載で配信しました。→1回目 2回目)
4.悪性(侵襲性)外耳道炎
この疾患も糖尿病に特徴的といってよく、90%以上が糖尿病に合併します(1、2)。そして原因は90%以上が緑膿菌です。Staphylococcus aureus、Proteus mirabilis、Klebsiella oxytocaなどが関与することもありますが、これらはまれです。
症状は、改善しない耳痛、耳漏、難聴、頭痛などですが、発熱はみられないことが多いといわれています。病態は外耳道の蜂窩織炎により浮腫と肉芽形成が生じるのですが、頭蓋底の骨髄炎へと進展することがあります。また、稀ではあるが致死的な合併症として、髄膜炎、脳膿瘍、硬膜下静脈洞の血栓性静脈炎などがあります。予後不良因子である中枢神経の麻痺は顔面神経麻痺が最も多く、次に舌咽神経麻痺、迷走神経麻痺などが続きます。
MRIもしくはCTが早期診断に有用であり、深部組織のグラム染色と培養で原因菌を確認します。生検を行い上皮性悪性腫瘍を鑑別しておくことが望ましいでしょう。治療は適切にデブリードマンを行いながら抗緑膿菌作用をもつ抗菌薬を4-6週間投与します。
5.Rhinocerebral mucormycosis
これは糖尿病でかつケトアシドーシスの患者に発症する、糸状真菌であるZygomycetesの重症感染症です(1,2,7)。糖尿病性ケトアシドーシス(50%)以外に、長期にわたり好中球減少がみられる白血病患者や臓器移植患者にも合併することがあります。
なぜケトアシドーシスがあると発症するのでしょうか? それはグルコースが豊富な酸性の環境下で発育が促進されるといわれていますが、鉄分子やトランスフェリンも関与することが指摘されています。
症状は、顔面や眼部の痛み、鼻閉、頭痛、発熱を呈し、進行すると眼球突出、口蓋や鼻粘膜の壊死をきたします。さらに進行すると、直接の波及もしくは血管侵襲性から三叉神経(Ⅴ)、顔面神経(Ⅶ)の機能不全による眼瞼下垂や散瞳をきたしたり、内頸動脈や海綿静脈洞血栓症を発症し、死亡に至ります。したがって、早期の診断が何よりも重要なのです。画像検査では、副鼻腔の軟部組織の腫脹や、上顎洞から眼窩への骨の溶解像がCTやMRIにより得られます。菌糸の組織への浸潤を生検にて確認することにより確定診断が得られますが、培養結果をまたずに治療は始めなければなりません。
治療は、徹底的に外科的に病変の切除を行うことと、デオキシコール酸アンホテリシンB(目標1-1.5mg/mg/day)を投与します。その他の治療としては、脂肪製剤のアンホテリシンBとposaconazole 800mg分4が有効との報告があります(8)。治療期間は6か月以上の長期となります。
以上、今回は糖尿病でみられる感染症について述べてきました。まとめとしては、繰り返しになりますが、一般的な感染症が糖尿病により重症化することがあることと、稀な重症感染症がみられることがあるため、その特徴について普段から十分に理解して糖尿病患者の診療にあたることが大切と思います。
※訂正
前回配信(2/3)した内容の、項目「2.糖尿病性足壊疽」中にある用語「糖尿病性足壊疽」は、「Diabetic foot(糖尿病性足病変)」に変更いたしました。 また同項目内に、文章(第2段落目「足病変に~されています。」)を追加いたしました。
<References>
1. Infections in diabetes mellitus and hyperglycemia, Infect Dis Clin N Am 2007, 21: 617
2. Infections in patients with diabetes mellitus, N Engl J Med 1999;341: 1906
3. Increased risk of common infections in patients with type1 and type 2 diabetes mellitus, Clin Infect Dis 2005; 41: 281
4. Quantifying the risk of infectious diseases for people with diabetes,Diabetes Care 2003; 26: 510
5. Diabetes and the risk of infection-related mortality in the U.S,Diabetes Care 2001; 24: 1044
6. Diagnosis and treatment of diabetic foot infections, Clin Infect Dis 2004;39: 885
7. Fungal sinusitis, N Engl J Med 1997; 337: 254
8. Posaconazole for salvage therapy for zygomycetes, Antimicrob Agents Chemother 2006, 50; 126
(了)