第14回 米国式感染症科ケースカンファレンス(2/3)
(※今号のセミナーレポートは、3回連続で配信しています。)
それでは、ケーススタディのレポートです。
1.著明な頸部リンパ節腫大と汎血球減少を初発症状とし、びまん性肺胞出血をきたしてICU管理となった生来健康な30歳代男性
典型的な”mono-like syndrome(伝染性単核球症様症候群)”ですが、通常self-limitingであるはずのものが、喀血をきたし、ICU管理まで必要とした、という点で印象的なケースでした。あまりに激烈な経過に一時フロアはシーンとしましたが、東京医科大学病院の松永直久先生から「鑑別診断は、解剖と病原体の二つの視点から考えるとよい。まず病原体から考えると、若い男性、咽頭痛、肝機能障害、汎血球減少、頸部リンパ節腫脹など比較的特徴的な所見があり、もちろんEBVやCMVなども考えるが、第一にはHIVを考えておきたい。感染臓器の同定はやや難しい。びまん性肺胞出血も感染というよりは、免疫学的機序などに続発した二次的なもののような印象がある。自分ならどのような抗微生物薬を使ったか、と考えると、マイコプラズマやレジオネラなども含めた細菌性肺炎のカバーは行うだろう。抗結核薬も使っていたかもしれない。ニューモシスチス肺炎にしては少し病歴が合わない(慢性的に進行する呼吸困難などの病歴があってもよい)。侵襲性肺アスペルギルス症も、HIVで頻出する感染症ではないので、この経過であれば自分なら抗真菌薬は使わないだろう。寄生虫としては糞線虫を考えるかもしれない」というコメントをいただきました。大野先生からは表1のような鑑別診断を御呈示いただきました。
フロアのディスカッションはもっぱらびまん性肺出血の原因について行われましたが、文献的には以下のようなものがあるようです(文末に提示)。
実はこのケースでは、スクリーニングのHBs抗原検査が陰性であったのにもかかわらず、HBcIgMが陽性で、HBV-DNAも陽性であり、急性HBV感染症も合併していた、ということでB型肝炎の検査についても考えさせられるケースでした.最終診断は急性HIV感染症、急性B型肝炎感染症、第2期梅毒、びまん性肺出血でした.また、最後にフロアからは、HIV、梅毒、肝炎は全例届出になっており、届出を周知徹底していただくようコメントがありました.
次回は、
2.1日10行の水溶性下痢の後に全身状態の悪化を認め、人工呼吸器管理となった5か月男児
3.約1週間の経過の腰痛を主訴に入院した70歳代女
のレポートです(順不同)。
1 鑑別診断
感染症 ウイルス性:HIV、 EBV、primary HSV infection rubella、 parvovirus B19、hepatitis A/B/C 細菌性:第2期梅毒、ライム病、リケッチア、播種性淋菌症、ネコひっかき病 原虫:急性トキソプラズマ症 非感染症 悪性リンパ腫、血球貪食症候群、成人Still病、SLE、血管炎、薬剤による副作用 |
<びまん性肺胞出血とHIVに関する文献>
1. Vincent B、 Flahault A、Antoine M、 et al. AIDS-relatedalveolarhemorrhage : a prospectivestudy of 273 BAL procedures. Chest 2001;120:1078-84.
2. Koziel H、Haley K、Nasser I、 Filderman AE. Pulmonaryhemorrhage. An uncommoncause of pulmonaryinfiltrates in patients withAIDS. Chest 1994;106:1891-4.
(次回に続きます)