No. 32008. 09. 16
成人 > ケーススタディ

長崎大学熱帯医学研究所・IDATEN合同ケースカンファレンス(2/2)

亀田総合病院

大路 剛

沖縄県立中部病院

椎木 創一

(※今号のセミナーレポートは、2週連続で配信しました。)

3.Case conference

症例1:パプアニューギニア寄航後の発熱で来院した37歳男性

 まず1例目の症例は川崎病院の中島由紀子先生からの御提示でした。典型的なパプアニューギニアからの発熱患者です。症例提示が終わると早速Tom先生からスメア、スメアとコールが入り、会場は笑いの渦に包まれました。診断はPlasmodium falciparumでArtesunateを使用して治療されました。Tom先生からは、ArtesunateはRecrudescenceが多いという報告もあるので、できれば他剤を併用したいところだなあとの実地臨床家ならではのコメントがありました。

症例2:2週間前に東南アジア旅行から帰国後に発熱し来院した63歳男性

2例目は沖縄県立中部病院の椎木創一先生からの御提示でした。発熱以外には頭痛と腰痛を認めるのみでした。カンボジア、タイ、インドネシアを転々と旅行されておりました。かなり蚊に刺されていたのですが、マラリアスメアは3回施行して陰性。頭痛と腰痛からDengue feverが考えられ、PCRにて診断されました。一方Commercial sexworkerとのunprotected sexの経験が多く,HIVを疑われ、HIV感染症と診断されCD4は50と判明しました。AIDSのためDengue feverにしては関節痛などが無かったのだろうかとDiscussionになりました。

症例3:インド帰国後に発熱を認めた24歳女性

3例目は国際医療センター国際疾病センターの竹下望先生からの御提示でした。これも帰国後発熱症例でした。初めての海外旅行にも関わらず、屋台で次々と現地の食材にチャレンジしてしまい、発熱を生じた症例でした。曝露歴多数からSalmonellatyphiが疑われセフトリアキソンが開始され、軽快するも便培養から培養され続けてしまった症例でした。最終的にアジスロマイシンも追加投与されたといった症例でした。近年東南アジアで多い、キノロン耐性のS.typhiかつセフトリアキソンのみではキャリア化してしまった症例ということで教育的でした。

熱帯感染症を実際に診療する機会が頻繁でない臨床医にとっても、旅行帰りの発熱などで診断を迫られる機会はあります。熱帯感染症の実際の鑑別の流れを基本に従ってやっていくのは初学者には為になると思います。

また、“熱帯型感染症屋“の偉大なモデル像としてTom先生と有吉先生のお話が聞けたのはとても楽しかったです。若手の医師こそ普段接することが難しいこれらのタイプの感染症家の人生遍歴を聞くことは今後の人生を考える上でも参考になるはずだと思いました。

(了)

写真提供:氏家 無限先生(長崎大学熱帯医学研究所,臨床医学分野 (熱研内科))

 

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