長崎大学熱帯医学研究所・IDATEN合同ケースカンファレンス(1/2)
(※今号のセミナーレポートは、2週連続で配信します。)
1.特別講義Ⅰ『熱帯医学と熱帯感染症』
長崎大学熱帯医学研究所 有吉紅也先生(座長 大曲貴夫先生)
まず、有吉先生の講演から始まりました。旭川医科大学卒業後、ロンドン大学Hospital for Tropical Disease (HTD)→ジンバブエ→タイ→日本などなど流転した勤務先を経験されています。世界地図を点々とする勤務先と業績はイギリス系の熱帯医学感染症医流だと思いました。
そして有吉先生が実際に各地で勤務されながら感じたことを語っていただきました。
まず、イメージしていた「熱帯病」ではなく、内科疾患・外科疾患・産婦人科がほとんどだった! といった驚きを語っていただきました。また、ガンビアでは75%の小児が1歳までにマラリアに罹患するという状況を赤裸々に語っていただきました。また各国の医療情勢に合わせて工夫しながらやっていくことの重要性を語っていただきました。
2.特別講義Ⅱ『ロンドン大学熱帯病病院における熱帯感染症診療の実際』
University college London Hospital, Hospital for Tropical Disease (HTD) Dr. Tom Doherty
有名なロンドン大学のDTM&HのDirectorをされているDoherty先生の講演です。実際に診察されているケースをもとにお話されました。HTDは、University College London Hospitalの一部です。世界各国からの感染症患者が集まるロンドンならではの豊富な症例を有しています。主に帰国者の発熱患者さんに加え、一般の患者さんも診察されているそうです。熱帯感染症の患者さんで最多はマラリア、次にリーシュマニアが続くというのは,アフリカやインドからの帰国者の多いロンドンならではでしょう。感染症科病床は42床程で13人の指導医と6人の後期研修医、5人の初期研修医といったスタッフでマネージしているそうです。
実際の症例を提示しながら代表的な熱帯感染症についてレクチャーしてくださいました。
1つ目の症例は37歳のアルバニア人の主婦でイギリス移住後7年。1週間前からの発熱と右季肋部痛で受診。好酸球上昇を認めました。Hidatid cyst(エキノコッカス)の破裂で腹膜炎を起した症例でした。Hidatid diseaseの治療としてはプラジカンテル、アルベンダゾールの違いと外科的除去術、PAIR(percutaneous aspiration injection & re-aspiration)といった穿刺術について解説していただきました。
2つ目の症例は42歳ブラジルからの移住者。痙攣で受診し、頭部にCystを認めており、血清検査でNeurocysticercosisと診断。Taeniasolium(有鉤条虫)を豚との接触や人間キャリアとの接触により感染する疾患で慢性期に頭蓋内にCystを形成すると痙攣の原因となります。デキサメサゾンとアルベンダゾールで治療した症例でした。
3つ目の症例は帰国者の発熱で血液培養からSalmonellatyphi(腸チフス)が同定されて診断された症例でした。骨髄穿刺液培養の有用性についても言及されました。
4つ目の症例は典型的なHIV陽性の肺結核とHIV陰性の肺結核について述べていただきました。
写真提供:氏家 無限先生(長崎大学熱帯医学研究所,臨床医学分野 (熱研内科))
(次週、3.Case conference のレポートに続きます。)