No. 32008. 09. 09
成人 > ケーススタディ

長崎大学熱帯医学研究所・IDATEN合同ケースカンファレンス(1/2)

亀田総合病院

大路 剛

沖縄県立中部病院

椎木 創一

(※今号のセミナーレポートは、2週連続で配信します。)

1.特別講義Ⅰ『熱帯医学と熱帯感染症』

長崎大学熱帯医学研究所 有吉紅也先生(座長 大曲貴夫先生)

まず、有吉先生の講演から始まりました。旭川医科大学卒業後、ロンドン大学Hospital for Tropical Disease (HTD)→ジンバブエ→タイ→日本などなど流転した勤務先を経験されています。世界地図を点々とする勤務先と業績はイギリス系の熱帯医学感染症医流だと思いました。

そして有吉先生が実際に各地で勤務されながら感じたことを語っていただきました。

まず、イメージしていた「熱帯病」ではなく、内科疾患・外科疾患・産婦人科がほとんどだった! といった驚きを語っていただきました。また、ガンビアでは75%の小児が1歳までにマラリアに罹患するという状況を赤裸々に語っていただきました。また各国の医療情勢に合わせて工夫しながらやっていくことの重要性を語っていただきました。

2.特別講義Ⅱ『ロンドン大学熱帯病病院における熱帯感染症診療の実際』

University college London Hospital, Hospital for Tropical Disease (HTD) Dr. Tom Doherty

有名なロンドン大学のDTM&HのDirectorをされているDoherty先生の講演です。実際に診察されているケースをもとにお話されました。HTDは、University College London Hospitalの一部です。世界各国からの感染症患者が集まるロンドンならではの豊富な症例を有しています。主に帰国者の発熱患者さんに加え、一般の患者さんも診察されているそうです。熱帯感染症の患者さんで最多はマラリア、次にリーシュマニアが続くというのは,アフリカやインドからの帰国者の多いロンドンならではでしょう。感染症科病床は42床程で13人の指導医と6人の後期研修医、5人の初期研修医といったスタッフでマネージしているそうです。

実際の症例を提示しながら代表的な熱帯感染症についてレクチャーしてくださいました。

1つ目の症例は37歳のアルバニア人の主婦でイギリス移住後7年。1週間前からの発熱と右季肋部痛で受診。好酸球上昇を認めました。Hidatid cyst(エキノコッカス)の破裂で腹膜炎を起した症例でした。Hidatid diseaseの治療としてはプラジカンテル、アルベンダゾールの違いと外科的除去術、PAIR(percutaneous aspiration injection & re-aspiration)といった穿刺術について解説していただきました。

2つ目の症例は42歳ブラジルからの移住者。痙攣で受診し、頭部にCystを認めており、血清検査でNeurocysticercosisと診断。Taeniasolium(有鉤条虫)を豚との接触や人間キャリアとの接触により感染する疾患で慢性期に頭蓋内にCystを形成すると痙攣の原因となります。デキサメサゾンとアルベンダゾールで治療した症例でした。

3つ目の症例は帰国者の発熱で血液培養からSalmonellatyphi(腸チフス)が同定されて診断された症例でした。骨髄穿刺液培養の有用性についても言及されました。

4つ目の症例は典型的なHIV陽性の肺結核とHIV陰性の肺結核について述べていただきました。

写真提供:氏家 無限先生(長崎大学熱帯医学研究所,臨床医学分野 (熱研内科))

(次週、3.Case conference のレポートに続きます。)

記事一覧
最新記事
手感染症――化膿性腱鞘炎を中心に
成人 > ケーススタディ
No. 972022. 08. 10
  • 東京大学医学部附属病院 感染症内科
  • 脇本 優司、岡本 耕
    手感染症――化膿性腱鞘炎を中心に

    はじめに 全身の中でも手指が最も外傷を負いやすいこともあり、手感染症(hand infection)は頻度の高い皮膚軟部組織感染症の一つである。手感染症は侵される解剖学的部位や病原体などによって分類されるが、中でも化膿性腱鞘炎は外科的緊急疾患であり、早期の治療介入が手指の機能予後…続きを読む

    臨床的にジフテリア症との鑑別に難渋したジフテリア菌保菌の一例
    成人 > ケーススタディ
    No. 862021. 01. 29
  • 井手 聡1、2)、森岡慎一郎1、2)、松永直久3)、石垣しのぶ4)、厚川喜子4)、安藤尚克1)、野本英俊1、2)、中本貴人1)、山元 佳1)、氏家無限1)、忽那賢志1)、早川佳代子1)、大曲貴夫1、2)
  • 1)国立国際医療研究センター国際感染症センター
  • 2)東北大学大学院医学系研究科新興・再興感染症学講座
  • 3)帝京大学医学部附属病院感染制御部
  • 4)帝京大学医学部附属病院中央検査部
  • 臨床的にジフテリア症との鑑別に難渋したジフテリア菌保菌の一例

    キーワード:diphtheria、bradycardia、antitoxin 序 文 ジフテリア症は、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染によって生じる上気道粘膜疾患である。菌から産生された毒素により昏睡や心筋炎などの全身症状が起こると死亡…続きを読む

    1週間以上持続する発熱・頭痛・倦怠感と血球減少のため紹介された78歳女性<br>(3/3)
    成人 > ケーススタディ
    No. 662018. 12. 05
  • 日本赤十字社和歌山医療センター 感染症内科
  • 小林 謙一郎、久保 健児、吉宮 伸洋
    1週間以上持続する発熱・頭痛・倦怠感と血球減少のため紹介された78歳女性<br>(3/3)

    本号は3分割してお届けします。 第1号 第2号 *本症例は、実際の症例に基づく架空のものです。 前回のまとめ 和歌山県中紀地方に居住している78歳女性。10日以上続く発熱、倦怠感があった。血球減少が進行したため、血液疾患やウイルス感染症を疑って骨髄検査や血清抗体検査を実施し、重症…続きを読む