黄色ブドウ球菌菌血症のマネージメント (2/3)
(※今号のミニレビューは、3週連続で配信します。)
前回は黄色ブドウ球菌菌血症の合併症、合併症はどのようなときに疑うかを取り上げました。今回は引き続き、黄色ブドウ球菌菌血症の合併症の精査、異物除去、治療期間を検討したいと思います。
合併症の精査では何を行なうか?
画像診断は、臨床症状に応じて考慮します。例えば、脊椎の著明な圧痛があれば硬膜外膿瘍や椎体炎を疑いMRIを行ないます(図1)。合併症を疑う場合に経胸壁心エコーtransthoracic echocardiography;TTEは行なうべきでしょう。
多くの方がご存知のように、経食道心エコーtransesophageal echocardiography;TEEは感染性心内膜炎(IE)の診断において、TTEより感度が優れているとされています(図2)。103人の黄色ブドウ球菌菌血症においてTTEだけではわずか6.8%にあたる7人しかIEを診断できなかったのに対し、TTEに加えTEEを施行したところ、25%にあたる26人でIEが見つかったという報告があり、特に人工弁、ペースメーカーのある患者、房室伝導障害、発熱や菌血症が持続する場合など、IEを強く疑う場合はTEEは重要だと考えます。
黄色ブドウ球菌菌血症による合併症、IEを確実に拾い上げることと、IEの低リスク症例に対して短期の治療を選択する評価のひとつとして、TEEは大切な検査です。また、IEを疑った場合は、超音波所見に依存せずDuke診断基準に従って鑑別していくことも大切だと思います。
異物は除去すべきか?
カテーテル、ペースメーカー、人工関節などの異物の存在は、黄色ブドウ球菌感染症のリスクであるとともに、その治癒を困難にします。黄色ブドウ球菌菌血症において、異物を除去しなかった場合、56%の患者が死亡あるいは再発したのに対し、除去した場合の死亡または再発は16%であったという報告があります。異物の除去がないと根治を困難にし、死亡率も高まるため、異物の除去は強く奨められます。
適切な治療期間は?
黄色ブドウ球菌菌血症の治療期間は極めて悩ましい問題だと思います。古典的には、黄色ブドウ球菌菌血症に対しては4から6週間の静注抗菌治療が奨められてきました。これは前述のように、黄色ブドウ球菌菌血症の25%がIEであったという報告や、青木眞先生の御著書にもあるように、単なる菌血症とIEとの鑑別が難しいことが多く、迷うならばIEと考えるということであると思います。
最近では、より短い治療が可能かどうか検討されています。短期治療を支持する小規模な研究が幾つか存在するものの、合併症のない黄色ブドウ球菌カテーテル関連感染症と、IEの集団において、共に14日未満の治療においては、それ以上の長期治療期間に比較して、明らかに治療失敗が増えるという結果のRCTもあり、少なくとも14日未満の治療は合併症のない場合でも現時点では避けるべきではないかと考えます。
14日の短期治療で終了する条件として、カテーテルなどが除去されていることを前提に、①TEEにてIEの所見が無い、②人工弁や心血管デバイスがない、③最初の血液培養から2から4日後のフォローアップの血液培養が陰性、④抗菌治療開始後72時間以内に解熱している、⑤転移性病変を疑う臨床所見が無い、の①から⑤をいずれも満たす場合を推奨する専門家の意見があります。以上が確認できない場合は4から6週間の静注治療が現在でも推奨されると考えます。
今回は合併症の検索の仕方、異物への対応、治療期間を取り上げました。黄色ブドウ球菌菌血症の合併症検索では、IEを疑うときはTEEを考慮することが望ましく、またDuke診断基準に従って除外・診断していくこと、異物の除去は可能な限り行なうこと、治療期間は原則として4から6週の静注治療を考慮すること、が大切です。
黄色ブドウ球菌菌血症のマネージメントについてまとめた最終回では、黄色ブドウ球菌菌血症の治療薬の選択を取り上げたいと思います。
<参考文献>
1) Sara E.Cosgrove and Vance G. Fowler,Jr:Management of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus bacteremia: Clin Infect Dis 2008;46(Suppl5)S386-93.
2) Lowy FD:Staphylococcus aureus infections.N Engl J Med 1998 Aug 20;339(8):520-32.
3) 青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 p985-989.