発熱・嘔吐を主訴に来院した重篤な既往歴のない60歳代女性(2/3)
(今号は3週連続で配信しています。1号目)
前回までのまとめ
- 軽度の糖尿病はあるが、比較的健康な高齢者が発熱、嘔吐、意識障害をきたしている。
- 身体所見上は、髄膜刺激症状がある。
主治医はこのようなプランを考えました。
「身体所見や経過からは、市中発症の細菌性髄膜炎が疑われる」
「前医ではまったく培養検査がされていないのに、抗菌薬が投与開始されてしまっている」
「細菌性髄膜炎が疑われるので治療は急がなくてはならない」
↓
「血液培養を採取の後、起因菌不明の細菌性髄膜炎としてメロペネム(MEPM)1回2g 8時間毎+バンコマイシン(VCM)1回1g 8時間毎を開始。デキサメタゾン投与も開始」
↓
「そのうえで髄液検査を行おう!」
追加した検査
- 血液培養2セット
- 髄液グラム染色、培養、一般検査、抗酸菌検査
- 尿培養
- CT検査(頭部・胸部~骨盤部)
結果は次のようになりました。
髄液一般: 外観:淡黄色、混濁 細胞数:1209個/μL(単核298、多核911) Glu:67mg/dL(血糖は112mg/dL) CSF/blood glucose=0.59 蛋白:217mg/dL 髄液グラム染色:塗抹陰性 髄液抗酸菌塗抹検査:陰性 髄液ラテックス凝集反応:肺炎球菌(-)、インフルエンザ菌(-)、髄膜炎菌(-)、B群溶連菌(-)、破傷風(-) 頭部CT:異常なし 胸部~体幹部CT:肺炎なし、そのほか膿瘍など、感染のフォーカスを思わせる所見なし |
主治医は考えました。「髄液検査の結果、細胞数の増加、蛋白の増加、糖の低下がある。細菌性髄膜炎として間違いないようだ。でも、髄液グラム染色は陰性だった……」
年齢(60歳以上)、患者背景を考えると起因菌は(1)S.pneumoniae、(2)H.influenzae、(3)Listeria、(4)B群溶連菌、(5)H.influenzae 以外のグラム陰性桿菌が考えられます。
「症状の進行も速いし、頻度の一番多いS.pneumoniae かな。MEPM+VCMなら、これらの菌はすべてカバーしている。これでまずは様子を見よう」
その2日後――。発熱や項部硬直などの所見はほとんど変化なく、意識レベルも悪いままです。転院時に採取した血液培養、髄液培養は陽性とならず、起因菌も同定できないままでした。心エコーでも感染性心内膜炎の合併は認めていません。頭部CTでは両側側脳室の拡大があり水頭症の所見が認められました。
「起因菌が不明で、患者さんの状態は良くならない」。そこで主治医は、少しでも手がかりを得たいと、髄液検査・血液培養の再検を行いました。髄液検査の結果は以下の通りです。
髄液一般(2回目) ・外観:無色、混濁 ・細胞数:410個/μL(単核90、多核326) ・Glu:28mg/dL(血糖は183mg/dL) CSF/blood glucose=0.15 ・蛋白:102mg/dL 髄液グラム染色:塗抹陰性 |
「2回目に行った髄液検査では細胞数や蛋白が減ってきていて改善傾向にあるようだ。でも、そのわりに臨床症状の改善が乏しい。本当に初期治療はMEPM+VCMでよかったのか」。主治医は不安に思いました。もう一度教科書を読み返しながら考えます。
「初期治療としては想定される起因菌をカバーできているようだ。髄液検査も2日前と比べてだいぶ改善しているように見える。少なくとも抗菌薬の効果がまったくないというわけではない。しかし、現在の治療で外しているとすれば(1)抗酸菌(結核)、(2)真菌、(3)ヘルペス属があるだろうか。もう一度、本日採取した髄液で抗酸菌塗抹、ヘルペス属ウイルスPCRを提出して、さらに細菌培養検査ももう一度提出してみよう!」
2日後――。細菌検査室から主治医へ連絡がありました。
「2日前に提出していただいた髄液検体から、たった1コロニーでしたが菌が検出され、質量分析の結果、Listeria 属(グラム染色所見とカタラーゼ試験陽性)と判明しました(図1、2)。あと数日で菌名が同定できると思います。また、抗酸菌塗抹は陰性、ヘルペス属PCRもすべて陰性でした」
この時点でListeria の可能性が極めて高いと考えられました。「Listeria 髄膜炎の第一選択薬に変更していこう!」
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
Q:起因菌はどうやらListeria 属と判明しました。
抗菌薬の選択は? 治療期間は?
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
(つづく)